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再戦


「逃げ出したらどうなるかわかってるわよね」


 凄まじい圧力をはらんだ笑顔でシャルルは言った。

 その後、男の人に「明日はよろしくお願いします」と言って部屋を出て行った。


 男の人は「はい!」と返事をした後、俺に明日の試合のルールを説明してくれた。


「今回の試合はルール無用のデスマッチです。

 魔法を使っても構いません。

 武器は闘技場側が支給します。ちゃんとロックベアーに攻撃が通る武器を揃えているので、そこは安心してください。

 この試合はエキシビションなので賭けはありません。

 以上が明日の試合の概要です。

 頑張ってください!」


 その後、男の人は俺を奥の部屋に案内しサンドイッチを取り出しながら言った。


「今日はここで眠ってください。

 明日は7時30分に迎えに来ますね。

 あなたはもう剣闘士なので困った事などがありましたらなんなりとお呼びください。私は21時まで向かいの部屋にいますので。


 これ、今日の夕食にしてください」


 男の人はサンドイッチを俺に渡した後、もといた部屋に戻って行った。


 俺は部屋で1人になり、ふと明日のことを考えた。


 俺、もう一回あの熊と戦うんだよな。

 脳内に、俺があの熊に無残に殺されるイメージが湧いてくる。周りにいる観客は大喜びだ。

 俺の異世界生活、2日で終わりか・・・

 

 俺は近くにあったボロボロのベッドに座った。

 今までベッドを照らしていた、窓から差し込む月の光が、俺の顔に当たった。眩しさで目が眩む。

 その時だった。ある作戦がふと脳裏に浮かんだ。


 この作戦ならあの熊に勝てるんじゃないか?


 そんなかすかな希望が俺の中で生まれた。

 だが、まだ確認しなければならないことがあった。これができるかできないかでこの作戦の成功率は格段に変わってしまう。

 しかしそれをする体力が今の俺にはなかった。

 確認は明日の朝にすることにした。


 俺は手に持っていたサンドイッチを貪り食い、ベッドに横になった。明日の戦いに備えて。



・・・・・・



 目を覚ます。時間を確認する。

 時計の針はまだ7時を回っていなかった。


 よし! 確認する時間はたくさんある。

 1発で成功してくれればいいのだが。

 俺は祈りを込めて手のひらを上に向けて風を出すイメージをした。

 すると、手のひらからそよ風が生まれた。

 

 できた! あともうひと息!!


 風のイメージをより強く持つ。すると風も強くなっていった。

 

 いける!! いけるぞ!!!

 これならロックベアーにも勝てるかもしれない。

 初めに抱いたかすかな希望は、大きな希望の光になっていた。

 

・・・・・・


 7時30分、ドアが開いた。


「お待たせしました。それでは行きましょう!」


 俺は黙って男の人について行った。

 

 闘技場までは歩いて10分程で着いた。

 闘技場はコロッセオのような見た目をしており、町の中心部にあった。周りは開場を心待ちにしている客で溢れかえっていた。


 俺たちは周りの人を押しのけて闘技場の中に入った。

 男の人は俺を控え室と書かれた部屋に案内した。


「ここは控え室です。武器と食事はこの部屋にあります。

 トイレはこの道をまっすぐ行ったところです。

 では、8時20分に迎えに来ますのでここでお待ち下さい」


 そう言うと男の人は去って行った。

 俺は控え室と呼ばれる部屋に入った。

 中には剣、槍、弓、盾、鎧など数多くの武器、防具が並んでいた。


 俺は用意されたパンを食べながら様々な武器を手に取った。

 よし、これにしよう。俺は軽めの剣と盾を選んだ。

 

「鎧はいいの?」


 いつの間にかシャルルが扉の前に立っていた。


「ああ、いらない」


 俺がそう言うとシャルルは満足そうな顔で「そう」と言った。


「私を恨んでないの?」


「ああ、人を恨むのはもう飽きたんだ。

 だから今のこの状況をどう乗り越えるかだけを考えるよ」


 シャルルは急に笑い出した。


「あなたって変わってるのね」


「うるせぇ!」


 シャルルは笑いながら「頑張って!」と言って何処かへ行ってしまった。


・・・・・・


「時間です。準備はいいですか?」


 男の人が扉を開けた。


「はい!」


 俺は覚悟を決めた。



・・・・・・



「みなさん! お待たせしました!!

 本日の天気は快晴!! 絶好の闘技場日和です!!!


 今日は9時から始まる予定でしたが、急遽、飛び入り参加が決まったということで8時30分からお送りします!!」


 歓声が闘技場を包み込んだ。


「この試合はエキシビションマッチですので賭けは行いません!」


 先程の歓声とは打って変わってブーイングが起きる。


「ですが、この試合はルール無用のデスマッチです!!」


 それを聞いた観客は異常な盛り上がりを見せた。


「選手の紹介です。

 まずは赤ゲートから。

 剣闘士、ノザキヒロト!!

 なんとこの試合が初陣となります」


 俺は戦いの場に足を踏み入れた。


「次は青ゲートから。

 なんとあの魔物が参戦だ!!!

