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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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45.報告


 レイリーリャ達が乗った漁船が港に辿り着くと、そこには他の漁師や漁民ギルドの職員達が集まっている。


 迎える職員達は昂っており、港に建てられた灯台の上から職員が遠見して、手鋏鮫を倒した事を確認する事が出来たようにレイリーリャやテグドラウら漁師達にも見えた。


 そうしたとはいえ、遠眼鏡の性能の関係上、倒した時の様子など、詳しい状況についてはっきりとは確認出来ていないようだった。


 テグドラウ達が漁船から港にいる職員達に向かって手鋏鮫を倒したと大声で伝えた時、彼等が歓声を上げ歓喜して迎えてくれた。


 この時レイリーリャは他者から歓迎される事を初めて味わった。自分が手鋏鮫を倒した訳ではないのに、興奮し誇らしく感じた。船酔いの苦しみを自分の身体から床の側に置いたかのように紛らわせた。


 自分がこの一員として、――程度はあるが、漁民達に貢献する事が出来たのである。



…………こんなにみんなが喜んでくれるなら、手鋏鮫退治に協力した意味はあるよね。



 レイリーリャは船酔いで苦しんだ影響で、喜ぶ顔には力無い。しかし呼びかけや拍手を以て歓迎する漁民達を見ながら満足感を感じている。



……自分達の力でこんなに沢山の人が喜んでくれる事なんて、…………わたしには二度と無いよね。……



 伯爵邸で勤めていた時を思い出す。


 もし自分が伯爵邸に戻ったら、どれだけの人が自分達を迎えてくれるのだろうか。


 そしてここまで、自分達を歓迎してくれるだろうか。


 あのいびりや嫌がらせを行い続けた副メイド長や先輩メイド達、それに見下し続けていた騎士達が。



………………まー、それ以前に、手鋏鮫を倒したのは、ワタシじゃないけどね。



 彼女は苦笑いして両眉がハの字になる。

 

 海から吹く風が彼女の背中から煽りながら通り抜け、メイド服の茶色い裾や白い髪が正面を覆うかのように靡く。

 


 漁船は港に辿り着いた。横向きに着岸し、係船柱にロープで結わえる。


 テグドラウ達が漁船から降りると、そこには他の者達に混じって、漁民ギルド長が杖を片手で突いたまま立って待っていた。


 漁民ギルド長ザブトゲルクは彼等の姿を見て、杖を片手で突きながら歩み寄った。


 挨拶をしてから怪我人の有無を尋ねると、ツーン草を身体に巻いたまま降船していたチーコロを、他の漁民ギルド職員に治療術士のいる漁民ギルドの建物へ連れて行くよう指示をした。


 漁民ギルド職員がそれを受けて、その肩を抱えて連れて行った。


 その間チーコロは痛がりも職員に反応もしなかった。

 ただ見えない何かを見ているかのように、ずっと宙に目を向けて物思いに浸っていた。


 レイリーリャは荷物を抱え、ハイリアルの後ろを附いて降船した。渡し板を渡り切り両脚が地面に着く。そしてそのまま立ち止まったまま、両目を瞑り感慨にふける。



………………ああ、上下に揺れず、ゆらゆらぐるんぐるんしない地面って、素晴らしいねぇ…………。


 ……これでもう、船酔いで辛い思いしなくていいんだ……。



 今まで身体に溜まった余計な力と緊張と一緒に息を深く吐いた。吐き終わると身体が軽くなり安らぎを感じる。両口許が緩んでしまう。

 

