- C 337話 侵略者たち 12 -
「翁よ...」
声を掛けてきたのは、入植組の班長。
点呼を取って回ってきたところで、
「やっぱり男女比が」
...だって。
ハンドベルからパートナーに関係なく、男たちは女性や若い人々を守った。
戦士たちの傷も深いものから、浅いのもいるけど、当分は戦えそうにないものまで――すこし暗雲が差し込んでいる。ハンドベルの脅威は、その形状でありながら手榴弾じゃなくて高度計が仕組まれた、マナ鉱石爆弾だってこと...つまり、地表から数十メートル付近で、火属性高位魔法の爆発が簡単に起動できるってえ、代物だった。
高度計をゼロ設定にして投げれば、投射から10秒以内に爆発することもできる。
そうやってジンへの攻撃に使われたことも。
さて、この驚異の爆弾さまのせいで。
損失した兵と、入植の為に来た民間人は、道の中央に躯のまま動かない。
最悪なのは、対岸の森へ消えた、千人将と連絡が取れないことだ。
かつての世界では、レシーバーによる意思疎通が出来た。
こちらの世界のように、念話で会話が出来るような機能もない。
取捨選択によって、未来人たちはシンプルな器官を喪失したのだ。
連絡が取れない――これは千人将とて、似た状況なのだろう。
で、坂上から――“芽吹きタマネギ”ちゃんらが降りてきている。
翁と入植者たちは、さらに森の深い方へと入らざる得なくなってた。
《連絡がますます取れなくなった》
と、胸の奥で零してた。
そこへ班長のひとこと。
“男女比の不均等”だ。
「あと何組、送り込めそうか?」
「そうだなあ多少の無理を強いて、20組が...いや、それ以下で、が...限度かも知れねえ。残念ながら若い女性が少ない...入植しても、だ。あとからパートナーを見つけるのは苦労するだろう...どちらか片方ってのは目を惹くし、体裁も良くねえ」
班長の言葉どおり。
村の人間にバレても――「この間、越してきた人たちでしょ?」――くらいなら、1組のカップルが望ましい。大量移住は、閉鎖された世界では珍しすぎるし、噂は命取りだ。とくに、適当に嘘を吐く量が半端なくなる。
しかも、パートナー付きでこうなら。
片方だけの警戒され具合は、相当じゃなかろうか。
男だけの放浪者――人相も身なりも、誤解を生みやすい。
女だけの放浪者――もっと胡散臭い雰囲気で、駆け落ちだとか、まあ良くない噂しか呼び込まない。
どちらも、現地でパートナーを得るのは警戒心の強い村では難しい。
だが、街はもっと難しい。
城門にある検問所は所謂、関所機能がある。
基本、村を転々とする放浪者の入場は認められない――密偵である可能性があるからだ。
出入り自由は、城壁の外にある郊外だけに限る。
「理想を言えば、とっと身軽になりたい」
翁から言われる、班長も苦笑しつつ。
「それは俺もだ。こっちの方は入植組が50だだったし、翁たちも配置を終えれば、国境まで戻って森深いとこで...開拓村とか開く予定なんだろ?」
ジジイは頷き、
周りを見る。
壮年とは言い難いが、ギリひとりは出産めそうな、女性兵士たちの医療班もある。
これらとオオカミに成らずに済んだ、戦士とでパートナーが組めれば...
「それは絵空事だ」
「そうかい?」
そうだともと、言ってやりたかった。
が、その夢も見なかったわけではない。
仲間が爆弾の犠牲になるまでは。
◇
翁とは別の森に逃げ込んだ先の千人将ら、幕僚は周囲の警戒に努めてた。
「翁とはぐれたか...」
装備品の整備、四肢の確認、点呼を取る。
入植者の組が殆ど対岸にあるようだ。
「こちらは戦士と、数人の医療班が...いや、もう班と呼べるかは」
ドクターがひとりと看護兵が3人くらいしかいない。
治癒士ではなく、物理的な西洋医師みたいなタイプがだ。
村や砦を襲った時に採集した、ポーションが頼みの綱だ。
「ドクター?」
「アンプルの在庫も、私が担いでるバックの分しかない。医療班の再編成が出来れば...人数分は確保し得るだろうが」
首を振りながら、
「恐らくは、対岸にもないと思う」
「それは、どういう?」
「どさくさに紛れてたとは思うが、あの爆発の影響では...」
荷物持ちの看護兵だって、逃げるのがやっとに違いない。
或いは道へ投げ捨てた可能性がある。
予備として各自、限定解除型という強化剤が与えられてる。
ただし、狂戦士化の危険薬物ではなく、理性があり時間が経てば元に戻る薬。
“命を大事に”で生産されたわけじゃない――研究者曰く、これは失敗作である!――だという。




