第七十八話 状況確認
「何を騒いでいるのです?」
受付嬢の絶叫を聞いたのか、カウンターの奥から女性ギルド職員が顔を出した。
「何か問題でもありましたか?」
「あ、申し訳ありません。 こちらのお方に驚いてしまって……」
「一体誰が……あら?」
受付嬢に言われ、女性職員が受付カウンターを見回す。
女性職員は、ケインと顔を合わすと驚きに目を見張った。
「まぁ!? ケイン様!? ケイン様ではありませんか」
おもわず声を上げ、女性職員がケインの前に小走りに駆け寄る。
「お久しぶりです。 リーズさん」
「帰ってこられたのですね」
「はい、リーズさんもお元気そうで」
「……ケイン、この女性と知り合いですか?」
ケインと女性職員が親しげに会話している所に、クエルが割り込む。
「うん、ここのギルドに出入りしていた時にお世話になった、サブギルドマスターのリーズさんだよ」
ケインが王都でクエルと出会う前。
幼いケインは父であるカイン=シルフィード侯爵に、剣と魔法を鍛えるため冒険者の家庭教師をつけてもらっていた。
領都の外で訓練を行う際、魔獣の情報を得るために家庭教師と共に何度もギルドを訪れていたのである。
その時、ケインに親身になって相談を受けていたのが彼女であった。
「ふ~ん、お世話にね」
クエルは青い目を細めると、ジト目でリーズと呼ばれた女性職員を見る。
「ケイン様、確か今は王都の王立学園に通っていたはずでは? 今日はいかがなさったのですか?」
「魔獣活性化の予兆があると聞いて、生まれ育った街ですし気になって……」
「ケイン様の耳にも届いておりましたか」
「ボクも王都で冒険者になったので、ここにいるAランク冒険者のフウさんにお願いして同伴させてもらったんです」
リーズと呼ばれた女性職員が、虎族の獣人であるフウを見ると口を開いた。
「あなたが、魔獣活性化対策のために冒険者ギルド本部が呼んだというAランク冒険者?」
「あぁ、Aランク冒険者のフウだ。 早速で悪いんだが今の状況を教えてもらえるか?」
「かしこまりました。 ご説明いたしますので、二階の応接室へどうぞ」
受付嬢が冒険者カードをケインたち三人に返すと、リーズは応接室に案内をするために受付カウンターから出る。
「ところでケイン様、そちらのお嬢様と、後ろの方々は?」
ケイン、フウ、ミレーヌの冒険者パーティーに、さも当然のようにクエルは付いてきていた。
更に、その背後に並ぶ執事とメイドたち。
リーズのみならず、ギルド職員や冒険者たちも何者なのか気になっていた。
「あ、彼女は……」
「わたしはクエル、クエル=ガーランド、ケインの恋人です」
クエルが名乗った瞬間、ギルド内の空気が凍った。
(闇の貴族令嬢……)
(噂の悪女……)
(暗黒街の妖精……)
「わたくしはクエルお嬢様の執事をしております。 セリカと申します。 こちらの者共は、わたくしと同じくクエルお嬢様に仕える者たちでございます」
セリカが名乗ると、今度はギルド内の空気が重くなる。
(魔女の右腕……)
(組織のナンバー2……)
(裏社会の掃除屋……)
ギルドのあちこちから、ギルド職員や冒険者たちのひそひそ話が聞こえてきた。
クエルとガーランド家の悪名は、ベネディクト王国内に広く知られている。
ギルド職員や冒険者たちが、この様な反応になるのも当然であった。
「ケ……ケイン様の恋人でございましたか」
「そうだ、ケインの恋人なのだがら、ケインに付いて行くのは当然だろう」
ケインに向けていた愛らし態度ではない。
他者を見下す不遜な態度に、リーズは震えあがる。
「で、では、ご一緒にどうぞ」
顔を青くしながら、リーズはクエルたちを応接室へと案内した。
◇
応接室に入ったクエルたちは、ロングソファに腰かけると、リーズが対面に座った。
クエルたちの背後にはセリカとエリスが立っており、他の者達は部屋の外に待機している。
「改めまして、わたくしシルフィード領都、冒険者ギルド支部のサブギルドマスターをしております。 リーズと申します」
