第九十六話 魔人討伐報告
元凶であった魔人を倒したクエル。
魔人を倒し、ダンジョンコアを破壊したことで神殿から放たれていた魔素も、闇の気配も消えていた。
森に溢れかえっていたダンジョンモンスターも消滅し、これで森から魔獣が押し出される事もないだろう。
あとは街へ向かっていた魔獣が森へ帰ってくれれば良いのだが。
そう思いながら神殿を後にしたクエルたち一行は、元来た道を戻り森を抜ける。
森の入口へと戻ったクエルたちは、置いていた馬に乗り領都へ向けて走り出す。
広野を馬で迂回しながら駆け抜けると、領都の前で人だかりを見つけた。
一行が人だかりに近づくと、クエルたちに気がついたのか数人が駆け寄って来る。
「クエル様っ!」
声を上げて駆け寄ってきたのはガーランド家のメイド、エリスたちであった。
エリスたちメイドは、クエルの前に整列すると。
「「「「「「「 クエルお嬢様、ご無事で何よりでございました 」」」」」」」
一斉に頭を下げ、クエルを出迎える。
「エリス、心配をかけたな、わたしもケインも無事だ」
「お~い、ウチらも無事だぞ~」
背後で声を上げるフウを無視して、セリカがエリスに尋ねる。
「エリス、魔獣どもはどうなった? 街の状況は?」
「魔獣たちは少し前に森へと撤退していきました。 街への被害はゼロでございます」
どうやら思惑通り、ダンジョンモンスターが消えた事で魔獣たちは森へと帰ったようだ。
周りを見渡せば、そこかしこに魔獣の死体が転がっている。
その魔獣の死体を、冒険者たちが荷車に乗せていた。
かなりの数の魔獣の群れが、街を襲おうとしたのは明白である。
エリスたちの活躍が無ければ、この魔獣の大群を相手に街の被害をゼロにはできなかっただろう。
「皆の者、よくぞ街を守り抜いてくれた。 褒めて遣わす」
「クエル様、身に余るお言葉をいただき、ありがとうございます」
エリスを含めたメイドたちが深々と頭を下げる。
彼女たちの顔は、クエルの期待に応えられた安堵の表情を浮かべていた。
「みなさん、街の防衛を手伝っていただき、ありがとうございます」
「シルフィード様お気になさらず、我々はやるべき事をしたまででございます。 さぁ街の者たちがシルフィード様を待っておいでですよ」
エリスはケインに頭を下げると、手の平を領都へと向けた。
クエルたちはケインを先頭に、シルフィード領都の門を潜り抜ける。
門を抜けると、通りには住民が待ち受けていた。
ケインを見た途端、住民たちが声を上げる。
「ケイン様だっ!」
「若き英雄のご帰還だっ!」
あっという間に人だかりが出来ると、ケインと取り囲む。
すると、周囲の住民たちの中から、見知った者が歩み出て来た。
「ケイン様、ミレーヌ様、心配しておりました」
冒険者ギルド支部のギルドマスター、モーガンであった。
「モーガンさん、ご心配をおかけしました」
「お二人がご無事で何よりでございます」
貴族であるケインとミレーヌの二人を、魔獣の溢れる森へ行かせた責任を感じていたのだろう。
モーガンは、ケインとミレーヌの無事を見届けると胸を撫で下ろす。
「それでケイン様、森のダンジョンモンスターはどうなりましたか?」
「ダンジョンコアを破壊したことで、森にいたダンジョンモンスターは消滅しました」
それを聞いたモーガンは振り返ると、住民たちに聞こえるように大きな声を上げる。
「みんなケイン様が森のダンジョンモンスターを消滅させたぞ! 街は守り抜かれた! もう安全だ! 」
モーガンの安全宣言に住民たちがワーと歓声を上げた。
「さすがはケイン様だ!」
「我々の英雄だ!」
「「「「「「 ケイン様! バンザーイ! バンザーイ! 」」」」」」
住民たちは両手を上げ、ケインを盛大に称える。
そんな称賛されるケインを、フウはつまらなそうな顔で眺めていた。
「何だ、喝采を浴びるのは坊やだけかよ」
「しょうがないですよフウ殿、なにせケイン殿はこの街の英雄ですから」
フウとミレーヌの会話を聞きながら、クエルはほくそ笑む。
これでいい。
クエルを含むガーランド家の関係者は闇の住人である。
脚光を浴びるわけにはいかない。
世間の注目がケインに集まってくれるのは好都合である。
クエルはケインの影に隠れていれば良いのだ。
「……嬢ちゃん、悪っるい顔してんな~」
「ケイン殿の名声が上がることが嬉しいのでしょう」
邪悪な笑みを浮かべるクエルを、ミレーヌとフウが引き気味の表情で見つめていた。
◇
冒険者ギルドでは、街の防衛に参加していた冒険者たちが祝勝会を開いている。
ドンチャン騒ぎのギルドの中、クエルたち一行は応接室に移動していた。
応接室には、魔獣の素材置き場で作業していたサブギルドマスターのリーズも加わり、神殿で何があったかのモーガンと共にケインからの報告を聞いている。
「魔獣の氾濫は、仕組まれたものでした」
ケインの報告を聞いたモーガンは、驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべ声を上げた。
「ケイン様、それはどういうことでしょうか?」
「魔人と名乗る者たちがダンジョンコアを使い、人為的にダンジョンモンスターを生み出していたんです」
「魔人!?」
驚くのも無理はない。
魔獣の氾濫が、人為的に起こされていたのだから。
同じく報告を聞いていたリーズが、不安げな表情でケインに尋ねる。
「ケイン様、その魔人というのは何者なのですか?」
「闇の種族です」
「闇の種族……まさか、魔族!?」
「いえ、魔族とは違う、別の世界の闇の種族のようです」
ケインには街へ帰ってくる間に、魔人から聞いた話という事にして情報を共有していた。
魔人の事を冒険者ギルドに報告するのであれば、セリカたちよりケインの方が良いだろうという判断である。
「彼らは魔人にとって住みやすい環境を作り出そうと、魔獣を使って瘴気を生み出そうとしていたんです」
「そのために、魔獣を使って街を襲わせたのですね」
「ケイン様、その魔人はどうされたのですか?」
「ガーランド家の執事さんたちの力を借りて、僕が倒しました」
モーガンはちらりと視線を動かして、クエルの背後に立っているセリカとエリスを見やる。
今回の防衛で、エリスたちの実力は嫌というほど見せつけられていた。
「何はともあれ、魔人に関しては冒険者ギルド本部を通じて、冒険者ギルド総本部に報告しておいた方が良いだろう」
フウが会話に割り込むようにして、モーガンに提案する。
「例の他国で起こった類似の事件、間違いなくその魔人が関わっているからな」
「わかりました。 それと魔人の事については、みなさん他言無用でお願いいたします」
モーガンの言う事はもっともであった。
下手に魔人の事が住民に伝わると、要らぬ混乱を招くことになる。
「わかってるよ、心配するな」
それくらい心得てるといった感じでフウが返事をする。
とは言えクエルたちは、そのような事を守る気はない。
各自、魔人のことを報告しなければならない者たちがいるからだ。
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