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死に戻ったようなので、次はご都合側妃で結構です 〜 追いやられた“呪いの離宮”で暗殺回避して暮らしていたら 〜  作者: 鳴宮野々花


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20. 真面目なレナート

 ヴェルネ離宮へ移ってからというもの、私のもとには多くの手紙が届くようになっていた。

 差出人の大半は、普段から親しくしていた自国の貴族夫人や令嬢たち、そして近隣諸国の王族や貴族たちだった。

 国外の貴人たちからの手紙に綴られていたのは、私がセレナ王国王太子の正妃となる日を心待ちにしていたという言葉や、次にこの国を訪れる際には、王太子の正妃となった私と再会できるものだと思っていた、という戸惑いだった。

 中には、私が正妃となることで両国の交流がさらに深まることを期待していた者や、今後予定されている交易協議の際には、双方の国情を知る私に橋渡し役となってもらいたいと考えていた、という手紙まであった。

 どうやら私は自分で思っていた以上に、国外の人々からも期待を寄せられていたらしい。


(嬉しいような、申し訳ないような……)


 一通ずつ丁寧な返事をしたためながら、複雑な気持ちになる。

 幼い頃から父に伴われ、何度も諸外国を訪れた。そのたびに同年代の王子や王女、貴族家の子女たちと交流し、時にはその国の王や重臣たちとも言葉を交わしてきた。成長してからは両親とともに晩餐などに同席する機会も増え、いつしか国境を越えて、多くの人々と親交を結ぶようになっていた。

 王太子の正妃という地位は得られなかったけれど、これまで私が各国で学び、人と向き合い、一つひとつ育んできた繋がりまで失ったわけではないのだと、何だか胸が温かくなった。


 昼食の後、書類の確認や手紙の返事を書いていると、ミアから休憩するよう声をかけられた。やるべきことに集中していると、毎日があっという間に過ぎていく。

 ソファーに腰かけ、目の前のローテーブルからティーカップを手に取る。ひと口含むと芳醇な紅茶の香りが広がり、心が解けた。

 その時、近くにいたレナートが優しく声をかけてきた。


「大丈夫ですか? アウレリア様。あまりご無理をなさいませんよう」


 私が書類と向き合っている時には決して話しかけてこないレナートだけれど、休憩に入ると、時折こうして言葉をかけてくれる。

 私の専属護衛となった彼は、驚くほどいつも私のそばにいた。

 レナートは離宮に配属された騎士たちを取りまとめ、警備の指示を出したり、夜間は自ら周辺の巡回に出たりと忙しくしている。……はずなのに、私が執務をしていると、いつの間にか壁際に控えている。

 庭園へ散歩に出れば当然のようについてきているし、食事の時には常に食堂にいて、毒見役が口に含む時からずっと真剣な顔で見ているのだ。

 朝から晩まで、ふと顔を上げれば、大抵そこにレナートがいる。

 専属護衛とはいえ、少々そばにいすぎな気がする。彼は休憩をとっているのだろうか。

 気になって、私はそれを彼に問うた。


「私は大丈夫よ。書類仕事は好きだし、慣れているわ。あなたこそ、無理をしないでちょうだい。一体いつ休んでいるの?」


 するとレナートは、白い歯を見せて目を細めた。……何がそんなに嬉しいのだろう。


「気にかけていただき、光栄です。どうぞご心配なく。きちんと休息は取っておりますので」

「本当に?」

「はい。それに、こうしてアウレリア様を見守っている時間は、私にとって少しも苦ではありません」

「……でも、あなたそうやって一日中立っているでしょう?」


 しつこく食い下がると、レナートはますます笑みを深める。


「このようなこと、慣れております。それに……」


 レナートは一度言葉を区切ると、やけに熱っぽい目で私を見つめる。


「あなた様のおそばに侍り、こうしてお守りできるのですよ。今日一日を無事にお過ごしになり、お休みになるまでをおそばで見届けられる。これほど恵まれた任務はありません」

「……そう」

「はい」


 きっぱりと言いきる彼に、感心してしまう。どうやらレナートは、護衛の仕事が相当好きらしい。王国騎士団で将来を期待されていたというのも、この生真面目さを見れば頷ける。


 ヴェルネ離宮での日々は、何事もなく順調に過ぎていった。

 私は王宮へ赴くこともなく、ジョセフ様から送られてくる書類をひたすら捌く毎日を送っていた。

 仕事の合間には、レナートやミアなどを伴い、近隣の村々にも足を運ぶようにした。この先暮らしていく土地で、人々がどのような生活を送っているのか知っておきたかったのだ。

 長い年月誰も寄りつかなかった“呪いの離宮”に側妃が移り住んだと知り、当初村の人々は、ひどく驚いた様子だった。

 私たちの暮らしぶりを窺うような様子も見られたけれど、実際に顔を合わせて話をすることを繰り返すうちに、離宮に対する彼らの警戒も少しずつ解けていった。

 村人たちからはこの地の産業などについて話を聞き、離宮で使う食材や日用品もなるべく近隣から買い入れるようにした。

 そうすることで、離宮と近隣の村々との間には、少しずつ交流が生まれていった。

 そんな暮らしがしばらく続いた頃、国内外から届く手紙の内容にも、少しずつ変化が現れはじめた。

 ヴェルネ離宮での暮らしが落ち着いたら訪問してみたい。茶会を開く予定があるのなら、ぜひ声をかけてほしい。次にセレナ王国を訪れる際には、そちらまで足を延ばして会いに行きたい。そんな言葉が、あちらこちらから届くようになったのだ。

 手紙を読みながらそのことを話すと、ミアは苦笑した。

 

「この“呪いの離宮”でアウレリア様が何事もなく暮らしていると知り、皆様もここが恐れるような場所ではないのだと思いはじめていらっしゃるのでしょうね」

「そうかもしれないわね。いつ招いてくれるのかと、催促めいたことを書いてくる友人までいるのよ。ふふ」


  そう答え、私は窓の向こうへ目をやった。

 庭師たちの手によって少しずつ整えられてはいるものの、庭園にはまだ荒れた場所が残っている。湖畔のガゼボも修繕の途中だ。


「お客様をお招きできるように、早く綺麗にしてしまわなくてはね」

「はい。家令とも相談し、残りの補修箇所や清掃の予定を早めましょう」

「ええ。そうね」


 自然と頬が緩む。百年もの間人々から恐れられ、近付く者さえなかったヴェルネ離宮。そんな場所に、今は国外からも人々が訪れようとしている。何だか少し愉快だった。





 

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