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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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47.支援

この作品を検索しても見つからず、探されていらっしゃった方々、申し訳ありません。

昨日6月9日より、ジャンルを『ファンタジー』から『文芸-純文学』に変更いたしました。


連載期間中にいろんな意味でやってはいけない禁じ手かもしれません。


ですが、この作品はファンタジー世界を舞台にしているにもかかわらず、主人公の様々な人とのかかわりと行動、並びに心理描写を重点的に行っていて、人間の心理に対して興味・関心のある方により強くアプローチ出来るように思えましたのでそう行いました。


今後もご購読して頂けると嬉しいです。


「…………そういう貴公らはどうするのだ?」



 ハイリアルはテグドラウに尋ねる。



「オレらは引き上げが始まるまでは、船から荷物を下ろしたり、何か雑用をするつもりだが。」



 アザラシの漁師が答えるその後ろで、ヌ=エンビが作業をし始め、黙々と空いた水樽を抱え船から降りている。



「……我も荷物運びか何か、出来そうな事を手伝おう。」



 彼は気負った様子は無く淡々としている。



…………えっ?ハイリアルさまも働くの?……休まないの?……



 レイリーリャはその申し出を耳にして、思わず驚き困惑する。身体の動きを止め固まってしまう。

 ハイリアルには後ろに控える彼女の姿は視界に入っていない。



「休むのは片付けが済んでからでいい。」



 彼の意思表示の言葉を聞くと、テグドラウは戸惑ったように少し両眉が下がり目が細くなる。


 それと同時に彼女の眉間が少し嫌そうに皺が寄り口許が歪んでしまう。



「……良いのか?海で船に乗って狩るのは初めてなんだろ?気付いてないかもしれないが、いつもより疲れが出るぞ。」



 テグドラウの言葉の口調から心配する様子が滲み出る。



…………そうよねぇ……。出来ればどっかに座って休みたいよね…………。



 彼女は疲れと船酔いによって体力がなくなり、身体の中に重りが入ったように重くなっているのを感じている。



「……大丈夫だ。片付けをする事は当たり前の事だ。


 ……もっとも曲がりなりにも部隊にいて、こういう作業をするのも慣れている……。」



 アザラシの漁師はこの同意を聞く。それでもその眉は下がったままだった。



「……そうか。……正直人手が足りないから、こっちも手伝ってくれるのは助かる。だが、疲れが出たり身体の調子が悪くなったら、途中で作業を止めて、休んでくれてもいい……。

