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第八十六話 類似


 翌日。


 クエルたちの滞在している宿に、冒険者ギルドから使いの者が訪ねてきた。


 大事な話があるとの事でクエルたち一行は、冒険者ギルドを再び訪れる。


 中へ入ると、ギルド内は相変わらず冒険者たちであふれ返っていた。


 クエルたち一行に気がついたギルド職員が直ぐに駆け寄ると、クエルたち一行を応接室へと案内する。


 応接室には、既にギルドマスターのモーガンと、サブギルドマスターのリーズがソファに座って待っていた。


「ケイン様、ミレーヌ様、お呼び立てしてしまい申し訳ございません」


 モーガンとリーズが立ち上がると、頭を下げ謝罪する。


「気にしないでください、モーガンさん、リーズさん」


「そうよ、今のわたしたちは、冒険者なのだから気にする必要は無いわ」


 そう言うと、ケイン、ミレーヌ、フウ、クエルはロングソファに腰を下ろす。


 それに倣い、モーガンとリーズもソファに座り直した。


 クエルの背後にはセリカとエリスが控え、他の使用人たちはいつも通り部屋の外に待機している。


「それで、わざわざ呼び出したって事は、魔獣の魔石化について何か分かったのか?」


「はい、王都の冒険者ギルド本部経由で、聖竜国せいりゅうこくの冒険者ギルド総本部から返信が届きました」


「ずいぶんと速い返信だな」


「えぇ」


 モーガンが神妙な面持ちで、フウに応える。


「それでモーガンさん、何が分かったんですか?」


 ケインが身を乗り出す。


 この件に関して、ケインも気になっているのだろう。


「実は、魔獣の魔石化現象なのですが、冒険者ギルド総本部に類似の事件が報告されておりました」


「何ですって!?」


「魔獣の森で起きている現象が、他でも起きてたってのか!?」


 シルフィード領都以外で、魔獣の魔石化事件が起きている事に、ミレーヌとフウが驚きの声を上げる。


「数日前、冒険者ギルド総本部に魔獣の魔石化現象の報告があったところに、今回こちらの件が新たに報告された事で総本部は大騒ぎだそうです」


「冒険者ギルド総本部に報告されていた類似の事件と言うのは、解決しているんですか?」


「はい、こちらが冒険者ギルド総本部から送られてきた、魔獣の魔石化事件の報告書になります」


 ケインの質問に、リーズが手にした封筒から資料の束を取り出すとテーブルの上に置いた。


 その場の全員が、その資料に注目する。



 事の発端は、とある小さな町の冒険者ギルド支部と連絡がつかなくなった事だった。


 不審に思った冒険者ギルド本部は、偶然近くにいた一組の高ランク冒険者パーティーに町の様子を見てきて欲しいと依頼する。


 冒険者パーティーが町に到着すると、町はすでに濃い魔素まそに覆われており大量の魔獣によって占拠されていた。


 それを見た冒険者たちは、即座に魔獣を排除する為に戦う事となる。


 冒険者たちが魔獣を叩きのめしていると、倒した魔獣が光り輝き、魔石の原石に変わったそうだ。


「……この現象、いま魔獣の森で起きている事と同じですね」


「魔素の広がりに、魔獣が魔石の原石になる事まで一緒だな」


 資料を読みながら、ケインとフウが低く唸った。


「それもだけど、この冒険者パーティーも凄いわよ。 少人数で町を占拠していた魔獣を駆逐しているわ」


 ケインとフウの呟きを受け、ミレーヌの声が上がる。


 資料には、町を占拠していたダンジョンモンスターを一掃した冒険者たちは、その後、町の教会に立てこもっていた住人たちを救出した。


 救助した住人の情報を元に冒険者たちは、魔素の発生源と思われる町の近くの塔に突撃する。


 そこで冒険者たちは『なにか』と交戦。


 そして、塔の地下でダンジョンコアとおぼしきモノを発見、破壊に成功した。


 ダンジョンコアが破壊されると、町を覆っていた魔素は消えて無くなり、ダンジョンモンスターも消滅したとの事らしい。


「突発的な遭遇戦だったにも関わらず、事件を解決するなんて……」


「ふんっ、確かに凄い冒険者パーティーかもしれないが、この報告書、本当に信用できんのか?」


 資料を読み終えたフウは、どこか苦々しい表情をする。


 フウが資料に疑問を持つのも当然であった。


 特に、塔へ入ってからの事が曖昧で、そこで何と戦ったのかも書かれていない。


「この魔獣の魔石化事件の資料ですが、我々にもここに書かれている以上の事はわかりません」


「ですが、この事件を報告した冒険者の一人は、あのSランク冒険者ですので、信用できるかと」


