第九十八話 暗躍する者たち
前回投稿したモノを書き直しました。
読んでくださった方、申し訳ありませんでした。
「ご主人様が幹部会に?」
酒を注いだグラスを手に、フウはノインに聞き返す。
「クリス様を含む上級幹部のみが召集された重要会議だ」
ノインはテーブルに置かれた酒ビンを手に取ると、自分のグラスに琥珀色の液体を注ぎ入れる。
「上級幹部のみを召集って、何を話し合うんだよ?」
「議題は、お前が報告した魔人の事だ」
「……魔人か」
フウは足を組むと、手に持ったグラスに口を付ける。
魔人に関しては、ケインやセリカから聞いた事を冒険者ギルド総本部に報告していた。
青薔薇団の団員はあらゆる場所に潜伏している。
潜伏している団員から、青薔薇団の本拠地に連絡が行ったのだろう。
「異世界から現れた魔人、これを機に青薔薇団を表社会に進出するべきかどうかの議論がされている」
琥珀色の液体をすすり、ノインは渋い顔で唸った。
「秘密結社が表舞台にね~。 ……ご主人様は、どう考えてるんだ?」
「クリス様は、まだ組織は表に出るべきではないとのお考えだ……だが」
「何か問題でもあるのか?」
「クリス様を含む古参の幹部は保守的なのだが、新参者の幹部が急進的でな、議論が紛糾しているそうだ」
「新参者の幹部って、誰だよ?」
「……レオーネだ」
「獅子王!?」
フウが思わず声を上げた。
巨大な組織である青薔薇団の中では、その大部分を占める下級幹部や構成員たちが上級幹部とじかに顔を会わせる機会はまずなかった。
とくに最高位の上級幹部たちは、下の人間にはその存在すら明かされていない場合が多い。
フウもご主人様以外、どういう幹部がいるかほとんど知らない。
だがそんな中で、フウも知っている上級幹部が獅子族の女闘士レオーネであった。
数年前に、かなりの数の獣人を引き連れて青薔薇団に加入した人物である。
弱肉強食、強い者が上に立つと言う獣人らしい考えの持ち主であり、自らを真の獅子族の王、獅子王と名乗り他を寄せ付けない力と圧倒的なカリスマで瞬く間に上級幹部に昇りつめた。
あの女なら、これを機に表舞台に打って出ようと言うのも分かる気がした。
「クリス様は貴様をペットとして手元に置いておくほどの重度のケモナーだからな、それが少々心配でな」
「棘のある言い方だな、まぁその心配も分からなくないが……」
後方彼女面をするノインを軽く睨むと、琥珀色の液体を飲み干す。
「フウ、確かお前は以前、レオーネに仲間にならないかとスカウトされていたな」
「あぁ確かに傘下に入らないかって誘われた事はあるが断ったぜ。 わたしが仕えるのはご主人様だけだ」
空になったグラスに酒を注ぎながら、フウはノインに正直に答える。
だが、ご主人様と出会う前に獅子王に会っていれば、その誘いに乗っていたかもしれない。
それほどまでに獣人や闘士の心を惹きつける強い魅力を兼ね備えた人物であった。
ちなみにフウの故郷、サバナ王国の獣王である獅子王とは別人である。
「……そう言えば」
ノインが何か思い出したかのように呟く。
「少し前だが、レオーネに会ったぞ」
「いつだよ?」
「クリス様から聞いていないか? 隣国にあったアジトが潰されたと言う話」
「前にご主人様が訪ねて来た時に聞いたな、そう言えばあの後始末お前がしてるって言ってたっけな」
「その時、裏切者の猫族の獣人を始末する為にそのアジトに来ていてな、例の連中と一戦交えたそうだ」
ノインの言葉に、フウは酒を飲む手を止めた。
例の連中とは、アジトを潰したSランク冒険者パーティーの事である。
そのパーティーには、Sランク冒険者の他に、黒髪の男と、フウにも因縁のある狼少女がいた。
「って言うと、あの黒髪と?」
「いや、実際にレオーネと闘ったのは、一緒にいた狼娘の方だがな」
「……結果は?」
「レオーネの圧勝だったそうだ」
「マジかよ!」
狼娘の実力は、フウもよく知っていた。
なにせ一度負けているのだ。
それを圧勝とは、獅子王を名乗るのは伊達ではないと言う事か……。
「狼娘は半殺し……いや、全殺しか、一度心臓が止まったそうだからな」
「殺されたのか!?」
「もっとも、すぐに黒髪の男が荒っぽい処置で蘇生させたそうだが」