 ……作業については、ヌ=エンビに聞いてくれ……。」



 そう低い口調で指示し、波止場の上に水樽を下ろした黒小人(フルーデル)の漁師を指さす。

 彼はそれに同意すると、フルーデルの漁師に向かって歩き始めた。

 それを見て彼女は嫌に感じてしまい、口許が歪み鼻柱に皺が集まってしまう。



…………ハイリアルさまぁ、勘弁して下さいよぉ…………。



 思わず彼女の気分は沈み溜息をついてしまう。

 しかし唇を噛んで、彼に置いて行かれないよう、重く感じる身体を引きずって付いて行く。


 彼女が目の前を通り過ぎる姿を見るなり、テグドラウは苦笑いをする。



「…………レイリーリャのねーちゃんよぉ、大分疲れた顔してるなぁ。……後片付けしなくても良いぞ……。」



 彼女は声に反応し顔を横に動かした。だがそうしたものの、彼に振り返ってその顔まで見ていなかった。



「…………大丈夫です。疲れていません……。」



 彼女の応える声に力は無かった。

 口許にだけ作り笑いが浮かび、眉間が皺寄った両眉が下に垂れ下がっている。


 アザラシの漁師は眉間に皺を寄せながらその顔を見つめる。


 波止場の地面の上を這いずり回るフナムシが動きを止めた。そして左右に生えた触覚を留めている船を探るように向ける。



「…………メイドだから、主人がする事に従わなきゃいけないのは解る、……だけどよぉ、無理して、そこまで仕事しないでいいだろ……。」



 その声は沈む。

 痛ましそうに両眉が下がり目が細まる。



「…………無理してはいませんが……。」



 彼女は無理している事自体は否定したものの、その後の言葉は続かなかった。口からその後の言葉は出なかった。



…………無理ねぇ……。



 彼女は言い返しながら彼の言葉を自ら省みる。



…………従者なんだから、主人の仕事の助けになんなくちゃいけないんだけど、……動けるなら、そうしなきゃいけない、よね?…………



 そう思いつつも、身体は重く感じるままだった。



 フナムシは波止場の地面の上を、只ひたすらと這いずり回り続けている。


 フナムシは歩いてくるギルド職員が近付くと、這いずって離れた。すると箱を抱えて運ぶ漁師の足下に入ってしまい、踏み潰されてしまった。


 踏み潰された死骸から中身が飛び出ている。



 テグドラウは彼女が今何を思っているのか顧みずに、漁船が留まっている方に振り返る。



「……ハイリアルゥ!従者のおねーちゃんは疲れているゾ!よく見た方が良いゾ」



 テグドラウは漁船の側で作業しているヌ=エンビに話しかけているハイリアルに向かい、叫んで呼びかける。

 その口調には非難するような棘は無かった。


 彼はそれに気付き彼女を見つめる。



「大丈夫ですッ。疲れてません。」



 彼女は彼の視線に気付いた途端、こう返事が口から出てしまった。

 そう声にしながら、―――疲れてんじゃんと、内心思ってしまう。


 そして、そう口にしてしまった自分自身に対して、なぜ思っている事と反対の言葉を口に出してしまったのか疑問に感じる。



「…………確かにそうだな……。」



 彼は彼女の言葉を無視し、テグドラウの注意に対して応えた。その注意の言葉を自らを非難する言葉だと見做さなかったようで、注意として受け入れている。



「…………レイリーリャ、調子悪いなら休んで良いぞ……。」



 投げかけた言葉は、余り感情が入らず淡々としている。



「陸の上ですので大丈夫です。」



 彼女は鏡の反射のように直ぐ口からこの返事が出てしまった。その言葉の口調は早く、緊迫している。

 その身体も自ら気付かぬ間に硬くなっている。


 その反応を見て彼は怪訝な表情を浮かべている。



「…………本当に大丈夫か?……」



 その言葉の調子は語尾が強まり、疑いの含んだものに変わる。


 彼女はその態度から、言っている言葉の内容だけでなく、出来もしないのに見栄を張って偽るような人間性ではないかと疑っているように感じてしまった。

 そう疑われたくないと思った瞬間言葉が出る。



「大丈夫ですので、……わたしも荷物運びか、汚れている所の雑巾拭きか何かします。」



 喋りながら、自分が行うという提案の言葉も口から出てしまった。口にしてから、自分でも良く咄嗟に思いついたものだと、内心感心してしまう。


 テグドラウはそれを聞いた瞬間、目を見開き口許を歪め驚きと途惑いを一瞬だけ表に現れた。そして眉間に力が入り表情が変わりその顔を凝視すると、その様子を見ながら考えている。

 彼女はその表情の変化を見る。



…………やっぱり、わたし、休んだ方が良かった?…………



 思わず不安を感じ、怯みそうになってしまう。

 アザラシの漁師が口を開く。



 「…………そこまで言うのなら、…………そうだなぁ……甲板の床拭きしてくれ。」



 その口調は重く、躊躇いがあるようだった。



「……甲板の上に溜まった海水を、さっと拭き取ってくれればいいからな。


……まぁ、ピッカピカになるまで綺麗にしないでいいからな。立っているのがしんどいのなら、座りながら拭いても構わんぞ。」



 その声のトーンは柔らかいが低く、眉間と額に皺が寄っている。彼女が本当に大丈夫か不安に感じているようで、配慮をしている。


 彼女はその配慮に、ここまでするんだと内心困惑してしまう。


 テグドラウは困惑する彼女を気にする事無く、作業するヌ=エンビの方を向く。



「……ヌ=エンビぃ!レイリーリャのねーちゃん、甲板の床拭きで良いだろっ。」



 ヌ=エンビは彼に呼びかけられると、作業を中断してその方を向く。



「そぇでいい!」



 フルーデル訛りが混じった返事を一言強く返した。その支援を最も求めているようだった。


 テグドラウは無言で頷くと、彼女に振り返る。



「決定だな……。それじゃあ甲板拭き、よろしく頼むな。……急ぐ必要ないから、無理しないで良いゾ。


 ……それと、必要な道具はヌ=エンビに聞いてくれ。」



 その声は柔らかだったが怖々している。その表情も額と眉間に皺を寄せ、不安を拭い去る事を出来ていないようだった。



「解りました……。」



 彼女は一言承諾の返事をする。

 重く感じる身体を意識してしまう。



…………自分で拭くのやると言った事だからしょうがないね……。



 彼女は他人を窘めるように自分自身に対して思う。

 その一方、別の自分自身が、やっぱり意地を張らずに休めば良かったという後悔を感じてしまっている。



…………それにしても、何か、自分で自分の首を絞めるような事ばかり、してるような気がするなぁ…………。



 ふと今までの自分自身の行動を振り返ってしまうと、呆れや落胆が混ざったようなものを感じる。

 そして自嘲するように溜息をつくと、ヌ=エンビが作業する所へ歩いて行く。



 潰れたフナムシの死骸をつまんでいる蟹がレイリーリャが近づいた事に気付く。その途端、一目散に横歩きして波止場の側面に身を隠す。


 その上の空で水鳥達が弧を描きながら鳴き声を上げる。

 自らを棚上げして茶化すような鳴き声だった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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