「「「 Sランク冒険者!?!?!? 」」」


 ケイン、ミレーヌ、フウが同時に驚きの声を上げた。


 Sランク冒険者と言えば、世界に数人しかいない超実力者である。


 ふと、それを聞いたフウは、ある人物たちの事が脳裏をよぎった。


 まさかと思いつつも、フウはモーガンに尋ねる。


「……なぁ、そのSランク冒険者のパーティーに、狼族の獣人が居たりしなかったか?」


「詳しい種族まではわかりませんが、獣人が二名パーティーメンバーにいたようです」


「……そうか……」


「フウ殿、誰か心当たりでも?」


「あ~いや、何でもない、忘れてくれ」


 手をパタパタと振り、フウは話題を変える。


「話を戻そう、この資料に書かれている事が魔獣の森で起きている事と同じなら、このダンジョンコアを見つけ出して破壊すれば少なくとも魔獣の活性化は治まるはずだ」


「そうだけれど、肝心のダンジョンコアがどこにあるかわからないわ」


「……多分、昨日話していた建物にあるんじゃないかな?」


 資料を読んでいたケインが、ミレーヌの疑問に答える。


「あぁそうだ、例の建物の攻略書は探しておいてくれたか?」


「はい、こちらになります」


 モーガンがフウに薄い本を手渡した。


 フウは攻略書をパラパラと捲り、ざっと目を通す。


「ふ~ん……思っていたより広くて大きいな」


「ここに、そのダンジョンコアがあるのかしら?」


「可能性は高いと思うよ」


「まっ、他に手がかりも無いからな。 坊やの言う通りまずは可能性の高いここを調べて……」


 その時、廊下からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。


 そしてバンッと、応接室のドアが勢い良く開かれる。


「失礼しますっ!」


 部屋の中に飛び込んできたのは、ギルド職員の男性であった。


「何事だ」


「お話し中のところ申し訳ありません。 ギルドマスター緊急事態が発生しました!」


「何があった?」


「森の監視を依頼していたレンジャーから報告がありまして、魔獣が森から溢れ出し領都に向けて移動を始めたとの事です!」


 ギルド職員の報告に、その場にいる全員に緊張が走った。


「魔獣の数は?」


「数えきれないほど大量との事です」


 それを聞いたモーガンは、直ぐに指示を出す。


「リーズ、騎士団の警備隊本部へ連絡を、住民を避難させるんだ!」


「わかりました」


 モーガンの指示を受け、リーズが応接室から出て行く。


「君は緊急の防衛依頼を出して冒険者を集めるんだ! わたしも直ぐに行く!」


「了解しました」


 リーズに続いてギルド職員も応接室から出て行く。


 騎士団を最終防衛ラインとして、前線では冒険者が魔獣と応戦する事になる。


「わたしたちも街の防衛にあたりましょう」


「うん」


「二人とも待て!」


 ミレーヌとケインが立ち上がり、部屋から出て行こうとするのをフウが止めた。


「魔獣の氾濫がダンジョンモンスターのせいなら、元を絶たないとジリ貧だぞ!」


 魔獣が森から溢れ出てきたのは、森の奥のダンジョンモンスターに押し出されてきているからだろう。


 フウの言う通り、元を絶たなければいつまでも魔獣が押し寄せてくる。


「それなら、僕たちでダンジョンコアを破壊に行けば……」


「でも、わたしたち抜きで、街の防衛は出来るの?」


 ミレーヌは、自惚れで言っているのではない。


 実力だけで言えばAランク冒険者に匹敵するミレーヌとケイン。


 そして、正真正銘のAランク冒険者であるフウを抜きに街の防衛は出来るのか?


 三人の視線がモーガンに向けられる。


「ギルドに出入りしている冒険者で実力がありそうなのは、Cランク冒険者とDランク冒険者が数名、あとはEランク冒険者がほとんどです」


 戦力的にかなり厳しい。


 ミレーヌとフウを街に残し、ケインひとりで例の建物に向かうと言う選択肢もある。


 だが、天使であることを隠しているケインが、一人で森に向かうとなると要らぬ疑惑を持たれてしまう可能性があった。


「くそ、Aランク冒険者とは言わねえが、せめてBランク冒険者が三、四人いてくれれば」


 フウが忌々しげに吐き捨てると、拳を手のひらに打ちつける。


 どうするべきか?


 ケインが悩んでいると……。


「お困りのようですね」


 その声にハッとなり、ケインたちは声の方に視線を向ける。


 そこには、今まで声を上げず沈黙を続けていたクエルが、不敵な笑みを浮かべていた。


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