世界一の美女と、元パーティからの着信
「カ、カルビを切りたがってる韓国のスターなんて、俺、
本当に全然知らないんだってば!」
俺は煎餅布団の上で、必死に両手を振って弁明した。
サツキちゃんの大きくて丸い瞳が一本の線のように細く俺に向けられる。
「・・・・・・韓国のスターって、私、そんなこと言ったっけ?」
「・・・・・・」
せっかくサツキちゃんが持ってきてくれた激ウマ確定の肉ナシ肉じゃがタッパーが、彼女の生暖かい怒気で心なしか冷めていく気がする。
サツキちゃんはスマホの画面と俺の顔を交互に見つめ、ジト目を向けたままだ。
「ふーん。でもハジメくん、さっき『生まれて初めてモテてる?』って、
思いっきり声に出してニヤニヤしてたよね?」
「うぐっ・・・・・・! そ、それは、その・・・ あまりにも現実味がなさすぎて、
脳がバグってたというか・・・・・・」
チャンネル登録者数、102万人。
世界1位のSSSランク探索者「リン」の呼びかけ。
海外の美女たちからの熱烈なラブコール。
そんなもの、昨日まで時給700円で衣服が臭いと罵られていたFランクの俺に、
関係あるはずがないのだ。何かのドッキリに決まっている。
ドッキリを仕掛けられるような人物ではないが。
「・・・・・・まぁ、いいけど。ハジメくんが本当に無事なら、それで」
サツキちゃんは、ふう、と小さくため息をつくと、
少し耳を赤くしながらタッパーを差し出してくれた。
「はい、お箸。冷めないうちに食べて。ダンジョンで大変だったんでしょ?」
「サツキちゃん・・・・・・! ありがとう、いただきます!」
ホクホクのジャガイモを口に運ぶ。
旨い。やっぱり世界一の美女の配信より、目の前の肉じゃがだ。
誰が見ても文句なしの美少女なのに、中学の頃からこんな俺を庇ってくれた、
大好きなサツキちゃんお手製の肉ナシ肉じゃが。
かけがえのない幸せなひととき。
ああ、生きててよかった。
嬉しくて嬉しくて、ひとすじの涙がポロリ。ついでに鼻水までポトリ。
しかし、そんな至福の時間をぶち壊すように、俺のボロスマホが再び尋常じゃない音を立てて震えだした。
画面に表示されたのは、見覚えのある名前。
【着信:『天の啓示』リーダー・ロン】
ダンジョン15階層で俺の衣服を「臭い」と罵り、小銭を床に投げつけて俺にクビを宣告したCランク探索者だ。
「・・・・・・ロン?」
俺が恐る恐る通話ボタンを押すと、スピーカーから鼓膜が破れんばかりの絶叫が飛び出してきた。
「おい!!! ハジメ、てめええええ!!! どこにいやがる!!!」
あまりの爆音に、俺とサツキちゃんは思わず顔を見合わせた。
「え、あの、アパートにいますけど・・・・・・」
「ふざけるな! てめえ、あの後何をやった!? 配信の切り忘れで、
お前がサカサタウロスをワンパンした映像が世界中に拡散されてんだよ! うちの同接6万人が全員お前のチャンネルに流れて、こっちは大炎上だわ!!!」
「は? サカサタウロスをワンパン・・・・・・? いや、あれは天井が崩落しただけで――」
「言い訳すんな! 世界1位のリンが『あのパリィは人類の宝』って泣いて、
アメリカのドニー・ポーカーが『ハジメを独占契約する』って大騒ぎしてんだぞ! ギルド本部からも『なぜあんな規格外の探索者をクビにしたんだ』って、俺たちのアカウントが凍結されそうなんだよ!」
電話の奥からは、相棒のヤスが泣き叫んでいるようだ。
『ハジメさん! すみませんでした! 衣服が臭いなんて嘘です!
むしろアロマの香りがしてましたぁぁ!』
「ハジメ・・・・・・いや、ハジメさん! お願いだ、今すぐ戻ってきてくれ!
『天の啓示』のメイン盾・・・・・・いや、副リーダーの座を用意する! 報酬も山分けだ! だから、クビは冗談だったって世界に配信してくれよ!!! お前が中学に入学した時から、俺たちずっとダチだったじゃないか!? な!?」
確かに長い「付き合い」である。サンドバッグが「ダチ」だと言うのであれば、だけどね。
中学に入学した、まさにその日から、「先輩として色々教えてやる」とかいってロンとヤスは俺をいじめていた。
グランドで座らされてビシバシやられてちびってしまった時だったな、サツキちゃんが気づいて、バスケットボールを思い切りロンに投げつけてくれたのは。
俺がそんなノスタルジーに浸る間も、電話の向こうではロンが引き続きわめいている。
プライドをかなぐり捨てて必死に懇願している。
だけど、俺の脳内には、例の可愛い声のアナウンスが冷徹に響いていた。
《――隠しユニークスキル『神速パリィ』が覚醒しています。
これ以上の低ランクパーティへの所属は、スキルの成長効率を著しく低下させます》
「・・・・・・いや、そう言われましても」
俺は、最後のジャガイモひとかけを口に放り込み、至極冷静に答えた。
「俺、クビになった身ですし。それに、もう新しい『専属マネージャー』が目の前にいるんで」
「は!? マネージャー!? 誰だそれ――」
「じゃあ、そういうことで。お疲れ様でした」
ピッ、と通話を切る。
「・・・・・・ハジメくん。私、いつからハジメ君のマネージャーになったの?」
サツキちゃんが、空になったタッパーを抱えながら、顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。
あ、ヤベ。また何かやっちゃいました・・・・・・?
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