 両目を開け周囲を意識すると、いつの間にかハイリアルは漁民ギルド長達の近くにいた。テグドラウ達に呼ばれたのだった。


 それを見てレイリーリャは慌てて彼が立つ後ろに行く。彼はテグドラウの言葉によって手鋏鮫を倒した経緯を、漁民ギルド長達に説明し始めていた。


 彼女もその時の様子は離れていてよく見えていなかったので、一緒になって聞く。


 彼が魔法を二発放ってチーコロを救助し、手鋏鮫を倒す支援をした事を聞く。

 その時彼女はその魔術の力に敬意を持つと同時に、自分が仕える主君である事に誇らしく感じ、自らの自尊心が昂ぶっていた。



…………ハイリアル様に仕えて、わたしはよくやったよ。仕えるの止めないで良かったよ……。



……そんなハイリアルさまを、わたしが仕えて支えているんだよね。


……もしわたしがあの時仕えるの止めてたら、ハイリアルさまを支える人は誰もいなくなってしまうんだよね。…………



 彼女は考えを進めていくうちに、何か自分が凄い力を持っているような感覚を感じ始める。



…………わたしがいるから、あんなに凄い魔術師のハイリアルさまは…………


―――何考えてるのッ。わたし……。



 思わず傲慢な事を考えそうになっている。それに気付き慌てて止める。



………………なんか、わたし、身の程知らずな事を思ってしまいそうだったよ。正直わたしはこの旅では、あんまりハイリアル様のお役には立ってないよ。わたしに任さずに、自分で色々やっちゃうし…………。



 自ら自惚れないように思い直したものの、過剰な自己否定してしまい萎縮して気持ちが落ち込んでしまう。


 彼女が独り暗く沈むその周囲では、漁民達の成果報告が明るく賑やかに続けられている。


 漁民ギルド長ザブトゲルクは彼の遂行報告をあらかた聞き取ると、その後ろで控えているレイリーリャがいる事に気付く。


 漁民ギルド長はその名前を彼に聞いて再確認する。そして、彼女に顔を向けてその顔を見ると、手鋏鮫撃退の際に担当した役割と遂行内容等を尋ねた。


 レイリーリャは尋ねられ、何をどう説明して良いのか咄嗟に思いつかず、戸惑ってしまう。


「……えっ、と……」と口から出てしまったものの、その後の言葉はすぐに続けられなかった。


 それらについて説明しなくてはいけない事を予め想定しておらず、頭の中で整理していなかったからであった。


 彼女自身が気付かぬうちに身体が熱を帯びていて、両口許に笑みが浮かび、頬が微かに赤く染まる。途惑いと嬉しさの混ざったような気持ちを感じながら、自らの行動報告の言葉を口から出そうとした時だった。



「この女性は漁師の鑑です。


 この出港から帰港まで、捕獲支援で、船縁から撒き餌として、船酔いによる嘔吐物を口から放出し続けておりました。


 私は彼女を見習い、酔いを言い訳にして口に放出し続けたいと思います。」



 彼女が語り始める前に、厳かな表情を装ったゾーコンが、横からその行動の『功績』を語る。


 これを聞いた瞬間彼女は驚愕する。

 ゾーコンに乗船中ずっと船酔いで吐き続けていた事を暴露され恥ずかしく感じた。


 それに捕獲報告という大事で真剣に行わねばならないと思われる時に、自分をフザけたネタにされ揶揄われた怒りで言葉が出なかった。尻尾も逆立ったまま固まった。



「…………オマエ、さすがに若いオンナの娘相手には、気を使ってやれ。嫌われるゾ。」


 ザブトゲルクはゾーコンのウケ狙いの『説明』を聞くなり、額に皺を寄せ苦笑いをしながら窘める。



「大体おめぇは、口だけで満足出来るのかぁ。」



 犬族獣人はゾーコンをツッ込みながら嘲る。


 またハイリアルも口許に笑みを浮かべる。



「…………我の従者なのだから、そろそろ揶揄うのはいい加減にして貰いたい。」



 しかしその装う笑みとは裏腹に、咎める口調と目線はゾーコンを刃物で鋭く刺すようであった。


 そしてヌ=エンビやテグドラウ達が、船内で彼女が行った事を、誇張を交えながら評価し賞賛するような感想を述べてフォローする。


 レイリーリャはそういったフォローを黙って聞いていた。

 ゾーコンに対する腹立たしさは心の底に残ったままだった。



…………何か照れちゃうなぁ。そこまで褒められちゃうとねぇ……。


 わたしって、そんなに素晴らしいオンナなんだぁ…………。



 それでも彼らの賞賛や誇張評価を耳にしながら、嬉しさや充たされ感、誇らしさが湧き上がる心の中から昂り、口許から笑みが現れそうになってしまう。


 自分が船内で行った行動や能力、彼女自身そのものが、彼らによって高評価を受け、自己評価が高まり、自己肯定感が昂り自尊心が満たされたのだった。



「……あの娘は、ぶな酔い(ふなよい)くぅしんでいた(くるしんでいた)のに、ワシぁ(ワシら)と一緒になってテグドァウ(テグドラウ)達を船内に引き上げた。娘なのにええ根性しとぅなぁ。