それを聞き、フウは安堵する。
一度負けたとはいえ、拳を交えた相手の訃報は聞きたくない。
そこでふと冷静になる。
「……それ、何か月か前の話だったよな」
「そうだが」
「つい先日、魔人を倒したって言うSランク冒険者のパーティーにいたって言う獣人って」
「彼女よ」
フウはそれを聞き、今度は頬をひくつかせた。
「マジかよ……半殺しの目にあったっていうのに、よくやるぜ」
同じ獣人としてそのタフさには称賛に価する。
「情報では、魔人の一体を倒したのは、その狼娘だそうよ、今回も重症を負ったみたいだがな」
「この短期間で、どれだけ修羅場潜ってんだよ、あのメスガキ」
「貴様もウカウカしてられないんじゃないのか? 次に会った時にだいぶ実力に差が出るんじゃないの?」
酒を口にしながらノインがフウを煽る。
「ケッ、言ってろ」
再びグラスに口を付けながらフウは、ふと気になった事を口にした。
「なぁノイン、今回の魔人事件どう思う?」
「何がだ?」
「な~んかモヤモヤするんだよな~、まぁ私が直接魔人とやらと戦ってないからかもしれねぇけど」
「野生の勘と言うやつか」
「それによ、ここんとこ厄介ごとが続いてる気がするんだ」
フウは酒を口にしながら、ここ最近の事を思い出す。
「今回の魔人事件に女神教の襲撃、各地での魔獣の活性化に、ダンジョンの異常進化、天使候補に極めつけは勇者さまときたもんだ」
「確かに、全てが偶然とは思えん、組織のアジトを潰されたのも含めてな」
歴戦の闘士であるフウは、何とも名状しがたい予感を感じていた。
その予感は、融合魔法剣士のノインも感じ取っている。
「フウ、わたしはこの後、聖龍国へ向かう」
「聖龍国へ、何で?」
聖龍国。
世界最大のドラゴン教の総本山である。
商人ギルドや冒険者ギルドなどの総本部がある重要な所在地でもあった。
「彼女たち冒険者パーティーの行き先が、旅の経路を見る限り聖龍国だと思われるのよ。 おそらくドラゴン教の者がSランク冒険者に依頼して、黒髪の男を連れて行くのでしょうね」
「組織の命令では、あの男に手を出すなって言われてなかったか?」
「手は出さないが監視は必要よ、それにあの連中を相手に私ひとりじゃ手に負えないわ」
秘密結社、青薔薇団の計画の一つである勇者計画のひとつの成功例であるノインの実力は、フウは嫌というほど知っている。
その彼女をもってしても黒髪の男に加えSランク冒険者、おまけに獣人の闘士ふたり相手では分が悪すぎる。
それにノインは一度、黒髪の男と戦い惨敗していた。
「あいつら聖龍国へ何しに行くんだ?」
「正確には、聖龍国にある聖龍山でしょうね」
「おいおい、まさか龍の戦士に会いに行くってんじゃないだろうな」
龍の戦士。
200年前の世界大戦、勇魔戦争で魔王を倒し終戦に導いた伝説の人物である。
「だから監視に行くのよ、組織は魔人の件を重要視してるみたいだけど、クリス様はこっちの方が重要だと思って私を派遣するのよ」
勇者……と、思しき黒髪の男と、伝説の龍の戦士。
この二人が出会った時、何が起こるのかは未知数であった。
「勇者VS龍の戦士か……最高の対戦カードじゃねぇか」
「止めて欲しいわ。 どうなるか見当がつかない」
「まっいいさ、精々巻き込まれないように気を付けな、わたしは天使の坊やのお守してっから」
闘士として、この対戦カードは興味あるがご主人様の命令が無い以上この地を離れる訳にもいかない。
「天使……確かケイン=シルフィードとか言ったか、魔人を倒した若き英雄と呼ばれているそうだが、どんな子供なのだ?」
「一言で言えば優等生だな、真面目で堅実で模範的な品行方正、清廉潔白を絵に描いたような坊やさ」
フウの脳裏にケイン=シルフィードと、彼の傍に寄り添う狂気と邪悪さを抱えたクエルの姿を思い浮かべる。
「そのケインと言う少年に関して、少々気になる話があるのだがな」
「気になる事? なんだよそれ」
そう言うとフウは空になったノインのグラスに酒を注いだ。
二人の会話は夜遅くまで続く。
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