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第八十二話 森の異変


「どういう事よ、これはっ!?」


 広場の魔獣を一掃したミレーヌが、困惑した表情で辺りを見回しながら叫ぶ。


 だが、それも仕方ない事だろう。


 自身が斬り倒した魔獣が、目の前で光と共に消えてしまったのだから。


「落ち着け、剣聖ちゃん」


 ミレーヌにそう言ったフウであったが、この予期せぬ状況に戸惑いを見せていた。


 地面に落ちている魔石の原石を、ケインが拾い上げる。


「フウさん、もしかしたらボクたちが倒したリザードは、魔獣ではなく『ダンジョンモンスター』だったのでは?」


「まさか!? ここは『コアダンジョン』じゃないんだぜ」


 ケインの言う可能性を、フウは即座に否定した。


 コアダンジョン。


 それは、『ダンジョンコア』と呼ばれる核によって創られた迷宮の通称である。


 ダンジョンコアと呼ばれる核が何なのかは、実のところ、よく分かっていない。


 分かっている事は、ある日突然出現し、迷宮を構築する事。


 貴重な鉱物、魔法の武具やアイテムが生成される事。


 そして、魔獣そっくりの怪物、ダンジョンモンスターが生息している事であった。


 ダンジョンモンスターは、全てダンジョンコアの魔力によって生み出されている。


 その為、倒されたモンスターは魔石の原石を残して消えると、ダンジョンコアの魔力へと還るのである。


「フウ殿、ひょっとして、この森自体がダンジョンになっているんじゃないの?」


「森のダンジョンってのはあるが、そいつはあくまで天然のダンジョンってだけだ。 少なくとも森がコアダンジョン化したなんて聞いた事がねぇ」


 ミレーヌの考えも、フウは否定する。


「でも、こうして魔獣が魔石の原石になりましたよ」


「そう言えば、森の入口近くで倒したゴブリンは消えずに残っていたわ。 あれはどう説明するの?」


「この辺りに漂う、魔素が関係あるのかも」


「あーもう、こう言うのは冒険者じゃなくて、魔導師の領分だぜ」


 ケイン、ミレーヌ、フウの三人が、あーでもないこーでもないと話し合っているのを、クエルは少し離れた所から見ていた。


「……セリカ、この不可解な状況、あなたなら何か分かる?」


 クエルは控えているセリカに尋ねる。


「申し訳ございません、クエルお嬢様。 わたくし達にも、この異変が何なのか、見当がつきません」


 魔族であるセリカたちでも分からないとなると、原因は一体……。


「……ですが」


 続けてセリカが、広場の更に先の森を指差す。


「この奥から、強烈な闇の気配を感じます」


 セリカが指差す方向に意識を向けると、森の奥から暗い闇の気配が感じ取れた。


 ねっとりと神経に絡みついてくる闇の空気が、風に乗って来ているかのようである。


(確かに、いかにも怪しい空気って感じだわ)


 クエルたちの様子に気が付いたのか、ケインたち三人もセリカの指差す森の奥に意識を向けた。


 そしてケインたちも、クエルと同じように闇の気配を感じ取る。


「……フウ殿、どうするのだ?」


 ミレーヌも剣聖と呼ばれる剣の天才である。


 彼女の全身が、広場の先にある森の奥から漂ってくる闇の気配に敏感すぎるほどの反応を示していた。


「……坊や、この奥へ行ったことは?」


「すみません。 ここから先へは、入った事がないんです」


 ケインの説明では、鍛錬をしていた幼少期の頃は門限があり、往復の時間と狩りの時間的にこれ以上先に行った事はないとの事だった。


 実際、クエルたちもここへ来るまでの道中、かなりの時間を使っている。


 フウは眉間にしわを寄せ口元を引き結ぶと、険しい表情をして考えをめぐらす。


 森の奥へ更に進み調べるべきか?


 それとも、引き返して街に帰るか?


 フウの背筋に汗の玉が吹き出す。


 しばし熟考した後、フウは口を開いた。


「……街へ帰るぞ」


「調べなくて良いのですか?」


 てっきり森の奥を調べるものだと思っていたミレーヌは、思わずフウに聞き返した。


「何かヤバい気がする。 一度街に戻って魔素の広がりと、魔獣が魔石になっちまった事を冒険者ギルドに報告するべきだ」


「フウさん、それは野生の勘……ですか?」


「あぁ、こういう勘ってのは馬鹿に出来ないんだぜ、坊や」


「わかりました、街に帰りましょう」


「フウ殿がそう判断したのなら、それに従うわ」


 ケインもミレーヌも、ここはベテラン冒険者であるフウの指示に大人しく従う事にした。


 既に日も傾き始めており、じきに薄暗くなる事を考えると、ここで引き返すのは正解だろう。


「そう言うわけだ、嬢ちゃん、街へ帰るんだが良いか?」


 フウが離れて話を聞いているクエルに声をかける。


「ケインが帰るのなら、わたしも帰るだけだ」


「わかった、それと一つ嬢ちゃんにお願いがあるんだが」


「なに?」


「落ちてる魔石を拾うの手伝ってくれないか? 証拠として冒険者ギルドに提出したいんだ」


「構わないわ。 セリカ」


「かしこまりました」


 セリカの指示で、使用人の女性執事とメイドたちが散らばった魔石の原石を拾い集める。


 集め終わった魔石の原石を袋に入れると、セリカがフウに手渡した。


「手間とらせて悪かったな」


「気にするな」


 フウとセリカのやり取りを横目に、クエルはジッと森の奥を見つめていた。


「それじゃ、暗くなる前に森を出よう」


 フウが街に戻るために歩き出すと、その後をミレーヌが付いて行く。


「クエル、帰ろう」


 森の奥を見ていたクエルの肩を、ケインが優しく掴む。


「はい、帰りましょう」


 闇の気配は気になるが、ここにいても仕方がない。


 クエルはケインと並んで、その場を後にした。



 シルフィード領都に戻ったクエルたち一行は、その足で冒険者ギルドへと向かった。


 ギルドへ入ると、ロビーには大勢の冒険者たちがあふれ返っている。


 その冒険者たちがクエルを見たと途端、一斉に受付カウンターまでの道を開けた。


 彼らにとっては、魔獣よりもガーランド家の方が恐ろしいのかもしれない。


 そんな冒険者たちを気にせず、クエルたちは受付カウンターに近づく。


「お待たせいしました、本日のご用件をどうぞ」


「Aランク冒険者のフウだ。 魔獣活性化の調査報告をギルドマスターにしたい、取り次いでくれ大至急だ」


「か、かしこまりました。 ギルドマスターをお呼びいたしますので、応接室でお待ちください」


 フウが代表して受付嬢に話しかけると、その表情から事態の深刻さを察したのか職員にギルドマスターを呼びに行かせると、クエルたちを応接室へ案内した。


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