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第九十一話 魔族VS魔人


 ジャラジャラとアクセサリーの音を立て、クエルはセリカを従えて通路を歩いて行く。


 しばらく歩き続けると、クエルの前に華やかな装飾の施された扉が立ちはだかった。


「どうやらここが、終着点のようだな」


 扉はクエルを迎え入れるように音もなく開いた。


 何者かが誘っているのは明白である。


 青い瞳を細め、クエルは唇を吊り上げると扉をくぐった。


 部屋の中は、祭壇状の二層になった広間。


 クエルの視線は、その広間の一番奥、階段の上にえられた玉座に向けられた。


「ようこそ、侵入者たちよ」


 玉座のひじ掛けで頬杖ほおづえをつき、口元へこぶしを添えて腰を降ろしている男が、やってきた二人を見つめて口を開く。


「ここまで辿り着ける人間がいた事に正直驚いているぞ。 それもこんな小さな少女が来るとは思ってもいなかったよ」


 立派な顎髭あごひげを蓄えた男に、クエルはいぶかしげに目を細める。


「貴様が、この森に魔素をばら撒き、ダンジョンモンスターを生み出し、魔獣を追い立て、街を襲わせている。 魔人とやらのリーダーか」


「如何にも、私の名はローヴェル。 お見知りおきを小さなお嬢さん」


「クエル=ガーランドだ」


 怪訝な顔をすると、クエルは前に歩み出た。


「貴様の部下アルゴとツィーレンと言ったか、奴らから聞いたぞ、世界征服が目的らしいな」


「やれやれ、お喋りな奴らだ。 お嬢さんが聞いた通り、この世界を我々魔人のモノにするのが目的だよ」


「ならば答えてもらうぞ。 お前たち魔人は何処から来た」


「何の事かな?」


とぼけるな、この世界に魔人などと言う魔の種族は存在しない」


 この事は、魔族であるセリカに聞いて確認済みである。


 彼ら魔人がどこから来たのか、確かめる必要があった。


「ふふふ、よかろう、ここまで来た事に敬意を表してお答えしよう。 我々はお嬢さんとは別の世界から来たのだよ」


「別の世界?」


「魔人の世界、君たち風に言えば異世界と言った方が良いかな」


「異世界ですって!?」


 この世界にとっては、ある意味聞き馴染みのある言葉。


 かくいうクエルもまた、異世界の記憶を持った悪魔である。


 転生者である天使や、転移者である勇者など、その多くはチキュウと言う異世界からこの世界に来ている。


 ローヴェルの言う魔人の世界と言うのは、また別の異世界なのだろう。


 異世界とは、無数に存在しているのだ。


「お嬢さんは知らなかっただろうが、我々は長い年月をかけて、この人間界を掌握するための準備をしていた」


「準備? 魔素まそをばらまき、瘴気しょうきを生み出す事?」


「察しが良いねお嬢さん、この世界には我々魔人に必要な瘴気が少なくてね。 部下やわたしのような上級魔人でなければ長く生きられないのだよ」


「その為にダンジョンコアを利用して、各地で混乱を引き起こしたのね」


「ダンジョンコア、あれは良いモノだったよ。 ほんの少し手を加えるだけで溜め込んだ魔力を魔素として大量に放出できる。

 後は生み出されたモンスターと人間が勝手に戦うだけで瘴気が生まれ、魔人が住みよい世界になっていく」


 得意げに話すローヴェルに対し、クエルは失笑する。


 つまり、彼らは他の魔人を呼び込む足場を作るために送り込まれた先兵と言ったところであろう。


「残念だけど、その計画は失敗よ」


「……なに?」


「なぜなら、このわたしクエル=ガーランドがお前たちの計画を潰すのだから」


 クエルはコートのすそを跳ね上げると、腰から竜骨棍りゅうこつこんを取り出しローヴェルに突き付ける。


 すると、クエルの前にセリカが歩み出た。


「……セリカ?」


「お嬢様、ここはわたくしめにお任せを」


 セリカにとって、クエルを守り、手柄を立てる絶好の機会である。


 それを察したクエルは、セリカに汚名返上のチャンスを与える事にした。


「……よかろう。 セリカ、お前の実力をわたしに見せてみよ」


 竜骨棍を再び腰に戻すと、クエルは後方に下がる。


「ありがとうございます」


 セリカが胸に手を当て頭を下げると、階段の上の玉座に座ってるローヴェルに向けて手招きをする。