 ロッッックベアーーーーーーー!!!!!!!」


 観客の興奮は最高潮となった。

 「早くやれーー!」「すぐに死んでくれるなよ!」「ロックベアーやっちまえ!」など数多くの野次が飛んできた。


 ロックベアーがゲートから出てきた。

 体長は2メートルほどで、歩くたびによだれが滴り落ちていた。異世界転移の直後にあったロックベアーよりも一回り大きかった。

 

 ひりつくような感覚が全身を駆け抜ける。


「それではみなさん、いいですか?

 レディィィファイトーーーーーー!!!」


 盛大な鐘の音とともに試合が始まった。


 しかし、ロックベアーはすぐに動いてこなかった。

 どうやら俺を観察しているようだ。


 ならば先制攻撃は俺がもらう!

 俺は両手を前に突き出し、強い風をイメージした。

 両手から風が生まれた。風はロックベアーに当たったがダメージは全くないようだった。

 シャルルのようにうまくはいかないか。


「先制攻撃はノザキヒロト!! しかしロックベアーには傷ひとつついていない!!!」


 よし次だ!

 俺はもう一度、両手を前に突き出して、今度は火をイメージした。

 

「ファイヤーボール!」


 今回は一発で当たった。しかしこれもダメージがないようだった。

 俺は()()()一歩後退りした。


「どうしたノザキヒロト! ロックベアーに魔法はあまり得策ではないぞ!!


 おおっと、ここでロックベアーが動いた!!!」


 ロックベアーは俺に向かって突っ込んできた。

 どんどんと加速するロックベアーからは、風を切る音がした。

 俺は盾を構えてロックベアーをギリギリまで引きつけた。

 3メートル、2メートル、1メートル、今だ!

 盾をロックベアーに向けたまま、俺は突進をかわした。


「うおっ!」


 突進はうまくかわせたものの、突進が生み出した衝撃波で俺は横に吹き飛んでしまった。

 俺は地面に叩きつけられるように着地した。

 背中がジンジン痛む。

 だが、痛いのは俺だけじゃないはずだ。


 ロックベアーは突進の勢いで壁に激突していた。

 壁には大きなひびが入り、一部は崩れている。

 これならいくらロックベアーでもダメージはあるだろう。


「ロックベアーの突進を見事かわしました、ノザキヒロト!

 ロックベアーは勢い余って壁に激突した!! これは計算していたのか??」


 いつの間にか、観客の野次は無くなっていた。

 もしかしたらこの剣闘士はロックベアーを倒すかもしれない。そんな期待が闘技場を包み込んでいた。


 しかし、そんな期待を砕くかのように、ロックベアーは無傷で壁から顔を出した。


 嘘だろ? ノーダメージかよ!?

 

 観客がため息をこぼした。

 もう誰も、剣闘士が勝つとは思っていなかった。


「ロックベアーは無傷です!

 これはノザキヒロト、万事休すか!?」


 実況者の声とロックベアーの唸り声だけが、闘技場にこだました。


 俺は深呼吸をした。

 そして、昨日たてた作戦を思い出す。


 この作戦は1発勝負だ。失敗は許されない!


 俺は覚悟を決めて盾を捨てた。

 観客はどよめき出した。


「なんだ⁉︎ ノザキヒロト、ここで盾を捨てました!

 これはいったいどういうことだ? 何を考えているんだ??」


 ロックベアーは俺の方を向き、もう一度突進をする準備を始めた。

 俺は両手を前に出し、もう一度ファイヤーボールを出す準備をした。


「また火の魔法か? それはロックベアーには効かないぞ!!」


 ロックベアーは俺にしっかりと照準を合わせて突っ込んできた。


 俺はすぐに撃たなかった。

 もう一度ギリギリまで引きつける。

 後もう少し、まだだ、まだ、まだ・・・


 いまだ!!!


「ファイヤーボール!!」


 俺はファイヤーボールを放った。

 だが、そのファイヤーボールはロックベアーに当たらなかった。


「おおっと! ノザキヒロト、外してしまったー!!

 いや、待てよ。ロックベアーは怯んで止まっている!!!」


 実況者が驚きの声を上げた。

 俺のファイヤーボールはロックベアーの足元に命中していた。ファイヤーボールは地面をえぐり、破片がロックベアーの喉元に突き刺さった。


「ヴォアーーー!!」


 ロックベアーは苦しみの声を上げる。

 俺は右手で剣を抜き、左手で風魔法を放った。

 風が砂埃を一掃する。


 見えた!


 俺はロックベアーの首めがけて剣を下から上へ振り上げた。


 ズパッ!


 俺はそのまま走り抜け、すぐにロックベアーの方に向きなおり、剣を向けた。

 ロックベアーも振り向きこちらを見る。


 数秒お互いに睨み合った。

 

 手応えはあった。

 お願いだ。これで終わってくれ!



 どしん!


 ロックベアーは力なく倒れた。



 割れんばかりの歓声が俺を包み込んだ。

 

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