- C 156話 機動艦隊とクァンガイ航空隊 2 -
夜間任務で飛ぶことは珍しくない。
海軍所属の魔法士に支給された34式 灰色箒は、今や連邦魔法士としての証みたいなものだ。
クァンガイのような飛び地領でも、随分と装備が回るようになった。
それまでの装備と言ったら、小嗤いしそうなほど粗末だった。
軍資金の出どころも怪しく、兵士もいや、兵と呼べるかも怪しいレベル農民兵で、体裁ばかりに気を遣っていたようなクチだったと記憶される。
それもここ、半世紀で一変したのだ。
とは言っても、この整備計画は今時点でも、道半ばと言ったところ。
何せ飛び地領が多すぎるし、連邦共和国に帰属したいと申し出る地も多いと聞く。
もっと探れば、原資のほうだ。
グラスノザルツ本国としては、これ以上増える領地の方に頭を悩ませているとも、聴く。
いや、そうした声が総統府から出たというわけではない。
噂が上がったという――。
灰色箒に跨る魔法士たちは、それまでに不自由だった空へ舞い上がり大いに自由を謳歌した。
空へ上がることが苦痛でなくなると、不人気だった航空隊にも活気という明るい言葉が似合うようになった。
そうして今日も、彼らは星空へと上がる。
「綺麗な空だ」
なんて感傷に浸ってると、雲の下にある僚器から念話が入った。
「眼下に艦隊が見える!!」
この通信が海戦の第一報となった。
◆
海上には分厚い雲があった。
東洋の大艦隊の上にだ。
艦隊司令官は珈琲をソーサーで受け取り、底の浅い小さなカップをすする。
「これで星なり、月が出ていれば灯火管制などしても無意味であったろうな」
と、こぼしてた。
が、艦隊の概要はクァンガイ航空隊へと通報された後である。
「それで陸軍の連中は未だ?」
艦隊司令の肩書は中将。
陸軍大臣とは同階級の同郷という仲であるという。
どっちかがいじめっ子で、いじめられっ子とかそういう仲だったらしい。
「そろそろ自分たちの立場というものに気が付いてほしいものだがな、また我が王も陸軍には甘い。何が平和的な解決か、相手もそういう姿勢であるなら通用もするだろうが!? 王家が親類である南洋でも意思が通い合うわけではない」
遠見の鏡の向こうに司令とは2つ上の男がある。
肩章に4つの星であるから元帥あたりだろう。
「...グラスノザルツとは飛び地で接するのは南洋も同じ。確かに侮りがたいが、仮に飛び地を一つの国として考慮し、万全に準備したとして彼ら一つ一つは、然程怖い存在ではない。国力差でも圧倒出来よう...」
「ご懸念はスカイトバーク王国と見てよろしいですか?」
司令と元帥の会話に艦長が耳を向ける。
艦の指揮は副長に任せ、名だたる将校らが司令室にあった。
「御杖商会の話では、ラージコート王国が軍門に下ったという。確実にこちら側へと迫ってきていると外務部は見ている故、南方戦略案は必要不可欠である!!」
かつて“インド”と呼ばれた地には3つの王国がある。
いずれも反目しあっていながら兄弟のように不思議な仲の国がだ。
陸軍国家だから得意な面で見れば、三か国はなかなかにしぶとい。
東洋の陸軍も、
「いたずらに他国を攻めて掌握するよりも、互いの長所を伸ばして事に当たれば万事、良き方向へ流れるものであろう。スカイトバークとは一国で対峙するよりも、他方で包囲する方が金も人材も士気も下げずに済みそうである」と、御前会議では説いていた。
海軍では逃げ腰だと笑われたものだ。
が、攻略対象のハイフォン王国は近代化こそ遅れているものの、北天五公の学者たちの番付けでは“侮り難し”っていうところ。
北天 vs ハイフォンという比較から導き出されてた。
「閣下、もうそろそろ」
と艦長が、懐中時計を見る。
司令も壁に掛けられた時計へ視線を向け、
「作戦の開始時刻に近づきました...」
最終確認だ。
元帥は、手元の分厚い資料を一瞥して、
「橋頭保を作ってこい!!」
「御意」
司令とその他の将校らが首を垂れる。
略式敬礼である。
◆
港街クァンガイの滑走路と、それに面した兵舎、および司令塔に集められたのは所属する魔法士600名である。
一番の年長者は、本国から指導目的で着任している教官ら10名で30歳未満。
6~8年前に現役を退いた魔法士である。
その教官らは“耐性強化対魔法装甲”のコートに袖を通して集団の最前列にあった。
教官から順に17、8歳ほどの高学部、14、5歳の中学と10歳前後の小学部に続く。
熟練魔法士には程遠いが、士気だけは非常に高い観測魔法少年・空戦技兵である。
入隊直後に遺書を書かされて、司令官が預かるという文化。
入隊条件は6歳から4年間で空戦技術などの基礎を修める。
小学部から中学部までの5年間でより複雑な航空艦隊戦技術と戦略の習得に励み、中学部以降は正規隊員として従軍することになる。
夜間飛行で上がってた観測器の報告により、すべての兵士が滑走路に集められた形だ。




