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25 Dの独白(2)

 ――ということはなく、数週間後、お茶会に招待されることになった。招待状の差出人は、アレクシア王女――王位第一継承者のユーリの姉上である。

 かのじょは、ディーを拾った人物でもある。

 前王率いる暗殺部隊所属だった幼き日のディー――これは仮の名であり、本来はNo.4と呼ばれていた――は、前王の死とともに部隊が解散されたことから、この非情な世界に放り出されたのである。暗殺者としての生き方しか知らなかったNo.4は、アルファベットの四文字目をとってディーと名乗るようになった。適当に貴族にでも雇われにいくか――そんなことを考えていると、ある日、隠れ家にとある高貴な人からの使者がやってきた。

 その人物曰く、一生寝食に困らない生活と身分を用意してくれるという。戸籍がなかったディーは、このうまい話にとりあえず乗ることにした。合わなければ逃げればいい。そんな、軽い気持ちで使者についていったのが、すべてのはじまりだった。

 雇い主は、驚くべきことに、この国の王位第一継承者、アレクシア・アッシュヴィルドだった。五年前の当時、ディーが十三だったから、かのじょは十八歳――まだ高等部に在籍する生徒だった筈だ。

 かのじょは、王位第三継承者、ユリウス・アッシュヴィルドの護衛を探していた。初等部に通う彼は、たいそうな護衛嫌いらしく、手を焼いているのだという。

 ユリウスの中等部入学とともにディーも学院に入り、うまいこと彼に近づけとのことだった。

 所詮は箱入り坊ちゃん、そんな簡単な任務でよいのかと、ディーは一も二もなく了承した。

 ディードリヒ・ナイツェンというご立派な名が与えられ、一年後、他の者たちとは二歳遅れで、中等部に入学したというわけだ。

 ユーリと仲良くなるのは容易だった。当時のユーリは、王族という名に寄ってくる連中ばかりで軽い人間不信に陥っていた。けれど、こちらは裏社会出身なのだ。酸いも甘いも噛み分けた人間が、言葉巧みに近づいていったのだ――彼の興味を引くことは容易いことだった。

 共に街へ下り、魔物を討伐し、時に悪いことも教えてやれば、彼がディーに懐くのは一瞬だった。

 しかし、そこで誤算が起こる。アレクシアからの使者と接触しているところを目撃されてしまったのだ。

 ユーリは、ディーを問い詰めた。君は姉上の手先の者だったのか。ああ、そのとおりだ――ディーはそう答えるほかなかった。けれど、こんな言葉も付け加えて。

『ユーリ君だから、仲良くなりたいと思ったんだよ』

 その言葉は、本心から出たものだった。自分でも、驚いたくらいだ。

 裏社会出身の自分に、友人などというものができたことはなかった。けれどユーリと共にあるうちに、自然と笑っている自分がいることに気付くようになった。ああ、自分は、このひとのことを、友人だと思っていたのだろう――そのとき、ディーは理解したのだった。

 ユーリはその言葉に溜飲を下げたのか、ディーが護衛であることを受け入れた。それ以来、さらにふたりの仲は深まっていった――


 話をお茶会の件に戻そう。ユーリは、シュカが参加してくれるかどうかを危惧していた。当然だ、かのじょは面倒ごとを嫌うから。

 けれど、ディーはシュカがお茶会に参加するだろうと思っていた。変に裏がないかのじょなのだ、痛くもない腹を探られるのは、うんざりだろう。此処らで身の潔白を証明しておきたい筈だった。

 案の定、シュカはお茶会に参加することを選んだ。盛大なため息つきだったが、いつものことである。

 お茶会は、たいへんお上品なものであった。つまるところ――息が詰まった。

 アレクシアもシュカも、微笑みを浮かべながら丁寧に会話する。表面上は良好な仲に見えたが、お互いが互いの腹の裡を探り合っているのがわかり、ユーリの後ろに控えているディーは、脳内で素数を数えだしたほどであった。勉強嫌いのこの自分が、である。つまりはそれだけ退屈だったのだ。

