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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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52.泥

 漁民達は手鋏鮫の曳き上げが終わり一旦解散となった。


 所属する船に戻り修復や清掃をする者、漁民ギルドにある医療室に行き怪我の治療を依頼する者、あるいはギルドの食堂などといった場所で休む者などがいた。



 そして、剣と大して変わらぬ片刃包丁を手鋏鮫の魚体に突き刺し解体している者達の後ろ姿を、無言で見つめ続けている者達もいた。


 彼等は動かずに立ち続け、その視線の先には魚体から魚肉がバラされていく包丁の刃があった。

 その顔は心の内に湧き上がる怖れが溢れ出し、辛さ苦しさ悲しみが表にぶちまけられてしまうのを堪えているかのようだった。

 目の前に現れて欲しくない物を待ち構えるように。



 現在レイリーリャは、テグドラウとハイリアルが歩いているのに付いてきている。テグドラウに漁民ギルドにある食堂の場所を案内して貰っているからであった。


 漁民ギルドでの会食が始まるまでは、従者としての仕事をせずに、ここで休むなり好きなように行動していいという許しがハイリアルから出ていた。



 レイリーリャはどこかで休もうと思っていた。そうしながら何か食べ物を食べたかった。


 漁民ギルドにも食堂があるだろう思い、そこへ行く事をハイリアルに告げた時に、テグドラウがすぐ側にいたのだった。



 レイリーリャは漁民ギルドの食堂に入った事はなかった。


 だが漁民ギルド事務所の建物の中か、すぐ側にあるだろうと思っていた。


 例えそうでなくても、職員か誰かにその場所を聞けば良いと思っていた。



 テグドラウがわざわざ案内すると告げてくれたので、せっかくだからとその好意に乗っかり教えて貰う事にしたのだった。



…………何でハイリアルさまは、わざわざ一緒に付いてきてるんだろう?



 テグドラウの後ろを付いて行ってる時に、彼が横に並んで付いているのが目に入った。それが予想外で、一瞬驚きそうになってしまうが、そう疑問に感じてしまう。



…………そーだよね、ハイリアルさまも人間なんだしお腹減っちゃうよね。



 だが、ちょっと考えてみて思い浮かんだものは、別に驚くような事でも無かった。



…………ハイリアルさまもお昼ごはん、食べてないもんね。



……何か買うのかな?



