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剣闘士

 

「とりあえず、ここで大人しく待ってなさい!」


 彼女はそう言って熊の解体作業を始めた。


 まさか異世界に来て裁判にかけられることになるとは。

 前途多難すぎるだろ俺の新しい人生。

 せっかく魔法が使える世界に来たのに、刑務所みたいなところに入れられて一生を終えるのかな。やっぱり森を燃やしたのが悪かったよな。

 さよなら、俺の新しい人生。


 しかしそんなネガティブな思考は彼女が行う熊の解体作業によって妨害された。

 

 風魔法なのだろうか。ひゅん! という音とともに熊の死体は血と皮と肉に綺麗に分けられていった。彼女は熊がグロテスクな状態になっても、全く気にすることなく作業を進めた。見事なことに、熊の肉には毛がひとつもついていなかった。

 解体作業が終わり、分けた血と皮と肉をどうするのかと不思議に思っていたら、彼女は腰に着けていた巾着の口を開きその中に入れだした。

 

 俺は目を疑った。野球ボール程しかない巾着に熊の皮と肉は凄い勢いで吸い込まれていくのだ。


 さすが異世界! 便利だな。

 そう感心していると彼女が近づいて来た。


「それじゃあ街に行くわよ。


 うっ! あなた臭いわね」


 ぐはっ! 

 いや、これは熊の血を浴びてるからであって俺自身は臭くないんだ! 誤解しないでほしい!!


「臭すぎて一緒に歩けないわ」


 もうそれ以上言わないで!


「綺麗にした方が良さそうね」


 彼女はそう言うと両手をから水を生み出した。その水は俺の熊の血がついた部分に触れてまわった。触れた箇所からは熊の血が綺麗さっぱり消えていた。


 すごい! この世界の魔法は使い勝手がとても良さそうだ!

 しかし俺が驚いたのはこの後だった。


 彼女は熊の血と混ざった水に右手を当てた。水がどんどんと小さくなっていく。残ったのは赤黒い血だけになった。

 その瞬間、血は地面に落ちた。


 今、彼女は何をしたんだ?


 俺はここで先程彼女が言っていた魔力還元という言葉を思い出した。

 

 もしかしてこれが魔力還元というやつなのか。

 名前の通り、自分が生み出した魔法を自分の体内に戻したのか。

 そうならば彼女が火事の時に俺に向かって言ったことが理解できる。

 あれは自分が出した魔法、つまり火を体内に戻せということだったのか!


 すごい! これなら無制限に魔法が使えるんじゃないのか!!


 俺はこれから裁判にかけられるかも知れないことも忘れ、1人盛り上がっていた。

 彼女はそんな俺を気にすることなく

 

「さあ、行くわよ! 付いてきて。

 ちなみに逃げようとしても無駄だから。ロックベアーも倒せないようでは私からは逃げられないわよ」


 と睨みを聞かせながら言った。


 えっ、あいつって雑魚キャラなの?

 さっきの盛り上がりはどこへいったのか、俺は絶望に打ちひしがれながら彼女の後をついて行った。



・・・・・・



 街に着く頃には辺りが暗くなっていた。


 街は大きな壁で囲まれていたが、テーマパークのような楕円形の入り口を見張っているような人はおらず、出入りは自由のようだった。


 入り口を抜けると、そこには中世ヨーロッパのような世界が広がっていた。石畳の道がまっすぐと伸びていてサイドには家やお店が立ち並んでいる。

 今日は祭りがあるのか奥の方まで屋台が設置されており、多くの人が行き交っていた。


「さっさと行くわよ!」


 そう言うと彼女は俺の手首を掴んで、道の真ん中を突き進んだ。

 

 強引な人も嫌いじゃない。なんだかデートみたいだな。

 掴まれているところが手首じゃなければ。


「おいシャルル、新しいつれかい?」


 知り合いの冒険者なのだろう。鎧を見に纏い、腰に剣を携えた男が急に話しかけてきた。


「そんなんじゃないわよ」


 トゲトゲしく返すシャルル。

 男はそれを気にすることなく、


「お前を満足させられる奴なんてそうそういねぇよ」


 そう言って笑いながら去っていった。

 彼女も気にすることなく進んでいった。


 え、なに⁉︎ これって実はそういう展開なの?

