世界が大騒ぎ! って俺のこと? なんで?
「はぁ、はぁ・・・・・・死ぬかと思った・・・・・・」
築40年、家賃2万のボロアパート。
万年床の煎餅布団に倒れ込みながら、俺は激しく上下する胸を押さえた。
肺が痛い。喉は鉄の味がする。
「なんなんだよあのダンジョン・・・・・・。崩落の規模がおかしいだろ。
あんな3メートルもあるボスが跡形もなく消し飛ぶような天井崩落とか、
ギルドはちゃんと調査しとけよな・・・・・・」
クビになって本当に良かったかもしれない。
あんな生き地獄、荷物持ちの時給700円で付き合ってられるか。
俺は生き延びた安堵感から、どっと押し寄せた眠気に目を閉じようとした。
その時だった。
ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ!!!!!
「うわあああ!? なに、地震!?」
ケツのポケットが、まるでマッサージチェアのハイパワーモードのように激しく振動を始めた。
驚いて飛び起きて、ポケットからボロスマホを取り出す。
通知。通知。通知。通知。通知。通知。
画面の上部から、見たこともない速度でポップアップが滝のように流れ落ちてくる。
スマホの処理能力が完全に限界を迎えていた。
「熱っ!? なにこれ、爆発する!?」
画面が真っ白になり、スマホが強制終了した。
しばらくフツフツと熱を帯びるボロスマホを冷まし、恐る恐る電源ボタンを長押しする。
数分後、ようやく立ち上がった画面で配信アプリを開いた。
その瞬間、俺の思考は完全に停止した。
通知欄に表示されていたのは、ネットの狂乱だった。しかも世界規模に膨れ上がっていた。
英語なのか何語なのか、まるで見当つかない俺としては、自動翻訳をオンにした。
【世界1位の美女探索者・リンが緊急配信:『あの【神速パリィ】の主は誰!?
誰か教えて! すぐにコンタクト求む!』】
【スクープ! 世界最大手ダンジョン企業の金髪役員不動産王ドニー・ポーカー氏、
社内の中間選挙に向けてハジメ(Fランク)の独占契約を宣言!?】
「は・・・・・・? リンって、あのテレビに出てるSSSランクの美女だよな?
なんで俺の名前が・・・・・・ていうか、ドニー・ポーカーって誰だよ。
中間選挙って会社で選挙なんかやんのか? どっかの国の大統領じゃあるまし」
わけが分からず、俺の配信チャンネルのアーカイブを開く。
そこには、さっきの命からがらの逃走劇のチャット欄が、数百万件のコメントと共に残されていた。
名無しの探索者: 【祝】登録者100万人突破あああああ!!wwww
暇人A: 伝説の誕生の瞬間に立ち会えてマジで感動してる
探索ビギナー: 世界1位のリンちゃんが「あのパリィは人類の宝」って泣きながら配信してたぞ!!
ギルド職員(偽): あのドニー・ポーカーが「我が社の中間選挙はハジメを引き抜いて完全なる大勝利(Make It Great Again)だ!」って金髪振り乱して叫んでて草wwww
裏情報通: ドニーの隣で妻のティラニア様が「そんなFランク、私なら10秒で
奴隷契約にさせるわ」って冷たい目で言っててマジで冷え冷えだったわ
名無しの探索者: 世界の大物たちがハジメ争奪戦始めててワロタ
暇人A: 本人、新幹線スピードで走って帰ったからまだ気づいてないの草。早く起きろや!!
俺は、スマホの右上に表示されているマイページの数字に目を向けた。
【チャンネル登録者数:1,024,893人】
じゅう、ひゃく、せん、まん・・・・・・。
ひゃ、100万人・・・・・・!?
昨日まで、同接11人だった俺の底辺配信が?
ただ天井が崩落して、怖くて全力疾走で家に帰ってきただけなのに?
俺は呆然としながら、誰もいないボロ部屋の天井を見上げて、ぽつりと呟いた。
「なんなの、これ・・・? 俺、また何かやっちゃいました・・・・・・?」
ん?
スペイン美女A: なんて男らしいの! 男の中の男だわ! ワタシのヒーロー!
ドイツのライン娘: かっけー! マジでタイプ!
アルゼンチンのタンゴダンサー: あんなモンスターをやっつけるなんてすごすぎー!
イタリア一の美少女: 一緒にパスタ食べたい! 同じお皿からねwww
ブラジル・カーニバルの美魔女: パスタよりサンバよ! 踊ろうサンバ!
♪ハ・ジ・メ・と・サンバ~!
韓国のネクスト・スター: あなたのためならカルビ、いくらでも切ってあげる♡
・・・・・・なんじゃこれ?
もしかして俺・・・生まれて初めてモテてる?
いや、待て。落ち着け。
そんなわけがない。これは陰謀だ。
どうせどこかの嫌なヤツ(ロンとかヤスとか? 他にも過去を遡ればいくらでもいる)が
俺をおだてていい気にさせて後でぎゃふんとさせてみんなで大笑いするってパターンだろう。
フッフッフッ、その手には乗らねえよ。
そんな見え見えのやり方、いつまでも通用すると思うなよ。俺はもう中坊じゃない。
貧乏かもしれないけど、ちゃんとした大人なんだからな。
「俺は騙されねえぞ!」とスマホを睨みつけていると、ドアがガラッと開いた。
「ハジメくん? 起きてる?」
「あ、サツキちゃん」
「おなかすいてるでしょ? 肉じゃが作ったの」
おお! NIKUJAGA! °˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
今一番聞きたい言葉だったかも知れない。
牛だろうと豚だろうと、肉が入っていなかろうと、
サツキちゃんの手作りほど世界で旨いものはない。
「・・・・・・さつきちゅわん・・・ありがとう・・・」
「もう。泣くことないでしょ」
だってホントにこんなに旨いもの、世界広しといえども絶対他にあるはずがない。
・・・・・・世界・・・といえば・・・
・・・へ?
「・・・・・・なに、これ」
うっ。
サツキちゃんがタッパーを握りしめて、世界の美女たちの「My Hero!」画面を見ている。
「ち、違う。違うんだ。それはただのいたずらで・・・」
「ハジメくん・・・・・・このカルビ切ってくれる女・・・だれ・・・?」
「・・・・・・し、知らない」




