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神速パリィ、発動!

俺の前に高層ビルのようにそびえ立つ巨大なボス、サカサタウロス。

武器もない。逃げ道はない。

恐怖とマイナス20度の寒さで、体はガチガチに固まって動かない。動けない。

俺は鍔を飲み込んだ。


「せめて最後に、俺が死ぬ証拠を残してやるか」


ボロスマホの配信ボタン。何とか指を動かしてポチっと押す。

配信開始。同接は、安定の「11人」。


《現在の視聴者:11人》


いちいちアナウンスせんでもわかってるって。嫌味か。

ボロスマホのくせにこういう機能だけはちゃんとついてんだよな。


名無しの探索者: おいおい、誰かと思ったらFランクの荷物持ちの配信じゃん。


暇人A: なんで15階層のボス部屋の前に一人でいんの? 自殺志願者?ww


探索ビギナー: バックパックも持ってないし丸腰じゃん。これマジで死ぬやつでは?


名無しの探索者: 通報したほうがよくね? 規約違反だろこれ。


ギルド職員(偽): クビにされた腹いせにボスに突撃とかウケるwww

配信画面バグっててハジメの顔青ざめてて草。


ハハ。ありがとよ。俺の最後を見届けてくれ。

怖くてちびりそうだ。

幸い、腹の中は空っぽで、大きい方は大丈夫。

配信で匂いまで伝わらないとはいえ、そんなビジュアルまで見られるのはちょっと耐えられない。

俺にだって一応プライドってもんがあるからな。


しかし、まともに食えないってことにこんなメリットがあったとはね。

下半身に力を入れて必死に耐えるのみだ。

どうせ散るなら少しはカッコつけて散りたい。

あばよ。


ボスが動いた。

俺の頭めがけて、巨大な石斧をワインドアップし始めた。

ワールドシリーズのピッチャーじゃあるまいし、やるならさっさとやれよ。

俺のセルフコントロールにも限界があるんだから。


ヤツの腕が高く上がる。

目を閉じた。

サヨオナラ。

その瞬間、脳内に、今度はけたたましい音が鳴り響いた。


――《神速パリィが強制発動します》


なんか、ちょっと甲高くて可愛い声だな。声優さんみたいな。

最近第2部が始まったあのテレビドラマのアレみたい?


さっきはそんなことに気づきもしなかったのに、人間、死ぬ瞬間ってすげーのかも。

意識が研ぎ澄まされて、とかさ。


ん?

俺の右手が、勝手に、ものすごいスピードで動いた。

俺の意識とは関係なく。

「は? え? えっ?」


カツン。


俺の右手が振り下ろされた巨大な石斧の側面をカツンと軽く弾いた。

次の瞬間、


《スキルの効果、電撃波100%反射、発動します。発動します》


ドゴォォォォォォォォォン!!


グワッ。グエッ! グフッ!


ダンジョン全体が震える大爆発が起きた。


「なに? なになに!?」


《今すぐ伏せましょう。地面にうつ伏せになります》


「い、言われなくても分かるよそれくらい」

俺はミノムシのように地面に倒れ込む。


スマホの画面の向こうでは、11人のリスナーが尋常じゃない速度で文字を打ち込んでいたが、地面に突っ伏している俺には見えるはずもなかった。


名無しの探索者: は??????????????????????


暇人A: え、え、え、今の手なに?? カメラ揺れすぎて見えない


暇人B: 待って今の音なに!?!? 新幹線通った???wwww


探索ビギナー: ボスの石斧を素手で弾いたように見えたんだけど!?!?


名無しの探索者:【悲報】ボスさん、カツンとされて消滅wwwwwww


暇人A: カメラ揺れすぎて何も見えん!!


ギルド職員(偽): おいハジメ! 生きてるか!? 返事しろ!!


暇人B: 待って、同接数が急に50人に増えてるんだけど! 誰か切り抜き拡散した⁉


名無しの探索者: Fランクがボスをワンパンwwww 神回すぎるだろwwww



黒い煙が立ち込め、何も見えない。

おっと、そういえば配信どうなったかな、と一瞬思ったが、今はそれどころではない。

遠くの方から微かに人の声が聞こえた気がした。

ボスは――

・・・・・・ボスは?


いない。


体調3メートルのサカサタウロスが、跡形もない。


俺は呆然とした。


「・・・・・・んなアホな。ボスったら、どこに隠れてるんです?

奇襲攻撃としゃれこむことにしたんですか? やめてください、心臓に悪すぎるです。

(ケホッ)今の爆発なに? なんだったの?」


土埃とデブリが地面に落ち着き始め、周囲が少し見えるようになってきた。

右、左、上・・・・・・お、天井が崩落したようだ。サカサタウロスはどこにもいない。

ひょっとして・・・潰されたのか?

危ねえ。

なんちゅうダンジョンだ。自然の力+ダンジョンマジック、恐るべし。


今までに何人もの探索者がここに入っては帰ってこなかったって聞いてたけど、

もしかしたらみんなが言うように、命を奪ったのはサカサタウロス――だけじゃなかったのかもな。


多少のかすり傷はともかく、俺はどうやら命拾いしたようだ。

もしかしてツイていたりして? わお、そんなの初めてだ。

だって、天井が崩れてくれてなきゃ死んでたぞ、サカサタウロスに殺られて。


あるいは天井が俺の上で崩れてたら、同じく死んでた。

ここまで危険な場所だとは知らんかった。

人を雇うときにはそういうことってちゃんと言ってくれないと。

まあ、クビになった今文句いったところでしょうがないけど。


いや、そんなことはどうでもいい。

また崩落したらどうするんだ!? 今度こそマジで死ぬぞ。

俺はパニックになり、荷物も持たずに地上の出口に向かって全力疾走を始めた。


肺が焼けるように痛い。マイナス20度の空気が喉に突き刺さるが、

そんなことを気にしている余裕はない。

15階層から地上まで、普通なら数時間はかかるはずの距離だ。

なのに、なぜか自分の足が信じられない軽さで前へ前へと進む。

「神速パリィ」の効果で、発動後の移動速度が100倍になっていることなんて、

テンパっている俺が知る由もなかった。


「はぁ、はぁ、ひぃ、死ぬ! 嫌だ、 死にたくない! 親に捨てられて、周りに虐げられて、

それでもここまで這いつくばって生きてきたんだ! こんな理不尽な場所で終わってたまるか!」


惨めな怒りと悲鳴を交互に上げながら、俺は新幹線並みのスピードでダンジョンの通路を爆走していた。


焦りすぎて、俺のボロスマホのカメラが今の「ボス瞬殺の瞬間」と俺の顔をばっちり映したまま、

つまり生配信中であることに全く気づかなかった。


その間にも、俺のボロスマホの画面は、今まで見たことのない速度で文字が嵐の波のように流れていた。


名無しの探索者: おいおいおいおい! こいつ走るの早すぎだろ!! www


暇人A: 景色が一瞬で後ろに流れていって草。新幹線かよwww


探索ビギナー: ボスを一撃で消滅させてからの、この爆走・・・・・・こいつマジで何者?


ギルド職員(偽): 同接、ついに1万人突破したぞおおお!! お前ら拡散すんなよwww


音を置き去りにする勢いで走る俺と、大炎上を始めた配信画面。

最底辺のFランク探索者が、世界をひっくり返す大バズりを起こすまで、あと数時間だった。


第2話をお読みいただきありがとうございました!

「ハジメ、新幹線より早くて草」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、

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