「降りてこい、貴様の相手はわたしがする」


「君は?」


「わたしはクエルお嬢様に仕える執事、セリカ」


「なるほど、小さなお嬢さんがここまで来れたのは、君のおかげの様だね」


 ローヴェルは玉座から立ち上がると、階段を下りてくる。


 そして、セリカとローヴェルが対峙した。



 クエルはヘブンリーフを取り出すと、桜色の唇に咥え火を付けた。


 紫煙しえんくゆらせ、クエルは、セリカとローヴェルの二人を眺める。


 魔族と魔人。


 同じ魔に属する者でありながら、相容れない別の世界の住人。


 問題はどちらが強いのか? どちらの闇がより深いのか?


 見ものである。


 もっとも、ローヴェルの方は、セリカが魔族と言う事を知らないが。


「いい目をしている……血しぶきがこびりついた刃物のような目だ」


 ローヴェルは腰に差していた一振りのサーベルを引き抜くと、切っ先をセリカに向ける。


「君には何か、惹かれるものがあるな」


 本能的にセリカの闇を感じ取っているのだろう。


 だが、セリカはまったく意に介した様子はない。


 表情にわずかな変化を見せることなく、ローヴェルを見据える。


「貴様と仲良くお喋りする気は無い。 それより、魔人とやらの姿にならなくても良いのか?」


 セリカは特に構える事もなく、自然体で立っている。


「心配は無用、擬態を解かなくとも、わたしは部下どもより強い」


「後悔する事になるぞ」


「ふっ、後悔するのは……そっちだっ!」


 そのひと言の直後、ローヴェルの身体が突如としてブレた。


 閃きが宙をなぐ。


 ヒュッ! ガッ!


「むっ?」


 余裕の表情であったローヴェルの顔色が変わる。


「……何だこれは?」


 セリカは、己の首を狙った刃を指先で掴んでいた。


「魔力を帯びた魔道具ならいざ知らず、ただの剣でわたしを斬れるとでも思ったか?」


 指先に力を込めると、パキンッと音と共にサーベルが折られる。


 魔族であるセリカにとって、ただの剣など枯れ枝を折るくらい簡単な事であった。


「ほぉ、なかなかやるではないか」


 ローヴェルは剣先の折れたサーベルを一瞥いちべつすると、床に投げ捨てる。


「少々きみの事を侮っていたようだっ!」

 

 ローヴェルが手を手刀の形に伸ばし、セリカのみぞおちに飛んだ。


 鋭い刃物のような手刀。


 食らえば胸を貫かれ、鮮血を撒き散らす事になる。


 ガシ!


「……女の胸を狙うとは、ずいぶんと破廉恥な奴だ」


「なっ!?」


 セリカはローヴェルの手刀を、手首を掴み防いでいた。


 そしてメギッ!っという音と共に、ローヴェルの手首を握り潰す。


「うわあぁぁっ!」


 広間にローヴェルの悲鳴が響き渡った。


 セリカはローヴェルの悲鳴を聞いても顔色一つ変えず、握っている手首をじり上げる。


 逆関節をとられた格好になったローヴェルは、足をピンッと伸ばしつま先立ちになった。


 そのまま手首をひねり上げると、ローヴェルの肘がベギッ!っという音と共に折れ、更にビシュッ!と肉を突き破り骨が露出する。


 それを見たクエルは。


(魔人にも人と同じように、骨があるんだ)


 っと、ヘブンリーフを吸いながら、まるで他人事のように思った。


「あくっ……あっ……てっ、てっ……あああああああっっっ!!!!!!」


 絶叫するローヴェルだが、手首をセリカに握られているため倒れる事も出来ない。


「シュッ」


 息を吐く音と共に、セリカがローヴェルの両膝を蹴る。


 ローヴェルの両足が曲がってはいけない方向に折れ曲がった。


 セリカが手を放すと、ローヴェルは床に膝から崩れ落ちる。


 そして、ドゴッ!っと、膝立ちするローヴェルの顔面をボールの様に蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされたローヴェルの身体が階段に叩きつけられ、石でできた階段が砕け散る。


「だから言ったであろう、後悔する事になると……」


 セリカは執事服を両手で整えると、倒れているローヴェルに素っ気なく呟いた。


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