- C 471話 いざ、外洋へ 5 -
五領の南方地域上空を飛ぶ――
眼下に広がる樹海が切れると、とてつもない大きさの農地が広がってた。
ここが、例のマヌア荘っていう。
実態を知らない五領王と、枢機卿に...
「この航空写真をジンに送り付けてやろうか?!」
って、また余計なことを口走るウナちゃん。
セラフィムが処理したマヌア協定を反故にしたい模様。
「こっちの仕事増やすな、し」
セラフィムから、優しく撫でられるウナ。
怯える彼女は、まだセラフィムの怖さが分かってない。
どうぞ、可愛がってください。
あ、こっちにはこないで......いいからね。
◇
マヌアの規模はもう、荘園というには大きすぎて。
五領の南方が、どの魔王領とも交差しないからか...或いは、未開拓地だからか。
その上空に来るとその尋常じゃない可能性に胸が躍った。
「この地域はこれからどんどん発展していくね!」
「だが、一筋縄じゃない」
うん。
マヌア協定の骨格は、現在4つある辺境公の枠をもうひとつ創設し、マヌアにはその重責を背負わせるものだ。爵位が与えられ、軍事と経済の権限が与えられる辺境公制度。
外から見れば、ローンホール家は躍進したように映り、内から見れば足枷が付いたようにも見える。
ま、当主代行の青年も苦笑いを浮かべてたという。
後者の方として納得した。
「六領にちょっかいを出した青年は、こちら側に“マヌア代王”だと名乗ったそうじゃないか。要するに、だ! 荘園を発展させてきたローンホール家と、それを支えてきた連中にとっては...五領とその魔王は身内でも何でもないって話。いや、それよりも敵くらいに思ってるだろ?」
巨乳姫は、腕を組みながら仰け反ってる。
ブリッジの板ガラスに反射した彼女の四肢が、だ。
ウサギちゃんには癇に障るというか...
自分の姿を振り返る。
ああ、艦長席にはよじ登って座った。
その後は地につかない足をぶらぶら揺らしてる始末――こいつなら、なんの苦も無く“かっこよく”座るんだろうなあって――僻みが湧いてた。
「なあ、ウサギ」
愛称だと思ってたけど...これ、名前でした。
「あん?!」
「顔が怖いぞ?! 可愛いんだから、そんなに眉間...シワ、つくんなって」
女の子にとっての“かわいい”は魔法である。
ちょっと怖い顔をしてても、綻ぶ魔法。
「ば、ばかサル!! か、かわ...もう!!」
「ま、サルは余計だが。マヌアを束ねるのは本当に、どっちだったのかねえ...いや、代王を名乗る青年とそのシンパにとっては今回の協定は、到底受け入れがたいものがある。仮にも王を自称したんだ、魔王と一戦交えた訳じゃないにしても、そういう状況になったとも聞く。いや、聞いた限りでは五領と総力戦になってたかもくらいのやらかしようだろ?」
「うん。セラフィムさんの手応えだと、家族が勝手に暴走しまして~なんて言い訳してたらしいけど。征伐が無ければ、五領王はもっと怒れたと思うって...」
征伐の前に。
そもそも魔王ジンが魔界を出なければ、その武力は損なわれなかった。
そういう隙を見せたのだ。
「そっか、五領王は怒れないか...と、なると...この協定は、彼らにとってデメリットではないのかもね」
「と、いうと?」
ぶらぶらする足が気になる。
腕によって支えられる脂肪の塊からも目が離せない、ウサギちゃんがあるように。
同期のお互いが、お互いに気になるところがあってチラチラ見ていたりする。
そんなのをクルーたちに見せつけて...
《そんなに気になるなら...》
って、気を使わせてた。




