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第七十七話 領都到着


 王都を出てから数日後。


 いくつかの村と町を経由し、クエルたち一行はシルフィード領都前に到着する。


 領都前の街道には人が溢れ、クエルたちを乗せた馬車は徐行運転を余儀なくされていた。


「すごい人の数ですね」


 領都へ出入りする人々を馬車の中から眺めながら、クエルが呟く。


「ケイン殿、普段からこんなに混んでいるのか?」


「いや、普段はこんなに人の往来は無いはずなんだけど」


 ミレーヌの質問に、ケインが少し困惑気味に返す。


 よく見て観ると、領都から出てくる人々の顔色がどこか暗い。


 多くは家族連れであり、大きなリュックを背負い、なかには荷車にぐるまに家財道具を載せている者もいた。


「おっさん、ちょっといいか?」


 フウが馬車の窓を開けると、近くにいた人に声をかけた。


 声をかけられた中年の男性は、貴族の馬車から声をかけられ驚いた顔をする。


「みんな慌ててるみたいだが、何かあったのか?」


「その恰好、あんた冒険者かい?」


 獣人であるフウの姿を見て、貴族を護衛する冒険者と思ったようだ。


「あぁ、王都から来たんだ」


「こんな時に来るなんて、運が悪いな。 いま魔獣の森が荒れてるんだ」


「なんだって?」


「もしかしたら狂暴化した魔獣が森から溢れ出てくるかもって噂でね。 みんな荷物をまとめて街から離れようとしているのさ」


「そうか……ありがとよ、おっさん」


 フウは男性に礼を言うと、馬車の窓を閉める。


「思っていたよりも、深刻な状況みたいだな」


「市民が避難をしているなんて、ただ事じゃないみたいね」


「フウさん、まさか、もう魔獣の活性化が起こっているのでは?」


「剣聖ちゃんも坊やも落ち着けよ、まだそうと決まった訳じゃねぇ」


 ケインとミレーヌにそう言うと、フウは酒ビンを傾ける。


 普段は楽観的であるフウであるが、その表情が引き締められていた。


 何か、ただならぬ事が起きているのではないか?