「リーズさん、とりあえず、今の状況を教えてもらえますか?」
リーズの挨拶が終わるや否や、ケインが状況説明を求める。
「はい、少し前になりますが、冒険者たちの間で森を徘徊する魔獣の数が増えたのでは? と、噂が広がり始めました。
最初は気のせいだろうと思っていたのですが、ギルドに持ち込まれる魔獣の素材が徐々に増えてまいりまして、これはおかしいと言う事になりました。
隣国で魔獣活性化の被害が出ている事は、ギルドの注意連絡で知っておりましたので、これは魔獣活性化の予兆ではないかと、王都のギルド本部に報告をいたしました」
「その報告を受けて、ギルド本部がAランク冒険者のわたしに調査を依頼したのか」
表向きギルド本部は、魔獣活性化対策のためにAランク冒険者のフウを呼んだ事になってる。
魔獣活性化の予兆があると報告を受ければ、フウを調査に派遣するのは当然の流れであった。
「こちらでも冒険者に森の調査をしてもらったのですが、魔獣が狂暴化し、更に群れを作っていると報告を受け討伐依頼を出したのですが重症を負う冒険者があとを絶たない状況。
そうしている間に、魔獣の討伐を上回るように魔獣が増殖してしまい、近隣の村や町の冒険者ギルドに派遣要請を出したというわけなのです」
「そんな事になっていたなんて、ロビーに冒険者が大勢いたのは、そういう事だったんですね」
ケインは納得したように頷く。
「しかし、話を聞く限り、ここ数日で魔獣が爆発的に増えたようだが、魔獣の活性化とはそういうモノなの?」
「魔獣がそうポンポンと生えてくるわけじゃねぇ。 普通は段階的に増えるんだが、どこからか魔獣が集まってきてるのか?」
ミレーヌの疑問に、フウは首をひねる。
「この様な状況となってしまい、依頼内容も魔獣活性化の調査に加えて魔獣の討伐依頼を追加したいのですが、よろしいでしょうか?」
「構わないぜ。 魔獣活性化対策のために呼ばれたんだ、ギルド本部に了解したと報告しておいてくれ」
「ありがとうございます」
リーズが礼を言うと、フウに対し頭を下げる。
「そう言うわけだ、二人とも明日調査の為に一度森に入ってみるぞ」
「わかりました」
「心得た」
ケインとミレーヌがフウに返事をすると、リーズが驚いた顔をする。
「えっ!? ケイン様とミレーヌ様が直接行かれるのですか!?」
リーズが心配するのも当然である。
ケインとミレーヌは、ただの貴族ではない。
侯爵の令息と令嬢なのだ。
「大丈夫です。 ボクも冒険者になったんですから」
「お気遣いなく。 わたしも貴族ではなく冒険者として、この街に来ている」
ケインとミレーヌの言葉に、リーズは困った顔をする。
万が一、貴族であるケインとミレーヌに何かしらが起きれば問題になってしまう。
「そう心配するな。 貴族が遊びで冒険者をやるなら止めさせるが、この二人は信念と覚悟、それと実力がある」
フウが、ケインとミレーヌの実力にお墨付きを与える。
「う~ん……Aランク冒険者がそう言うのであれば」
リーズが渋々ケインとミレーヌの同行を了承すると、今まで黙っていたクエルが静かに言葉を発した。
「わたしも、一緒に行くぞ」
その場にいた全員がクエルに注目する。
「クエル、付いて来るの?」
「大丈夫ですよ。 ケインのお仕事の邪魔はいたしませんから」
「いや、そうじゃなくて、森の中は危険で……」
ケインに妖精のような笑顔をすると、青い目を細め背後のセリカを振り返る。
「問題ないな、セリカ」
「はっ、問題ございません。 魔獣が出ようとも我々が指一本クエルお嬢様に触れさせません」
「そう言う訳なので、安心してください」
クエルは再び笑顔になると、ケインに抱きついた。
「坊や、責任もって嬢ちゃんの面倒を見ろよ」
「は、はい、わかりました」
クエルに抱きつかれているケインは、フウに言われそう返すしかなかった。
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