表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/58

44.関心


 漁民達は再び作業をし始めた。

 ロープで繋いだ手鋏鮫を曳いて漁船は港に向かって戻り始めた。

 ハイリアルも帆を操るヌ=エンビ達を手伝っている。

 

 レイリーリャは引き続き金髪男の様子を見ている。

 金髪男はずっと何も言わずに、海が見える方向に目を向けている。意識は既に戻っているように彼女にはそう思えた。だが金髪男は側にいる彼女を気にする事など全く無かった。


 指一本動かさずにずっと同じ方向に目を向けているので、本当に海を見ているのか彼女には解らなかった。目を見開いたまま意識を失っていると説明されたら、素直に信じてしまいそうだった。


 しかし彼女は金髪男に話しかける事は出来なかった。

 先程ゾーコンに殴られ責められた事に対して、怒っているのか悲しんでいるのか、今どんな思いや感情を抱いているのか解らなかった。そして金髪男が何らかの反応をした時に、どう言葉を返していいのか解らなかった。

 それ故に話しかける事は躊躇してしまうのだった。


 だがそうだとはいえ、金髪男の側にずっと居続けている事は、彼女にとっては余り気持ちの良い物では無かった。


 この金髪男を見続ける無言の間に対して、気が重く感じている。


 金髪男の存在を意識してしまう事で、見ているだけでは済まず、何かしなくてはいけないのに、それが出来なくて罪悪感を抱えてしまうような嫌な気持ちになってしまうのである。


 近くでロープを引っ張って帆を操っているヌ=エンビに声を掛ける。



「すいませーん、わたしは何したら良いんでしょう?金髪の人を見続けた方が良いのでしょうか?金髪の人、意識が戻りましたけど……。」



 金髪男はレイリーリャが尋ねている事自体気付いていないかのように、海のある方向に顔を向け続けたままでいる。


 漁船に曳かれた手鋏鮫の死骸の背後が波立ち、海面を打ち付ける白波の周りを、白波に紛れた小魚を狙って海鳥がその側を舞っている。



「そうだなぁ、……。綱引っ張ぇと言った時に、手伝ってくぇぇばいい。」



 ヌ=エンビの方も今現在人手が足りない作業が見当たらないようだった。



「港に着いたぁ、荷物の上げ下ぉしや手鋏鮫のいく揚げ(りくあげ)に手伝ってもぁう(もらう)が、そぇまではゆっくぃ(ゆっくり)して休んでぉ。」



「解りました。その時になったら呼んで下さい。」



 レイリーリャは同意する。

 フルーデルの漁師はそれに無言で頷いて返すと、帆に掛かるロープを掴み調整を始めた。


 彼女は帰港するまでは待機する事となり、甲板の上に座り込む。金髪男の容態がこれ以上悪化しないか見続ける必要は無くなった。

 これからどうしようと思いつつ周りを眺める。


 ハイリアルとテグドラウは船尾で手鋏鮫を引くロープの前で何か雑談をしている。ヌ=エンビは犬族の獣人と一緒にロープを掴んで帆の調整を行っている。ゾーコンは操舵場で舵を握っている。

 手鋏鮫を倒し彼らから漂う緊張感や切迫感は薄れている。


 だが彼女から緊張感は抜け切っていなかった。両肩には何か重い物がまだのしかかっている。


 口を閉じ鼻から息を吐く。

 内心、項垂れ溜息を吐きたくなるような気持ちだった。

 しかし、それをしてしまったら、それを目にした相手に対して何か失礼な上に、怒りを買ってしまう恐れもある。


 彼女が座る先には、金色の髪をしたチーコロが座り込んでいる。

 彼女にはこの殴られた男をいないものとして振る舞う事は出来なかった。


 海のある方に顔を向けている金髪男の視界に入っていて、彼女の存在を意識しているのか解らなかった。

 視線をこちらに向ける様子は無く、関心自体あるのか疑わしかった。


 チーコロは先程、ゾーコンに殴られ怒鳴られた上に、テグドラウにも警告を受けていて、彼女には今現在どんな心境か解らなかった。

 それというのは、その顔には怒りや悲しみなどといった表情が現れていないように見えたからであった。


 彼女はそんな斜め前で座っている金髪男の態度に不安を感じつつも、何も話しかけずに放っておくのも何か気持ちが重く感じ気まずく感じる。


 ツーン草を巻いたその腹部を、自ら誇張した動きをしながら眺める。


 

