- C 358話 天領始末記 2 -
「お姉さま方、もう一度、ヤウ軍と密談を開きましょう! 議題は、わざと負けてやるから船寄越せ...です!!!!!」
途方もない提案だ。
だが、残存とは言え天領軍の“エリート部隊をも退けた”は、箔が付くどころの話ではなくなる。
これは北方貴族七雄それぞれが負けても、彼らにも彼らなりに言い訳がたつという話になる。
ヤウ公爵軍からすれば、向かうところ敵なしの免罪符を手に入れられ、敗れた方にすれば...天領軍を退けた剛の者ゆえに胸を借りたのだ――とする話になる。
挿げ変わってしまうような魅力的な話なのだ。
それが茶番かもしれない1戦のみで、だ。
肉を切らせて骨を断つ...。
天領軍としては、帰る手段が欲しいだけだ。
戦闘終了後は、まあ大雑把に言って国外退去だろう。
そこで船を接収するのに不都合はない。
「フィズちゃん、かわいいぞ~」
3人から捏ねくり回される。
ただ、この戦闘...
そう単純な方向へ転がることは無かった。
◇
両軍が睨み合う中で始められた混戦。
双方、攻防一体の~激しい戦闘が繰り広げられてた。
木偶人形を相手にした、それぞれの独り相撲が、その実態である。
「うむ、見事に阿呆な構図!!!!」
キルダ・ファイルは、紅茶に鼻先すんすんさせながら口先尖らせ、それをすする。
熱いのが苦手な人のたまにある行動。
「でも傍目だと戦っているように見えるから不思議だよね」
提案者フィズの策。
木偶の方は、甲冑を纏わせた泥人形たちである。
たぶん、こんなトコだよねって当たりで――天領軍の陣地が後退し始める。
お昼が近くなってきた。
セラフィムが頭上を仰ぎ見ると、息を詰まらせ咳き込んでた。
一息に何かを飲んだような雰囲気。
で、
それは起きたんだ。
頭上から、いや、集団のど真ん中に増槽タンクが降ってきた。
中身はがらんどうの空だから、オイルなりが漏れて引火しなかったけど。
ヤウ公爵軍の戦列歩兵陣に落ちたので、かなりの被害である。
「な、なんだ!!?」
ベックは、ヤウの傍から離れ陽射し除けから、飛び出してた。
彼は咄嗟にそうしたんだけど、身重のヤウにすれば旦那がまた逃げたという風に思ったのだろう。
衛兵に連れ戻すよう下知を下す。
彼女から数名が離れた後で...
その陽射し除けの陣屋に、自由落下してきた増槽タンクが着弾。
こっちは未だ少しだけマナが残ってたっぽく、引火のうちに爆発炎上へと移行した。
「あ、れ?」
や、や...ヤウ?
赤黒く燃える本陣地の、焔の中に動く人の影が見える。
腕を差し伸ばすベックを止める近衛たち。
チリチリと、
彼の腕が灼けていくのが分かる。
「勇者殿、ダメです!! 勇者殿!!!!!」
火の勢いが強く、魔法でも消えそうにもない。
いや、そもそもマナの力で燃えているから、消しようもないのだ。
最前線では、
公爵軍の兵士をプチプチと蟻でも潰す様に、粘土巨兵が横滑りしてた。
「ま、マジか?!」
一瞬、失語症にもなる。
かつて骨董品として格納庫に鎮座してた、まさに数百年の間、木偶人形だったゴーレムが生き生きと動いてる姿に絶句する。キルダの記憶では、ボクが魔界に持ち込んで、いろいろ騒動を引き起こした、厄災の獣という印象のようで。
動かないのならば、捨て置いてもいいみたいな扱いだったらしい。
動かないならば...
動いちゃってるよ。
この機体の無双はぶりは、先の四領王都攻防戦でも立証されている。




