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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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46.対決


「……アイツ、そこまでして笑いを取りに行くかぁ。」



 犬族獣人が両手を叩いて馬鹿笑いする。

 ヌ=エンビは落ちた海の方を蔑む目で眺める。



おもしぉいなぁ(おもしろいなら)、平気で悪魔に魂を売ぅような男だ。|こぇぐぁいわざとすぅだぉう《これぐらいわざとするだろう》。」



 ゾーコンは波止場から海中に垂れたロープを掴んで這い上がると、全身海水でびしょ濡れになったまま戻ってくる。



「いやー、海に落ちるとは思わんかったわ。」



 額に皺を寄せ右口許を歪ませながら苦笑いを浮かべる。

 その声の調子は言っている内容とは裏腹に、楽しげに昂っている。



「わたしを馬鹿にした天罰ですッ!」



 レイリーリャはその姿を見て、非難するように言い放ってしまう。

 そう言い終えると右口許に笑みが現れ、歪んだ満足感と楽しみが混ざったような感じがする。


 ゾーコンはその反応を横目で目にしても何も言わなかった。そんな様子を彼女は気付く事を出来なかった。 



「オマエ、わざと海に落ちたんだろッ。」



 犬族獣人が指さしながらバカ笑いを続ける。



「バカヤロウ。アレはさすがに狙って落ちねぇよ。」



 泥棒髭は顔を上げ犬族獣人に否定する。



「狙うんなら、オメェも道連れにして落ちるわ。」



 額に皺を寄せ口許を歪ませ苦笑いする。



「……オマエなぁ……。……たまに港内に、鮫とか人食うヤツら来るんだから、安易に飛び込むなよ。」



 テグドラウが眉間に皺を寄せ、願うように頼む。



「……そーだな。……それにしても、まだ春だし、海の水は冷たくて寒いわ。水吸った服着たままだと風邪引くわ。」



 泥棒髭は濡れた服を脱ぎ出し始める。



「寒い、寒い。まだ脱がないと。」



 シャツやズボンも脱ぎ捨て上半身裸になる。

 弛んだ腹の肉が晒される。

 下着は海水で濡れ、皮膚が下から透ける。


 泥棒髭は彼女の方に顔を向けた。



「……ヘンタイのおっさんだからよぉ、それらしく動くのは自然な行動よ。」



 そう呟くと、下着を両脇腹側から左右の指を通して掴み、曲げた両腕を下に伸ばし下ろそうとする。



―――えっ?!まさかヘンタイさん、本当に下着も脱ぐの?!



 レイリーリャは男が脱いで全裸になってしまいそうで、思わず動揺する。



―――これって目を隠して見ないようにしないと、はしたないオンナって思われるの?

 ヘンタイさんの裸見たら、気持ち悪くなりそう……。

 


 両目を隠そうとする彼女の両手が両頬まで上がる。


 その振る舞いを見て、ハイリアルは掴んでいる薙刀のカバーを取り外した。

 薙刀の刃が晒される。

 そして何も言わず、下着姿の男を凝視する。


 ゾーコンは顔を上げるとそれに気付き、彼と視線が合う。

 彼女達も何も言わず、二人を凝視する。


 海風が背後から闘いをけしかけるようにその半裸身を叩き続ける。

 

 泥棒髭は演じるような大きな身振りで、両手を下着から離す。



「…………ニイちゃんの槍術や魔術には、敵わねぇや。」



 口許に薄笑いを浮かべ頭を左右に振った。

 その声の調子は低く沈んでいる。



「……おっかないヤローに向けて突き付ける為に、オレの棒術はあるんじゃねぇ……。」



 ゾーコンはそう呟くと歩き始めた。

 下着一枚の姿で何も着ずに、この場から去って行く。


 彼女は唖然として何も言えなかった。

 他の者達も何も言わなかった。


 下着からはみ出て弛む尻の肉を海風が叩き続ける。

 







































「…………おーい、アイツ、あの格好のまま、ギルドの建物の中まで入って行きやがったよ。まだハナシは全部終わってねぇぞ……。」



 漁民ギルド長ザブトゲルクはここから立ち去り漁民ギルドの建物の中に入っていったゾーコンの姿を、唖然としたまま見ていた。

 その振る舞いは想定外で、その口から漏れた言葉に力は入っていなかった。




 泥棒髭は報告を行っているこの波止場から立ち去り、漁民ギルドの建物の中に入って行った。下着一丁で。


 それまでこの場にいる者達はこの男を見続け、何も言葉を発しなかった。


 ここから離れた防波堤の方で言い争う漁民ギルドの者達が発する声と、波止場の岸壁に打ち寄せる波の音だけがこの場に拡がる。

 