 

 ・・・駄目だ! 調子に乗ってはいけない。 

 俺は今、連行されているんだ。期待をすればするほど絶望は大きくなる。何より「人生は甘くない」からな!


 それにしてもシャルルっていうのか。覚えておこう。

 

・・・・・・

 

 街に着いてから結構な距離を歩いていたが、人混みが途絶えることはなかった。


「今日の闘技場は良かったな!」

「リドリスの奴負けやがった。俺は大損だ!」

「明日は誰が出るんだっけ?」


 街を歩いていると、聴き慣れない言葉が耳に入ってきた。どうやらこの街には闘技場というものがあるらしい。

 異世界の娯楽のようだが、あまり気分は良くないな。


 30分ほど歩いただろうか。

 目的の場所に着いたのか、彼女は急にある建物の前で立ち止まった。

 そこはあからさまに他とは違う雰囲気だった。

 右側の窓には「ぬすみ、だめ、ぜったい!!」と、書かれた垂れ幕がかかっており、左側の窓には手配書らしき紙が20枚ほど雑に貼られていた。

 そして看板には大きく「ていばつたい」と書かれていた。


 シャルルは俺の手首を握ったまま、迷うことなくその建物に入っていった。

 中には若い男性が1人座っていた。


「どうしたんですか? 盗みですか?」


「いいえ、この人魔力還元も知らずに魔法を使ったんです」


「えぇ⁉︎ 魔力還元を知らない? そんな人いるんですか?」


 男の人はありえないという顔をした。


「危うく森が火事になるところでした」


 男の人は「それは危ない」と言うと、奥の部屋に行き1枚の紙とペンを持ってきた。


「あなたの名前を教えてください」


 一瞬、沈黙が生まれる。

 シャルルが俺を睨んだ。

 あ、俺か。


「野崎優人です」


「どこから来たんですか?」


 これはなんて答えればいいんだ?

 嘘をついてもすぐバレるしな・・・

 ここは正直に言うしかないか。


「異世界から」


 俺は今にも消え入りそうな声で言った。

 直後、シャルルが俺の肩を勢いよく掴んで言った。

 

「今なんて言ったの?」


 鋭い眼差しが俺を貫く。

 あれ? 俺、おかしいこと言ったかな?


「異世界から・・・」


 おかしいことは言ってるか。

 異世界から来ましたって普通に考えればヤバイやつだよな。


 シャルルは俺の肩から手を外した。そして、何かを考えるように口に手を当てた。

 締罰隊の人は、俺の異世界発言を完全に無視して質問を続けた。


「親はいますか?」


「この世界にはいないです」


「あー、これは結構重症ですね。

 分かりました。じゃあ身柄を引き取ってくれる人が現れるまで剣闘士として頑張ってください。

 今日はここで寝てくださいね。明日闘技場に案内しますから」

 

 男の人はそう言うと、紙に何かを書き込み押印をした。


 剣闘士? 闘技場?? 

 なんでそんなことになるんだ???


 俺は今、大きな間違いをしてしまったんじゃないかと思ったが、だからといってどうすることもできず、呆然としていると


「すいません! この人を明日の闘技場に出させてあげることはできませんか?」


 今まで黙っていた彼女が急に口を開けた。

 え、何言ってるのこの人?


「明日ですか? ちょっと待ってください。予定を確認します」


 男の人はそう言うとまた奥の部屋に行き書類を持ってきた。


「明日の朝8時30分からならいけますね。9時から一戦入っているのでその前にエキシビションとして入れることができます」


「分かりました、それでお願いします。

 あと相手をロックベアーにすることはできますか?」


 なんでお前が許可を取ってるんだ! しかも相手をあの熊にするってどういうことだよ!!


「ロックベアーですか⁉︎

 一頭いますが本当にいいんですか?」


「はい、お願いします」


 まてまてまて!「はい、お願いします」じゃないだろ!


「分かりました。割り込ませて入れる形になるので試合形式はルール無用のデスマッチになりますがいいですか?」


 おいおい、どういうことだよ。死ぬまで殺しあえってか?


「はい! 大丈夫です」


「立会人は・・・」


「私がします。冒険者ランクは3です」


「おおぉ! すごいですね!!

 それなら大丈夫です! それでは明日朝8時に闘技場受付まで来てください!」


 終わった。今度こそ俺の人生終わった。

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