- C 357話 天領始末記 1 -
六領軍の撤退を以て、五領征伐は完全に終結した。
――筈だった。
と、いうのも。
これはちょっとした行き違いで、駄々を捏ねるとある集団が居るからだ、が。
北方の港街とその広大な砂浜を占領してた、天領軍上陸残存部隊と――それとにらみ合いとなっている、ヤウ公爵軍との交渉決裂から端を発してた。
賢者レニーホールドと、軍師セラフィム、愛玩動物フィズは軍使・ベックを前にして“ヒトマラダケ”を投げつけ、決闘紛いへと発展してた。
◆
ことの起こりは、占領地返還交渉による条件である。
「――ま、要するに。あたしらはさ、船が欲しいんだわ...天領まで行かなくてもいいんで、沖に居る天領艦隊の部隊と合流したい! それだけ、いやー破格だと思わないかなあ~ 破格だよね~」
レンがふたりに問う。
軍師セラフィムは、静かに頷き、愛玩のフィズも激しく頷く。
そして3人が揃って、胸の高さに両手を合わせ...
「ほら、どうかなあ?」
だって。
それを、だ。
無表情で聞き流すベックがある。
「なんとか反応しなさいよ!」
勇者でしょ?は余計だったかもしれないけど。
その勇者が重い腰でも上げるように、4人の相席たる卓上へマラが載せられた。
“ケモノマラダケ”と同じビッグなサイズ。
「俺たちを情弱だと思って舐めてかかってるのか?! お前らの立場は今や、国際法上でなあ、不法占拠ってヤツだ!! ...ま、10歩譲ってな、実行支配してるっていう港町だか、交易都市だとかで交渉できると思うなよ? この泥棒ネコ共!!!!」
利き腕の拳を握りながら、
ギリギリって音さえも聞こえてきそうな...
「俺たちと一戦交えるつもりが無いってんなら、とっと泳いで帰りやがれ!!!!」
啖呵を切られてしまった。
レニーホールドの思惑は外れた。
いや、六領がもう少し粘ってくれてれば、穏やかな方法もあったのかもしれない。
◇
「と、まあ...そういう流れで、ごめんキルダちゃん」
3人がキルダに謝罪した。
当人は、簡易卓上の上でへたばってる。
「ヤウ軍は?」
「と、いうと...」
俯せのキルダから絞るような声が漏れた。
ま、確認のようにも感じたけど。
「あ、うん。前衛の兵力は5000くらいかな? この地に来るまでに北方貴族七雄というのを平定して回ってるようだから、恐らくは連戦の疲れが少し残る感じかな。ここで仕掛けるんだとして、いやこちらには大義名分が無いんで...私怨に、なるかなあ」
「それでもいい、賢者の意見が聞きたい」
「...っ、そういう事ならば。北方貴族七雄のうち、よっつの氏族を平らげて...残すところ、中央平原では剛勇と名高い名家が残ってる。すべてを平らげ、国内最大版図の何某かを打ち立てるってんなら、ここで負けるわけにはいかないと思うんだわ」
戦えば、ベックとヤウ公爵軍も本気にならざる得ない。
裏を返せば、これらは挑発で...
早々に国外退去して欲しいと考えてる。
と、
「こちらに強硬的な態度を取ったのは、残ってる有力豪族たちに、示しがつかないからとも...言える事か。まったく足元見て来るなあ」
キルダは再び突っ伏した。
机の匂いにも慣れてきたし、なんだか愛着さえ湧く。
「そういう奴だともいえる」
「こっちも脅してみるか?!」
物騒な提案は必ず、セラフィムから提案される。
浜にある陣地の兵力は、2000あるかってぐらいだろう。
ただ、逆に人数が少ない分、士気だけは無駄に高い。
「脅すのはいい。その後が問題だ...あちらは連戦とは言え、残りの氏族から舐められるわけにはいかない。こちらもタダで負けるわけには、いかんのだぞ?!」
フィズの目が、カッと見開き――ぎゃー、ドライアイになるぅ~!!!
ってな茶番を演じたところで、
「お姉さま方、もう一度交渉しましょう!!」