 ユーリはときどき気の利いた質問を姉に振っていたが、難なく躱され、話はいつの間にかシュカの件に戻っている。

 この国では、外国人でも経歴や思想に問題がなければ国家職につくことができる。暗にこの国に残ることもできるのだと告げていたのには、驚いた。どうやら、アレクシアはシュカのことを気に入ったらしかった。

 ユーリとおいたをしていることを軽く叱られたときには冷や汗が出たが、問い詰められるようなことはなかった。基本的に、自分も信用されているのだろう。

 こうして、お茶会は御開となった。

 そうそう、おもしろかったことと云えば、学院に戻ったときの周囲の生徒の反応である。

 シュカは、大変整った顔立ちをしている。それをいつもは前髪と眼鏡で隠しているわけだが、お茶会のメイク係により、それはそれはうつくしく仕上げられていた。

 ユーリの美貌には見慣れていた生徒も、これには驚いたことだろう。

 後日、ユーリやディーに加え、シュカのファンクラブも設立されたという話を聞いたときには、腹を抱えて笑ってしまった。


 シュカは、ユーリに懐かれたこと以外は順調に学園生活を送っているようだった。ほかにも友人ができたらしく、ユーリが焼き餅を焼く場面もあったほどだ。本来穏やかで心優しい気質をしているかのじょのよさに気付く者が出てくるのは、当然のことだった。

 そんなふうに微笑ましくシュカを見守っていたところ、事件は起こったのだった――

 十二月に入り、冬の気配も色濃くなってきたころ、シュカが憂鬱そうにしていることが増えたのだ。

 どうしたのかとユーリが声をかけるも、かのじょは素っ気ない態度でとりつく島もない。

 ディーは静観を決めこむことにしたのだが、ある日、シュカが熱っぽそうな顔で登校してきたことからすべてがはじまった。

『――ゆうじん? ああ、そういえば、そうでしたね』

『私のことを友人だと云っていたのは嘘だったというわけかい?』

『そうですね。貴方がそう云ってほしそうだったので口にしていたのは事実です』

 それはだめだよシュカ君――そう口にしそうになったが、あまり具合がよろしくなさそうなかのじょに云っても意味をなさないだろう。

 ディーはむくれるユーリを置いて、とりあえずシュカを医務室へと連れて行った。

 教室へ帰ってからも、ユーリはそっぽを向いている。わかりやすく拗ねていた。

 まあ、当然だろう。あれだけ仲が深まったように見えて、まるで友人だと思われていなかったというのだから――

 しかし、ディーにはかのじょを怒れなかった。自分も、ユーリがはじめての友人だったのだ。それまでは友人なぞいたこともなく、意味もわからなかった。寧ろそう云うかのじょのほうに親近感を覚えていたのは内緒だ。

 いっしょに見舞いに行くかと聞いても口を開かないユーリを置いて、ディーはシュカを寮へ連れていった。着替えてもらっているあいだに、白湯を準備していると、同級生のノエルが部屋を訪れた。

 友人がわからないというシュカに、ノエルは自分のペースでよいと教えていた。女の子は成熟が早いものである。それに比べてユーリときたら――

 シュカを寝かしつけて寮室へと戻ると、しばらくしてユーリが訪ねてきた。シュカの調子はどうかと聞きにきたのだった。そんなに心配なら観に行けばいいだろうに。矜恃が許さないようだった。このように子供っぽいユーリはひさびさに見た。それだけショックだったのだろうが、悪いようにはならないだろうと、直感が告げていた。

 翌日、教室に顔を見せたシュカは、友情というものをそこはかとなく理解したようだった。

 ユーリとも無事仲直りし、真の友人となったと云えるだろう。

 めでたしめでたし――ってね。


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