第4話:区星
――中平四年(一八七年)、荊州長沙郡。
宛の城を落として三年、孫堅は、長沙の太守になっていた。
低い家に生まれた男が、ついに一郡の長官になった。程普も、その下で、隊を一つ預かる身になっていた。
その長沙で、区星という者が、叛いた。
自ら将軍と名乗り、一万を超える衆を集めて、郡のあちこちの県を襲い、城を囲んだ。一郡の太守の手勢では、数で、まるで足りなかった。役所の者は、都へ救援を乞うべきだと言った。賊が一万なら、こちらも一万を待ってから、と。
孫堅は、待たなかった。
「囲まれている県は、今、焼かれている。一万が揃うのを待つあいだに、民が死ぬ」
孫堅は、手元の兵だけを率いて、城を出た。程普は、その横にいた。
孫堅の戦い方は、宛の城壁のときと、同じだった。数で劣るのを、速さで埋めた。区星の一万は、寄せ集めだった。あちこちの県を襲って膨れた、統率の緩い大群だ。孫堅は、その大群の、どこがいちばん緩いかを、ひと目で見抜いた。宛の城壁の一点を見据えた、あの目だった。
いちばん緩い一角へ、孫堅は、自ら先頭で突き入った。
一点が破れると、一万は、内側から崩れた。烏合の衆は、囲んでいるあいだは強く見えるが、一度どこかが裂けると、雪崩のように崩れる。孫堅は、その裂け目に、休まず兵を注ぎ込んだ。区星の大軍は、ひと月も経たぬうちに、散った。区星は、討たれた。
程普は、味方の少なさを思い、勝った後で、背に冷たい汗をかいた。
もし、最初の一突きが、緩い一角でなかったら。もし、孫堅の見立てが、一つでも狂っていたら。手元の兵だけで一万に挑むなど、負ければ全滅の賭けだった。だが孫堅は、賭けとは思っていない顔だった。勝てると見たから、出た。それだけの顔をしていた。