 漁民ギルド長ザブトゲルクはこの場にいるレイリーリャ達に、改めて顔を向け直す。



「……あの男、ゾーコンだったか。始終ふざけてはいるが、ずっと平然とした顔しているな……。」



 ハイリアルは眉を引き上げ右口許を歪ませ途惑う。そうしながらも感心する言葉を口から出す。



…………平然と言うより、無神経だよね。わたしだって、こう見えてもオンナなのに……。



 レイリーリャはゾーコンに揶揄われた時の事を思い出し、怒りが湧き上がってくる。



「平然としているというより、無理矢理でも自分の世界に引きずり込んで主導権を握り、相手のペースにさせないんだよ。」



 テグドラウが眉間に皺を寄せ口許に手を付けつつ、考えながら答える。



「まぁ、仮に溺れても、ウケるんならそのまま溺れ死んでも構わないって思ってそうなヤツだから、それ位するか。」



 犬族獣人が口許を歪ませて笑う。



「そんなんヤツだし、ギルド内で大人しくしてるワケ無いな。」



「全くあのヤローは、オレが怒鳴っても全く気にしないからな……。」



 漁民ギルド長ザブトゲルクはその当時の事を思い出したのか、眉間に皺を寄せ溜息を吐く。



「あのヘンタイさん、そんなにやりたい放題なんですかぁ……。


 …………わたしも怒ってるのに、あのヒトは全く気にせず、ずっとわたしをからかっていました……。」



 彼女は泥棒髭の振る舞いを止められなかった事と、自尊心を傷つけられ続けた事による悔しさや苛立ちで、眉間に皺を寄せながら頬を膨らませる。



「……ねーちゃんはあのヤローに目を付けられて災難だったな。気にすんな…………と言っても気にしてしまうか……。」



 ザブトゲルクは彼女への適切なフォローの言葉が思い浮かばず困ってしまい、目を下に向け頬を掻いてしまう。



「……それはともかくとして、改めてレイリーリャ殿、ハイリアル殿の従者という立場上からとはいえ、勇気を持って遭難船救助並びに手鋏鮫漁獲支援をしてくれて感謝する。漁民ギルド長として礼を言おう。」



 ザブトゲルクはその態度を漁民ギルド長という立場のものに改める。そして彼女に向かってゆっくりと厳かに礼をする。


 彼女はその姿を見て、先ほど一緒に船に乗った漁師から褒められたとはいえ、そこまで敬意を示される程の仕事をしたとは思っていなかった。それで泥棒髭への怒りを一旦忘れ困惑してしまう。

 


「……報酬は算定額が決まった後に支払う形になってしまって済まないな。それまでは漁民ギルド建物の中で休めるから、そこで待機してくれ。あと夜に祝賀会で食事が出るから、それも食べて行ってくれ。」



 漁民ギルド長は漁民ギルドの建物を指さす。



「今回漁獲した手鋏鮫の鋏の肉も、今晩の祝賀会に出す予定だから期待してくれ。


 …………食いモンはタダだけど、酒代は取るから宜しくなッ。」



 両口角を上げ片目を瞑ってウィンクし、茶目っ気を出す。



「酒代取らねぇと、バカスカ呑みやがるヤツらばかりだしな。オレもそうだけど。」



 そして眉間と額に皺を寄せ苦笑いをする。



―――そういえば、わたしは成人の洗礼式で少し御神酒を飲んだだけで、伯爵邸のメイドになってから飲んでないよね……。あれはやたらと辛くて不味かったし。



 レイリーリャは昔を遡り、その時に飲んだ御神酒の味を思い出そうとする。



…………まぁ、お金も掛かるし、そんなに飲みたいとも思わないから、別にいいよね。



 すぐに考え直し苦笑いを浮かべる。


 なお彼女が今いるフォルデサリィーヌ王国内では、飲酒許可年齢については特に定められていない。しかし慣習として、ネレイス教が行う成人洗礼式を行う年齢である十五歳に達してから、飲酒を始める傾向である。


 漁民ギルド長は振り返り、漁船に繋がれ港内で浮かんでいる手鋏鮫を見た。そして周りにいる者達を目で確かめ、口を開く。



「……それと、あの曳いてきたでっかい手鋏鮫だが、引き上げるのは、…………総出で引き上げないとダメだろ?……あともう少し人集めてからにしよう。…………」



 その右口許が忌々しそうに歪み、眉間に皺が深く刻まれる。



「…………めんどくせーが、灯台にいるヤツらも呼んでこよう。それからだな……。」



 片手に握った杖で二回地面を叩いた。

 横たわった敵の急所に、とどめを刺すかのように。



「……何か聞く事は無いのか?……無いのなら、これで報告聴取は一旦終了な。何か気になる事が思いついたのなら、オレか他のギルド職員にでも聞いてくれ。オレだったら戻って来る船を待たなきゃいけねぇから、この辺りを探してくれ。」



 ザブトゲルクはそう言うと、側で記録しているギルド職員に近寄り話し始める。その途端テグドラウがハイリアルに近寄る。



「ニィちゃん達は手鋏鮫の引き上げが始まるまでは、どっかで休んでいてくれ。」



 その顔に柔らかな笑みを浮かべている。



「食堂にゃ、ゾーコンがストリップダンスしてるかもしれんから、落ち着いて休めないかもしんねーけどよぉ。うっとーしかったら、石でもぶつけてやってや。」



 少し離れた所にいる犬族獣人が笑いながら一言加える。



……ストリップダンスって、いくら何でもあのヘンタイさんでも、そんな所でそんなことしないでしょ?まさかねぇ……。



 レイリーリャはそれを聞いて怪訝な顔になる。


 ハイリアルもそれを聞いた瞬間、微かに口を開き呆れた顔になるが、気を取り直し顔を締め直した。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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