↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志 ―正史群像―  作者: ソリトん
第三章 根こそぎ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/135

第6話:報せ

 ――初平四年(一九三年)、鄄城(けんじょう)。


 荀彧は、鄄城に残って、曹操の留守を預かっていた。

 兵糧を集め、人を配し、州の政を回す。曹操が剣で広げた地の上に、荀彧が政の骨を組む。その働きは、滞りなく進んでいた。兗州は、青州兵を得て、ようやく一つの力としてまとまりかけていた。

 そこへ、徐州から、報せが届いた。


 曹操の父、曹嵩(そうすう)が、殺された。

 戦を避けて東の地に身を寄せていた曹嵩が、徐州牧の陶謙(とうけん)の領を通る途中で、陶謙の部将、張闓(ちょうがい)の手にかかった。護送を任された張闓が、曹嵩の財貨に目が眩んだのだ、ともいう。曹操の弟も、ともに殺された。

 荀彧は、その報せを、曹操のそばで聞いた。


 曹操の顔から、いつもの、冷たく測る色が、すっと引いた。

 代わりに、荀彧の見たことのないものが、その下から現れた。荀彧は、それを、はっきりとは名づけられなかった。怒りとも、悲しみとも違う、もっと底の、熱いものだった。


「徐州を攻める」


 声は、低かった。低いだけで、いつもの声とは、まるで別のものであった。


「陶謙を、討つ」


 荀彧は、すぐには、言葉を返さなかった。


 陶謙を討つ。それは、分かる。父を殺された子が、その仇を討つ。理屈は通っている。

 だが、荀彧には、見えていた。曹操が討とうとしているのは、陶謙一人ではない。徐州そのものだ。父を奪われた痛みを、徐州の土地と民の、すべてにぶつけようとしている。荀彧が、袁紹を捨ててまで選んだ男――わずかな手駒を使い切り、乱世を鎮めるはずの男が、いま、私の痛みのために、一州を焼こうとしている。

 荀彧は、止めなかった。

 止めて、止まる熱ではなかった。それに、荀彧は、まだ、曹操に賭けていた。この熱が過ぎれば、また、あの冷たく測る顔に戻る。戻った曹操が、天下を鎮める。荀彧は、そう信じることにした。信じることにして、徐州へ向かう曹操を、見送った。

 ただ、いつもより、口数は少なかった。

 兵糧を送り、留守を固め、為すべきことを為した。為しながら、荀彧は、自分が選んだ男の底に、一度、冷たく測る色とは別の何かを見たことを、胸の隅に、しまった。しまって、鍵をかけた。だが、しまったという事実は、消えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。