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死に戻ったようなので、次はご都合側妃で結構です 〜 追いやられた“呪いの離宮”で暗殺回避して暮らしていたら 〜  作者: 鳴宮野々花


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4. 大切な侍女

 優しい手つきで髪を梳かれながら、私は鏡に映った自分の琥珀色の双眸を見つめる。その目には疲労が滲み、力がなかった。

 ミアは一層声を落として言う。


「王妃殿下のご執念は、恐ろしいですから……。あのような噂話も、真実味がございます」


 鏡越しにミアと視線が絡み、私は首を竦めた。

 国王陛下の亡き側妃様は、透き通るような儚げな美貌の持ち主で、また、人間離れした不思議な力をお持ちでもあったという。

 彼女が触れた花はいつまでも枯れず、長く雨の降らなかった土地にも、彼女が祈れば雨が降っただとか。

 弱っていた馬に彼女が触れると、翌日にはすっかり元気になっていたとか。手当てを受けた怪我人は、不思議と傷の治りが早かっただとか。

 もちろん、そんな人知を超えた力が本当に存在するとは考えにくく、どこまでが真実なのか今となっては分からない。神々しいほどの美貌ゆえに、いつしか噂話に尾ひれがついたのかもしれない。

 けれどその側妃様は、馬車の滑落事故により、幼い息子とともに帰らぬ人となった。

 事故として処理されたものの、その後の調べで、異常な興奮を引き起こす薬物が馬から検出された。何者かが意図的に馬を暴れさせた可能性は高かったものの、結局、犯人を特定するだけの証拠は見つからなかった。

 ただ当時から王宮内や貴族たちの間では、側妃と息子の存在を疎んじていた王妃殿下が手を回したのではないかと、まことしやかに囁かれていたそうだ。

 真偽のほどは定かではない。それでもそのような噂が長く消えずに残っているのは、王妃殿下が陰湿で執念深く、一度敵と見なした相手には徹底して苛烈な仕打ちをなさるお方だからなのだ。


「ですが、さすがにアウレリア様を手放す愚行はできないと、王太子殿下もお分かりでいらっしゃるのですね。側妃としてお手元に置くことで、優秀なアウレリア様に公務を担ってもらい、ご自分は他の女性にご寵愛を向けようと。そういうお考えでしょうか」


 ミアの言葉に、私はため息混じりに頷く。


「でしょうね。ジョセフ様がご執心のあのブラント子爵令嬢……。同じ学園で同学年だったから分かるけれど、基礎科目の成績でさえ、ぱっとしなかったわ。試験の後に貼り出される成績上位者の順位表に名前が載っているのなんて、一度も見たことがないもの」

「さようでございますか。そのようなお方が、学園の勉強よりもはるかに厳しい妃教育に耐えられるはずがございませんね。王家に嫁ぐとなれば、他にも様々な教養が必要になりますし。幼少の頃より、旦那様や奥様とともに諸外国を回り、多くの国々の礼儀作法や文化を学び人脈を築いてこられたアウレリア様こそ、やはり誰よりも正妃様に相応しゅうございますわ」


 髪を梳き終わったミアが、肩にガウンをかけてくれる。私は立ち上がり、寝台へと向かう。


「そのためだけに、ずっと頑張ってきたんだもの。この王国の王太子妃になるためにね。平和で豊かなセレナ王国を、より良くしたい。飢えや戦のない、民たちが安心して明日を迎えられる国を、守っていきたいの」


 寝台に辿り着くと、私は深く息をつきながら横たわった。


「……はぁ。そのために譲れなかったとはいえ、今日はさすがに疲れたわ……」

「本当にお疲れ様でございました、アウレリア様」


 ミアは再度そう労ってくれる。そして私の体にそっとブランケットをかけながら、柔らかな笑みを見せた。


「アウレリア様のその献身と真心は、必ず民たちに届きますわ。今日大広間にいた他の貴族家の方々にも、アウレリア様のお志は伝わっているはずです」

「……ありがとう、ミア」


 いつも私を信じ、寄り添ってくれるミア。

 仕事ができることもそうだけれど、私はミアの、この包み込んでくれるような優しさが大好きだった。

 妃教育や王妃殿下の態度が辛くてたまらず、家族にも見せられない涙をひそかに流した日も、彼女だけが私のそばで、そっと背中を撫でてくれた。


「おやすみなさいませ、アウレリア様」


 ミアが静かにそう言い、灯りを落とす。

 彼女の穏やかな声に気持ちが落ち着き、その後私は眠りについたのだった。 

 

 数日後、私は父と母、そして両親同様出席できていなかった兄に、祝賀会での一件を報告した。

 国王陛下がその場で私を正妃にすると明言されたことを伝えると、安堵していたものの、ジョセフ様が王家の正式な婚約を公の場で覆そうとしたことについては、呆れ果てていた。


 それからふた月後。

 私とジョセフ様は当初の予定通り結婚し、私は王太子妃となった。

 さらに、そのひと月後。例のダーナ・ブラント子爵令嬢は、普段から王妃殿下と近しい侯爵家の養女となり、ジョセフ様の側妃として輿入れした。

 心を乱されることは、全くなかった。もともとジョセフ様と私の間に恋愛感情のようなものはなかったし、私の目的はあくまで、王国のために力を尽くすこと。ジョセフ様の寵愛を得ることではなかったのだから。

 私は国政や外交に尽力し、側妃にはジョセフ様のお心を癒していただこう。

 私とダーナ妃、どちらが男児をもうけるのか、あるいは両方か、それはまだ分からない。けれど、もし双方に男子が生まれれば、私たちの意思とは無関係に貴族たちが派閥を作りはじめる可能性もある。

 それを抑え、王家が一枚岩であり続けられるよう導くことも、私の大切な務めとなるだろう。


(でもこのままいけば、ジョセフ様の御子を産むのはダーナ妃になるでしょうね。何せ私には一度も夜のお渡りがないのだから。その時は彼女を支え、お世継ぎを立派にお育てすることにも全力を尽くさなくては)


 そんなことまで、私は考えはじめていた。

 

 まさか自分や大切な人たちが、あんな無惨な末路を辿ることになるなんて思いもせずに。






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