「……それにだぁ、あの魔術師の男の女中なのに、あ奴を引き上げぅのよぃ(より)、ケガ人チーコォ(チーコロ)の方を優先したのだゾ。しかぁぇぅ(しかられる)のをおそぇず(おそれず)だッ。……あの若い娘で、なかなかこっちをえぁんで(えらんで)行動出来んゾ。自分自身の都合を二の次にして。…………」



 こう船酔いを我慢し続けながら一緒になってロープでテグドラウ達を引き上げた事をヌ=エンビが賞賛するのを聞いた時には、全く想像をしていない程の高評価だったので、ぞくりと身体に寒気さえ感じ、その感覚がまた彼女には嬉しく心地良く感じたのだった。



「……バカヤロゥ。撒き餌をバラ撒いて味わせただけで満足する漁師どこにいるッ。」



 犬族獣人相手に得意げに笑いを浮かべるゾーコンの顔をレイリーリャは再び目にする。

 彼女が感じていた高ぶりと嬉しさが脇に一旦置かれたように感じる事が治まり、再び心の底から湧き上がってくる憤りと蔑みと忌々しさを感じ始めている。

 彼女は腹立たしさが表情に現れないよう意識して抑えながら、側に立つ男に顔を向ける。



「……ヘンタイのおじさん、わたしを揶揄うのは本当に止めて下さい。」



 それでも心の内に沸き立つ腹立たしさに委ねて流されてしまい、心の中で呼んでいるその呼称が表に出てしまう。


 それを受けてゾーコンは、彼女の目を、厳粛な顔を装って凝視する。

 彼女は眉間に皺を寄せ無言で見つめ返す。

 二人の視線がぶつかり合う。



「おう、オレはアンタを揶揄って(からかって)なんかいねぇよ。


 ……単に玩具のように扱い楽しんでるだけよ。」



 泥棒髭の釈明は平坦な口調であった。

 彼女はこれを聞き終えた途端表情が変わり、怒りで眉が痙攣し目を見開き顔が赤くなる。



「……いい加減にして下さい!同じじゃないですか。わたしをオモチャにして遊んでるだけです!」



 彼女は怒りで叫んでしまい、思わずゾーコンの背中を平手で叩いてしまう。するとゾーコンは背中とは反対側の胸を抑え、顔を歪ませ苦しい顔を装い、トーンが平坦なうめき声を上げながら脚をふらつかせる。



―――えっ、これってわざわざ演技してるんだよね?……



 レイリーリャは全く想像していなかったゾーコンの反応を見て戸惑ってしまった。叩いてしまった罪悪感どころか、怒った方が良いのか解らず無言で見続ける。



「……まーた、始まったか。」



 ザブトゲルクは杖を掴んでいない右の手のひらを上に上げながら呆れる。



「…………あの男はいつもあのような感じなのか?……」



 ハイリアルがその振る舞いに呆気を取られながら、テグドラウがいる方を向いて尋ねる。


 そんな周囲の反応をよそに、ゾーコンは平坦な口調で唸り声を上げ続け、左右によろめきながら後ずさりする。



………………そこまでして、遊ぶ……。



 おちょくり続けるようなその行動を見てレイリーリャは嫌になりうんざりした。怒る気も萎えてしまうと、ゾーコンが海に落ちた。


 その叫喚の叫びと共に水飛沫が上に舞い上がる。

 波止場の端から足を滑らせ海に落ちたのだった。


 一瞬何が起こったのか彼女には解らなかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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