第4話:火を招く
――中平六年(一八九年)、洛陽。
そこへ、袁紹が、策を持ち込んだ。
四方の猛き将を、都へ召し寄せればよい、というのだ。涼州の董卓をはじめ、并州の丁原ら、兵を率いる者たちを都へ向かわせる。その威で、太后に迫る。外から武が押し寄せれば、太后も折れ、宦官を誅すしかなくなりましょう――袁紹は、そう説いた。
四世にわたって三公を出した名門の貴公子が、堂々と、それを言った。
背は高く、物腰は落ち着き、立っているだけで人の集まる男だった。その男が言うと、危うい策も、なぜか正しく聞こえた。何進は、その勢いに、引き込まれていった。
曹操は、その場にいて、笑った。
低い、短い笑いだった。それから、言った。
「宦官を除くだけのことだ。元凶の一人を捕らえ、一人の獄吏に引き渡せば、それで済む。なぜ、わざわざ、外の将を都へ呼ぶのか」
座が、静かになった。曹操は構わず続けた。
「皆殺しにしようとすれば、必ず漏れる。漏れれば、こちらが敗れる。そして、外から兵を呼べば、都に入った者のうち、いちばん強い兵を持つ者が、主になる。宦官を除くつもりが、もっと大きな獣を、自分から招き入れることになる。私には、その敗けが、もう見えている」
盧植も、同じことを説いた。董卓は、信を置ける男ではない。一度都に入れれば、二度と出ていかぬ、と。主簿の陳琳も、鄭泰も、口々に諫めた。兵を外から呼ぶのは、刀の柄を人に握らせて、自分は刃のほうを掴むようなものだ、と。
だが、何進は、袁紹の策を採った。
使者が、四方へ走った。
涼州の董卓のもとへも。并州の丁原のもとへも。曹操は、走り去る使者の背を、黙って見ていた。
火を消すために、火を招く。袁紹は、それを、名望と勢いで正しいと信じていた。何進は、自分では決められぬまま、その勢いに乗った。決められぬ者と、勢いで押す者と。二人が組んで、いちばん危ういほうへ、転がっていく。
曹操は、止められなかった。校尉の一人の声は、貴公子の名望には、届かなかった。曹操は、それ以上は言わなかった。ただ、自分の見た敗けが、どんな形で都に降りてくるのかを、冷ややかに待つことにした。袁紹という男が、勢いで正しさを押し切ったとき、何が起きるのか。曹操は、それを、胸の奥に、深く刻んだ。




