- C 155話 機動艦隊とクァンガイ航空隊 1 -
無線封鎖中の艦隊がある。
灯火制限もされているから、夕闇の溶け込んだソレはルソン島沖にあった。
艦隊だと分かったのは、地元の漁師の証言である。
天草商会の擬装巡洋艦は、商船に成りすまして追尾していた。
「戦艦2、水上器母艦4、軽巡4、駆逐12、補給と輸送船が10くらいは...」
ウイングから双眼鏡で目視している兵が告げた。
船長も同じように双眼鏡で観察してた。
「戦艦のシルエットは見ないな...陸軍に隠れて建造してた高速艦ってヤツか。ったく、国民の血税を何だと思ってやがる」
「うちらも納めてるんで他人事では...」
もっと難しい顔になった。
抑止力としての武装は仕方ない――兵士であるから、自分たちの存在を否定するつもりはない。
ただ持っているから使ってみたいってのは話が別だと御前会議で紛糾するのはソコだった。
確かにスカイトバーク王国の見えない影は恐ろしい。
次々と、周辺国家が陥落しているなんていうきな臭さがある。
400年前の再来でもあるようだ。
「魔王の脅威ではなく、人が人の国を襲うか...いや、覇権主義を掲げてた帝国ってのもあったな」
グラスノザルツの出身者がいたら、立ち眩みでも済みそうにない。
◇
台州から本国に送られる情報。
ハイフォン王国の襲撃を企図した艦隊の捕捉に、成功したと伝えたところだ。
諜報任務用だから止めるすべはない。
「傭兵ギルドにでも依頼してみますか?」
「おいおい、自国の海軍が暴走しているから害獣のように駆除をお願いします...とか、本気で云ってはいないよな? いや、出来得るものならば海軍は一度、痛い目に合うべきだと思ってはいるが...あの船にはわが国民の血税が利用されている。いや、陛下の軍を国民の我々がどうこうするなんて考えも度が過ぎているのだろう」
陸軍大臣のため息は深い。
胃の角あたりがキリキリ痛むようだ。
顔色も良くない。
本国の駆け引きも限界のようで。
最近は反論するだけで、シンパの嫌がらせが部下にも及んでいるという話。
毛のない頭から油も無くなりそうだと、ぼやき始めてた。
「痛い目を見るにしても、痛みが伴ってこそ。痛みのないものは注目もされないでしょう...海軍らを本気で止めたいのならば、やはり心を鬼にする必要があります。陛下はどのようにおっしゃられて居られましょうか?」
深く静かに息を吐く。
大臣の呼吸音が聞こえてくるほど深く飲む。
「そうだな、“出来得るなら、今迄のような関係”をお望みのようだ。いや、外交ルートを繋ぎ当該国とは、よき隣人でありたい旨は外務大臣の方で何とか話が付いているとは聞いている。が、あちらの王はふたり居るというのが厄介だ、ともな」
水面下での探りは複雑だった。
大臣級の渉外活動は上々だ。
少なくとも根回しが出来るほどの好感触はあったが、それは小手先だけという感覚もある。
外務大臣は『現国家元首が国王であるとするならば、一方に肩入れして足並みを揃わせない活動も可能ではあるが、どうにも不気味で仕方ない』と、こぼしている。
仮に戦争まで発展しても、南洋はどの国家元首を旗頭に戦うのかが見えない。
そんな話を天草に零してた。
「門外漢の私には分かりかねますが、必要であれば...そちらも」
「いや、外務部の連中の領分だ。お前が出向いては陸軍らの首も回り難くなる...陛下は、天草学校の陸軍諜報部に期待を寄せてらっしゃる。マナ鉱石の件も含め、解決の糸口を頼むと...そう」
話が途中で途切れた。
大臣は、鏡を布で覆い来客への、応答の後にぷつりと途絶えた。
天草三郎も背中を大きな椅子に預けると、ゆっくり見上げている。
南洋王国の状態は探索済みであった。
仮に大臣から正式な調査依頼が発生した場合に備えて事前に用意した形だ。
外務省の諜報員たちは外務部“御杖商会”という。
まあ、こちらも貿易商という表書きで活動している別組織。
「調べろと言ってくださるまで、待ちはしますが...ね。かの国は今にも内乱が勃発しそうな雰囲気であります。これに乗じて海軍らが勝手をすることは...」
とぼやき、口を閉ざす。
やや、悩むそぶりも見せて――「誰かある」
◆
グラスノザルツの飛び地領は、広域にある。
帝国時代の名残のような説明が多い中、実のところわりと新しいところも多い。
飛び地領の殆どは、かつて借地だったところだ。
領地の運営者が変わる都度、帰属意識が生まれて近年『我が領は帝国領である』なんて言い出す連中が出てきたという流れ。
ハイフォン王国の南、ダラット王国の港街“クァンガイ”もその一つだ。
この地域では珍しく、カラフルなタイルの家に西洋風の城塞を持つ港街。
人々もどこか優雅に思える。
いや、別に郊外に住む人々との落差を差している訳ではない。
少し余裕がある雰囲気なのだ。
文芸や娯楽、財布にと。