「…………手鋏鮫に挟まれたお腹の方は、大丈夫ですか?……」



 両眉と両口許を下げて『大変ですね』という感じの表情と声を装って尋ねながら、その顔を見る。

 金髪男は声を掛けられ彼女の顔に眼を向ける。



「腹?良くはない。」



 その顔には相変わらず表情が現れない。

 彼女はこの応答に少し途惑い、眉間に皺を寄せる。



「……良くはないのでしたら、どこか痛む所にツーン草を貼りましょうか?」



「いらない。」



 その声の調子は平坦で棘はなかった。

 帆が海風で靡き、音を立ててはためく。



「……そうですか…………。」



 彼女は戸惑ってしまう。

 話が続けられず、どんな言葉を続けて話せば良いのか解らなかった。

 それでも考えてみる。



「……何かありましたら、わたしがやりましょうか?」



 思いつかなかったので、とりあえず尋ねてみる。

 彼女の後ろでヌ=エンビ達が作業を行い、物が置かれる音や足音がする。



「ない。」



 この金髪男の拒絶する応答の声も、平坦で棘は無かった。

 彼女の後ろで漁師達が喋り合う声がする。

 金髪男の顔には相変わらず表情が現れない。



「…………解りました。問題ないですね。何かあったら言って下さい。」



 彼女は困惑で崩れてしまいそうな顔を平静に装う。どう話をし続ければ良いのか解らなくなる。


 金髪男は相変わらず表情無く、海が見える方に顔を向け続けている。



…………この人、話しかけられるの嫌で、怒られそうな感じはしないけど、…………



 彼女には、金髪男がその内心の想いに共感し理解して欲しいのか、同情して一緒になって愚痴って欲しいのか、それとも何も声を掛けずに放っておいて欲しいのか、或いはそれ以外なのか、どんな振る舞いをして貰いたいのか解らなかった。



……手鋏鮫の事触れちゃあマズいのかなぁ?やっぱり。この人……。



 彼女はチーコロがゾーコン達に殴られ激怒され叱責された事などを思い出す。

 この金髪男とは完全な初対面で、どんな人間か彼女には全然解らない。それ故にその事に対して下手な言葉を掛ければ余計な怒りを買う。そんな可能性もあるように感じられる。



……そうなると、この人とは関係ない事がいい?……



 レイリーリャは内心戸惑いつつ、改めて話しかける。



「…………今日晴れて助かりましたね。」



 喋りながら、この話題なら大丈夫かなと軽く疑う。

 チーコロは彼女に目を向けるが、表情は変わらず無表情だった。

 

 

「そうか。」



 応答する声の調子も平坦だった。

 彼女はそれを聞いた瞬間、内心それだけかと呆気にとられてしまう。



「…………そうなんですね。……」



 それでも気を取り直し、話を続ける。



「…………もし雨降ったら、大変だったと思います。」



「そうか。」



 その表情は相変わらず無表情だった。応答する声の調子も平坦だった。


 彼女はそれを聞いた途端、唖然として絶句してしまう。



「…………。」

 


 飛んでいた海鳥がマストの柱に止まった。そこから落ちたフンが甲板に音を立てへばり付く。



…………この人、わたしのハナシに興味ない?!……



 彼女は金髪男の反応が乏しい理由について考えてしまう。



……もしかして、わたしのハナシがつまらないせい?……だとしても、もう少し普通の返しは、出来るよね?



 彼女の意識の上には上がっていないが、その心の底には、自分の価値を認めて貰えない悲しさの混ざった寂しさが沈んでいる。



……それなら、わたしの顔が可愛くないせい?……確かに、あの人とは全く釣り合わないのは認めるけど、そんな酷い仕打ちする?フツー。……


…………いや、そんだったら、もっとキツい返しを何度もしてそうな気がするけど……。



 彼女は思わず自らの劣等感が絡んでいる容姿を、その原因だと見做してしまう。直ぐに自ら否定するが、気持ちは重く沈む。


 金髪男は感情が何も表れていない顔をして、海のある方を向いたまま何も言わないのは全く変わっていない。



…………もしかして、まだ、この人、痛みがあって、身体の調子が悪い?


……もしそうなら、ツーン草なり何かの薬草貼ってくれって頼むよね?本当に何だろう?……



 彼女は色々理由について考え続ける。しかし直接金髪男本人にその理由について尋ねない為に、想像するどの理由も確証は得られず堂々巡りになってしまう。


 レイリーリャはチーコロが視界の隅に残ったまま、何も話しかけられなくなってしまう。

 互いの視線は向かい合わず、各々違う所に目が向いている。


 二人の間を海風が吹き抜け、海原の彼方へ過ぎ去っていく。

 


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