 車内に緊張感が漂う。


 ケインが神妙な面持おももちで呟いた。


「クエルごめん、君に街を案内していられる雰囲気じゃ無いみたいだ」


「気にしないでください、どうやら旅行気分という訳にはいかないようですから」


 ケインの呟きを受け、クエルは隣に座るケインに手を重ねる。


 どこか緊張した面持おももちのケインが、クエルに顔を向けた。


「大丈夫ですよ、ケインとわたしの二人ならば、どんな問題だろうと解決できます」


 あでやかな声でささやき、クエルは上目づかいにケインを見つめる。


「クエル」


「ケイン」


 手を握り合わせると、クエルとケインは見つめ合った。


 ほんの少し前まであった緊張感が霧散していく。


「……こいつら、隙あらばイチャつくよな」


「わたしは、もう慣れましたよ」


 二人だけの世界を作るクエルとケインを見ながら、フウとミレーヌは溜息ためいきいた。



 ガタゴトと音を立てながら、馬車がシルフィード領都の門をくぐり抜ける。


 しばらく走り続けると、馬車は専用駐車場に停まった。


 クエルたちは次々に馬車から降りる。


「わぁ、ここがケインの故郷の街なのですね」


 周囲の街並みを見ながら、クエルが感嘆の声を上げた。


 通りには旅客目当ての出店が立ち並んでいる。


 本来であれば客が列を成しているのであろうが、今はまばらであった。


 これも魔獣の影響なのかもしれない。


「フウ殿、これからどうするのだ?」


 はしゃぐクエルを横目に、ミレーヌがフウに尋ねる。


「まずは予定通り、冒険者ギルドに行って現在の状況じょうきょうと依頼の確認だな」


「それならボクが冒険者ギルドまで案内しますよ」


「お願いしますね、ケイン」


 案内を買って出たケインの腕にクエルがしがみ付く。


 ケインはクエルと腕を組むと、勝手知ったる通りを歩き始めた。


 その後ろをセリカとエリスとガーランド家の使用人たち、更にフウとミレーヌが続く。


 街を行く人たちは、その集団に好奇な視線を向ける。


 人通りが少ないとは言え、クエルの後を歩く執事とメイドの集団は異様に映り目立っていた。


 もっとも、クエルは周りからの視線など気にならない。


 クエルが楽しげに通りを歩いていると、ほどなくして大きな建物の前でケインが立ち止まった。


「ここが、この街の冒険者ギルドだよ」


 それは、王都の冒険者ギルドに負けず劣らずの立派な建物であった。


 扉を開け、クエルたちはギルド内へと入る。


 中は王都のギルドと同じく広いロビーになっており、冒険者たちであふれ返っていた。


 その冒険者たちが、一斉に入口から入って来たクエルたちに視線を向ける。


 執事やメイドを従えた者が、ギルドに入って来たのだ。


 注目するなと言うのは、無理な話である。


 冒険者たちの視線を浴びる中、ミレーヌがケインに尋ねる。


「ケイン殿、冒険者が多いとは言っていたが、普段からこんなにいるのか?」


「いや、たぶん近隣の村や町から、冒険者が来ているんだと思う」


「しかし参ったな、これじゃ受付まで何時間かかるかわかんねぇぞ」


 フウが言うように受付カウンターには、冒険者の長い列が出来ていた。


「……セリカ」


「はっ!」


 クエルの意図を察し、セリカたちガーランド家の使用人が前に出た。


 ズラリと並ぶ使用人たちの先頭で、セリカが冒険者たちに向かって声を上げる。


「クエルお嬢様の御前ごぜんである、道を開けよ」


 それだけでひしめき合っていた冒険者たちが一斉に身を引き、受付カウンターまでの道を開けた。


 セリカたち使用人の放つ圧に、冒険者たちが気圧けおされたのだ。


「どうぞ、クエルお嬢さま」


 受付カウンターまでの開けた道に使用人たちが左右に整列すると、セリカは手のひらを受付カウンターに向けクエルを誘導する。


「さぁケイン、行きましょう」


「う、うん」


「……そう言えばこいつら、ヤバい連中だったんだよな」


「そうですね」


 クエルとケインは腕を組み、使用人たちの立ち並ぶ道を歩き、その後をフウとミレーヌが続く。


「お、お待たせいしました、本日のご用件をどうぞ」


 受付カウンターの前まで来ると、受付嬢が引きつった笑顔を見せた。


 このような訳の分からない状況でも、営業スマイルを崩さないのは立派である。


「魔獣活性化の調査依頼を受けて、王都から来たんだが」


 フウが代表して受付嬢に受けた依頼を説明する。


「かしこまりました。 それでは確認いたしますので、冒険者カードをお出しください」


「ほらよ」


 フウはそう言うと、冒険者カードを受付嬢に手渡す。


「確認いたします。 氏名『フウ』 職業『闘士とうし』 ランクが……えっ? Aランク!?」


 冒険者カードを確認した受付嬢は驚きの声を上げた。


(Aランク冒険者……)


(本当かよ……)


(初めて見た……)


 受付嬢の言葉に、周囲の冒険者たちがざわめく。


 忘れがちだがAランク冒険者と言うのは、数少ないSランクを除いた冒険者の中でもトップクラスの実力者である。


 普通の冒険者たちから見れば、Aランク冒険者と言うのは雲の上の存在なのであった。


「あ、あの、依頼はパーティー専用のモノのようですが……」


「あぁ、二人とも冒険者カードを出してくれ」


「これだな」


「はい、どうぞ」


 ミレーヌとケインが、冒険者カードを受付嬢に手渡す。


「確認いたします。 氏名『ミレーヌ=ソレイユ』 ……えっ? ソレイユって、ソレイユ家のご令嬢さま!?」


 冒険者カードを確認した受付嬢は再び驚きの声を上げた。


(ソレイユ家の剣聖……)


(あの噂の……)


(マジかよ……)


 受付嬢の言葉に、周囲の冒険者たちが再びざわめく。


 先日の対抗戦襲撃事件は、王族が襲われた事もあり国内に広く知れ渡っていた。


 そんな中、テロの実行犯と闘ったと噂されるミレーヌもまた、その名を広く知られる事となる。


「気にしないでくれ、今日はただの駆け出し冒険者よ」


 周囲が驚く中、ミレーヌは特に気にする様子もなく淡々と答えた。


「ほら、いつまでも驚いてなくて、早く冒険者カードのチェックを終わらせてくれ」


「は、はい」


 フウに急かされ、受付嬢がケインの冒険者カードをチェックする。


「か、確認いたします。 氏名『ケイン=シルフィード』 …………えっ?」


 受付嬢が冒険者カードとケインの顔を何度も交互に見る。


「あの……ひょっとして……この街の領主さまの……」


「あ、はい、息子です」


 恐る恐る聞いた受付嬢に、ケインがあっさりとした返しをする。


 しばしの沈黙後。


「あの若き英雄ゥゥ!? ケイン=シルフィードさまぁぁぁぁぁぁ!!!?」


 受付嬢がギルド全体に響き渡るような絶叫を上げた。


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