 一人勝手に疑問を感じ、勝手に答えを思い浮かべている。



 彼が付いてくる事で嫌な苦痛は感じなかったが、その存在を意識せずにはいられなかった。


 いつもより歩く彼女の身体に力が入っている事を自覚していない。



 その背中を海風が煽り、靡かれた髪の毛が陽の光を反射し白銀色に輝く。




 テグドラウはハイリアルが横に付いてきているのに気付くと、顔を向け話しかける。



「……さっき手鋏鮫を引き揚げただろ。よくスロープに魔法で氷の坂を作って、滑らせる事を思いついたよなぁ。」



 両口許を上げ感心しながら、顎に片手を付け頭を左右に振っている。そうする事でこの感情を体内で響かせて味わっているかのようだ。


 レイリーリャも両目を輝かせる。

 そして褒めるテグドラウに同意する。



「そうですよっ。わたしもそう思い、ました……。」



 語尾が途切れるように弱まり、口を開く事を止める。



―――ハイリアルさまは本当に、アタマが良いんだよね。



 こう賞賛する言葉を口に出す事を止めて思うだけにした。


 ハイリアルは二人の顔を見ると、口許に微かな喜びを浮かべつつも困惑し、両眉が少し下がっている。



「おいおい。褒めてくれるのは確かに嬉しいが、我はそんなに大した事をしていない。


 魔法で氷のスロープを作って滑らせただけだ。」



 少し笑うような口調だった。

 手に持つ薙刀を左右に振る。



「しかも、傾け過ぎると手鋏鮫が勢い良く滑って、引っ張っている者達に突っ込んで危険な代物だから、想像以上に高さ調整で神経使ったその場凌ぎのモノだ。」



 口許を歪ませ、作ったスロープとそれを作った自分自身に対して呆れるような苦笑いを浮かべる。



「何ほざいてるんだッ。オレのアタマじゃ、思いつかんわ。」



 テグドラウは片手の甲をハイリアルに向けて振り、自らと比較してツッ込む。



「謙遜し過ぎだ。」



 レイリーリャは二人の会話を何も言わずに見ている。



…………さっき気付いて止めなかったら、色々話し出しちゃいそうだったよ……。



 先程の自分の行動を思い出し苦笑いを浮かべている。



……主人付きのメイドは、主人とそのお友達が話す時は、話すのが邪魔にならないように、話しかけられた時以外は喋らずに黙るんだよね。


 わたしもそうしないと。…………



 そう心の中で決めると、心の底から誇りのようなもの湧き上がり昂ぶっていく。


…………逃げだそうとした前の時は、怪しいと疑われるのが恐くて、食事中なのに色々話しかけて怒られちゃった事があったよねぇ…………。



 過去の失敗を思い出し、苦笑いを顔に浮かべてしまう。



………それにしても、ハイリアルさまが魔法で氷の段々を作った時、わたしも何をするのか解んなかったなぁ。…………



 こう心の中で同意しながら、いつの間にかハイリアルとテグドラウが仲良くなっている事が不思議なように感じている。



「……氷魔法を唱えた事無いだろう。」



 ハイリアルはレイリーリャとテグドラウの二人を見比べながら尋ねる。



「まぁな。オレは魔法使えねぇからな。」



 テグドラウが当たり前のように同意する。

 彼女はハイリアルが推測する事を不思議に思いながらも、それに合わせて頷く。



「貴公らは氷魔法を全く使わないから、その特徴を全く知らない。


 一方我は、氷魔法をよく使っているから、その特徴を知っている。」



 ハイリアルは感情を表さずに淡々と説明を始める。



「まぁ、そらそうだな。」



 後ろを振り向いて聞きながら歩くテグドラウの足取りは遅くなり、進みも遅くなる。



「特徴を知っているから、それに思いついた行動を組み合わせ、実行してみた。


 ……それだけの事だ。威張れるようなものではない。」



 ハイリアルは説明しながら口許に苦笑いを浮かべる。



「氷魔法を使えたら、貴公らがやっていたのではないか。」



 彼は二人を見る。

 その態度から見下すようなものは無かった。

 その言葉は柔らかく暖かかった。

 二人だったら出来るというような確信があるように、断定したのだった。



「無理です。」



 しかしレイリーリャは、彼が見込む想いを断ち切るように、断言する言葉が口から出てしまった。


 テグドラウは彼女がこう一言だけ言い放ったのを耳にした瞬間、何も言わず額と眉間に皺を寄せ見つめる。その両口許も微かに引き下がる。



 それに気付かず彼女は、そう言い放ってしまってから自分自身に尋ねている。



……組み合わせが思いついたらどうなんだろう?……



 仮定する行動を想像するその視線が、何も無い宙を向かっている。



…………風魔法だったら、風をスカートに当てて、敵にパンツを見せて魅了…………は、あのヘンタイさん位しか引っ掛からないかっ。……



 思わず口許を歪ませ自嘲してしまう。



…………しっかも、そんな恥ずかしい事、ホントにするワケないし。



 テグドラウは彼女の顔を見るのを止め、再びハイリアルに振り向き、その顔を見つめる。



「出来ねぇよ。それで思いつくのはハイリアル、オマエだけだよ。」



 そう否定しツッ込みながらも、苦笑いを浮かべる。



「ここまでいくとイヤミ入ってるゾ。」



 ハイリアルは頭を傾け、テグドラウが否定する反応に途惑いながら考える。



「そうか?……海での漁獲なら、貴公だったら色々思いつく事あるだろう。」



「まぁ、魚を獲るのは、……ガキの頃から色々やってるからな。」



 海の男テグドラウは眉間に皺を寄せて考えながら同意する。



「我は漁獲を一度もやった事が無いから解らぬ。それと同じような事だ。」



 ハイリアルは言い切る。

 共感出来る手がかりを語り満足を感じるのか、その表情は柔らかく口許に笑みが浮かんでいる。



「そういうものか?」



「そういうものだ。」



 そう説明されたにもかかわらず、海の男の顔にはハイリアルが言う事を納得し切れておらず、晴れやかな表情ではなかった。



「…………それなら、まぁいいや。どっちも凄いという事にしておこう。」



 丸め込むような事を言っている自覚があるのか、両眉が下がった苦笑いを浮かべる。



「…………上手い事まとめたな。」



 ハイリアルも口許に笑みを浮かべる。



「違うと言われるより、褒められた方が嬉しいだろっ。」



 海の男が発する言葉に力感が帯び、その語尾も昂ぶる。

 この返しの言葉が快心の物に感じられたのか、見つめるその丸い顔の口許に笑みが浮かぶ。

 


「……それはそうだな。」



 二人は声を上げ快活に笑い出す。


 レイリーリャはハイリアルが楽しそうにテグドラウと喋り合う姿に見て驚きを感じた。


 普段は不機嫌そうに何も言わずに黙り続けている彼が、色々喋り楽しげに笑い出す姿を間近で見る事が無かったからであった。



…………何か、良いなぁ…………。



 この姿を眺めながら、彼が楽しげに振る舞う姿に嬉しさと微笑ましさを感じ始める。



……主人付きメイドがやるべき……いいや、やらないのが当たり前の事をわたしがしたから、こんな良い雰囲気になったよね。



 彼女は誇らしく心の内が充たされる様に感じる。


 だがその一方、心の奥底に沈むように寂しさと悲しさが潜んでいた。


 この寂しさと悲しさを意識しないで覆い隠すように、主人付きメイドとして相応しい行動をしたという自尊心で上辺を装い、誇らしさを感じ続ける。


 彼女の尻尾は左右に揺れる。

 泥がこびりついたかのように重く鈍く揺れる。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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