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第八十三話 報告


 応接室に入るとクエル、ケイン、ミレーヌ、フウがロングソファに腰かける。


 クエルの背後にセリカとエリスが控え、他の使用人たちは部屋の外に待機していた。


 しばらくすると応接室の扉を開け、サブギルドマスターのリーズと、青年が部屋に入って来た。


「どうも、昨日はギルドを留守にしていた為ご挨拶が出来ませんでした。

 シルフィード領都、冒険者ギルド支部のギルドマスターをしております。 モーガンと申します」


 ギルドマスター、モーガンと名乗った青年は一礼すると、クエルたちの対面に座った。


「あなた方の事はリーズから聞いております。 魔獣活性化の調査報告との事ですが……何かありましたか?」


「あぁ、まずはこれを見てくれ」


 フウはそう言うと、テーブルの上に袋を二つ置いた。


「拝見いたします」


 モーガンが袋の一つを開けて中を確認する。


 袋の中には、ゴブリンの耳がいっぱいに詰まっていた。


「これは……ゴブリンの耳ですね。 それにしても大量だ、さすがはAランク冒険者と言ったところですか」


「なに、その害獣はわたしじゃなく、ここにいる二人が狩ったもんだ」


 フウが親指を立てると、横に座っているケインとミレーヌを指差す。


「そうでしたか、さすがは若き英雄ケイン=シルフィード様と、剣聖ミレーヌ=ソレイユ様でございます」


 クエルはケインが褒められるのを聞き、まんざらでもない表情を浮かべる。


「っで、問題はそっちだ」


 フウがもう一つの袋を指差した。


「確認させていただきます」


 モーガンが、もう一つの袋を開ける。


 中には、魔石の原石がぎっしりと詰まっていた。


「これは……魔石の原石ですか?」


 袋の中から、モーガンは魔石の原石を一つ取り出す。


「小粒ですが、加工すれば良い魔石や魔地まちになりそうで……」


 指先に摘まんだ魔石の原石を見ていたモーガンは、そこで言葉を切った。


「……この魔石の原石、どこで手に入れられたのです? まさか、森の中にコアダンジョンが?」


「それなら、話が単純だったんだがな」


「どういう事でしょう?」


「そいつは、森の中にいた魔獣を倒したら魔石の原石に変わっちまったんだ。 言ってる意味わかるか?」


 異常性に気が付いたモーガンは、フウの言葉に息を呑んだ。


「まさか、魔獣が魔石に変わるなんて、聞いた事がありません」


「わたしも長いこと冒険者をやっているが、こんな現象は初めてだ。

 この事を王都の冒険者ギルド本部経由で、聖竜国せいりゅうこくの冒険者ギルド総本部に問い合わせて欲しい」


「総本部にですか!?」


「総本部なら、この異常な現象の前例があるかもしれないからな。 いずれにしても、この件は報告しておいた方が良いだろう」


「わかりました、魔道通信室で魔道通信石を使う事を許可しますので、ご一緒に説明をお願いします」


「……あの、一つ良いですか?」


 フウとモーガンの会話に、黙っていたケインが口を開いた。


「何だい、坊や?」


「森から帰ってくる間、ずっと考えていたんです。 フウさんには否定されましたけど、やっぱりあの魔獣はダンジョンモンスターだと思うんです」


「ケイン殿、何故そう思うのだ?」


「ボクたちが倒した魔獣がダンジョンモンスターだと考えれば、今回の魔獣活性化の状況に説明が付くと思うんだ」


「どういう事?」


「フウさん、地図を出してもらえますか」


「地図? あぁ、いいぜ」


 フウが荷物から地図を取り出しケインに手渡すと、ケインはテーブルに地図を広げた。


 その場の全員が、地図に注目する。


「森の入口付近でボクたちはゴブリンの集落を見つけました。 これが既におかしいんです」


「確かに、魔獣が森の入口近くに集落を作る事は、普通は無いからな」


「そして、この辺りで魔石に変わったリザードの集団に遭遇しました」


 地図上に指を置くと、ケインは指をスーとスライドさせる。


「ちょっと待ってください。 みなさん、そんな森の奥まで行ったのですか!?」


「はい」


 モーガンがケインの指差す場所を見て、目を見開いて驚いた。


 なぜならば、冒険者ギルドの調査隊ですら、その様な森の奥までは行っていない。


 クエルたちは簡単に森の奥まで行ったが、それはクエルたち一団の実力が桁違いだったからである。


 普通の冒険者たちであれば、森の入口付近でさえ命懸けな場所であった。


 それだけ魔獣の森は危険なのである。


「フウさん、昨日言ってましたよね『魔獣がそうポンポンと生えてくるわけじゃねぇ。 普通は段階的に増える』と」


「あぁ、言ったけど……」


「森の奥でダンジョンモンスターが生まれているとしたら、どうなります?」


「森の奥にいた魔獣が、ダンジョンモンスターに居場所を奪われる」


住処すみかを追われた魔獣が、森の入口付近に移動したとしたら」


「冒険者は、魔獣が増えたと錯覚する……か」


「ちょ、ちょっと待って」


 ケインの説明にフウが顎に指を当て頷いていると、そこにミレーヌが割り込む。


「魔獣が増えたと思われたのは、ここ数日なのよ。 森の奥でどれだけダンジョンモンスターが生まれているのよ!?」


「確証はないけれど、この辺りに漂っていた魔素の範囲内にダンジョンモンスターが生まれているんじゃないかな?」


 ケインはリザードの集団が居た辺りを指先で円を描く。


「坊やの仮説が本当だとして、ここ数日の魔獣の目撃情報を考えると、魔素の範囲はそれだけじゃ済まないはずだ。

 仮にこのまま魔素の範囲が広がれば、魔獣がダンジョンモンスターに森から押し出されるのは、時間の問題だぞ」


 モーガンとリーズは、ケインたちの会話を聞き、事態の深刻さに顔を青くする。


 ケインの言っている事は、あくまでも憶測である。


 しかし、大量のゴブリンの耳と、魔石の原石が詰まった袋がある以上、ケインの言葉を無視する事は出来なかった。


 街の噂になっている狂暴化した魔獣が森から溢れ出てくると言う話が、現実味を帯びてくる。


「ギルマス、万が一の事に備えて、この事を騎士団と情報共有するべきでは?」


「そうだな、リーズは騎士団の警備隊本部へ行って魔獣が街を襲う可能性を説明してきてくれ。

 こっちでは、実力のある冒険者のハンターやレンジャーに森の監視を頼むことにする」


「わかりました」


「あっ、リーズさん」


 リーズが立ち上がり、部屋から出て行こうとするのをケインが呼び止めた。


「騎士団の警備隊本部へ行くのなら、ボクも一緒に行きますよ」


「ケイン様、よろしいのですか?」


「シルフィード家の騎士団ですし、警備隊の隊長さんとは顔見知りですから一緒に行けば話が通りやすいと思います」


「ありがとうございます。 では、馬車をご用意いたしますのでご一緒に……」


 ドンッ!


 リーズの言葉を遮るかのように、クエルがテーブルを叩いた。


 大きな音と、ほおを引きつらせるクエルを見たリーズは、ヒッと喉の奥で悲鳴を上げて飛び上がった。


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