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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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39.共闘


 ハイリアルは船縁を踏み締め、手鋏鮫に向けて跳び上がる。そして直ぐに風魔法を唱え飛躍した。

 着ているローブの裾が海風に靡かれ、風魔法によってより遠くより高く飛躍する。


 その眼下に、手鋏鮫が金髪の男を手鋏で挟んでいるのが見える。身体が落下し始め薙刀を構える。魔法攻撃の為だ。重力に身を委ねる。身体は手鋏鮫に向かって落ちていく。視界には金髪の男を挟む赤黒い手鋏の外殻が迫り来る。


 ハイリアルの身体が外殻の目前を落ちていく。その瞬間に光の線が手鋏を貫いていた。その薙刀から放たれた光の線は七色に変化しながら輝いていた。

 その彼は海面に落ちていた。水飛沫が囲むように高く舞い上がり、身体が海中に沈み波に掻き消される。


 光の線によって手鋏鮫の手鋏が貫かれた所は、中の筋肉ごと焼き尽くされ丸い空洞と化していた。手鋏は金髪男の身体の重みに委ねられ、力無く開かれる。力を込めて挟み続ける事は出来なくなっていた。

 男の身体は力無く重力のままに海面に落ちた。海面に水飛沫が拡がる。


 手鋏鮫は自らの手鋏を魔法で貫かれたにも拘わらず、全身が固まったまま動いていなかった。何が起こったのか理解出来ていないかのようだった。

 手鋏鮫は起こった事を確かめようと、視線をその手鋏に向けた。その途端、両腕を振り回し身体を前後左右に大きく振ってのたうち回る。空いた穴を見てからその痛みがようやく脳に伝わったかのように。

 両腕や身体を海面に叩き続ける。波が拡がり水飛沫が飛び散る。



「チーコロぉ!」



 テグドラウは金髪の男の名を叫ぶ。そうして海面に力無く漂っているその身体まで泳いで辿り着くと、身体を後ろから抱えその顔を海面から上げる。

 顔は青白く両目を閉じたまま意識は無い。



「死ぬんじゃねぇゾ!ボケェ!」



 テグドラウは空いている方の手で金髪の男の頬を平手で叩く。

 その呼吸は微かにあるようだが、意識は戻っていない。



 二人と離れた海中からハイリアルの頭が浮かんで現れる。その途端、彼は大きく苦しかったように息を吐き、何度か荒い呼吸を繰り返した。

 やがて落ち着きゆっくりとした呼吸になると、辺りを見回してテグドラウ達が海面に浮かんでいる姿を見つける。そして顔を上げ、口の中に海水が入らぬようにしながら呼びかける。



「…………二人とも、大丈夫かぁ?!」



 彼は海中に沈まぬよう、薙刀を掴んでいない腕や両脚で掻き続ける。

 テグドラウはその方に顔を向け大声で応える。



「オレは大丈夫だが、コイツは、…どうだろう……。」



 腹立たしそうなテグドラウの顔に、鼻っ柱を中央に寄せ集めるような皺が出来る。

 アザラシの漁師に抱えられた金髪の男の両目は開かぬまま、海面に浮かぶ金色の長い髪が波に乗って拡がっている。


「今すぐにでも治さないとな……。」


 

 そう口にしながら険しい顔をして辺りを見回す。



「……それなら、船に乗せれば、治療出来るな…………。」



 彼はその緊迫している態度に気付くと、自らを落ち着かせるように言う。

 いつの間にか海面から手鋏鮫の姿は消えている。



「……気をつけろ!手鋏鮫が海中から喰らいついてくるかもしれん。」



 テグドラウが彼に向かって叫ぶ。

 彼は海面を見回してから海中を見る。手鋏鮫は海中深くに潜っているのか、その目に入らなかった。



「…………やっぱりハサミ野郎は、殺らないとダメか。」



 漁師は金髪の男を片手で抱えたまま銛を構える。その声は昂り、両目を剝いて獰猛な笑みを浮かべている。


 ハイリアルは海中から顔を上げ息を吸うと、海中に身体を沈めた。

 手鋏鮫が海中深くまで泳ぎながら潜り、三人を襲う隙をうかがっている姿を見つける。


 彼は手鋏鮫を見据えようとする。しかしその身体は海流に巻き込まれ、海底に向かって沈んでいく。

 呼吸を止め息を吸えず、喉の奥が苦しくなる。

 その苦しみを我慢しながら、薙刀を構えようとする。



……クソッ、……動くんじゃない…………。



 しかし魔法で狙撃しようにも、手鋏鮫は泳き続けしっかり狙いを付けられない上に、自らの身体が海流に流され沈んでいく。その上に息苦しさで集中出来ず、狙いを定められない。

 しかし気合いを入れ、息苦しさを我慢する。



…………こっちに来い。


 

 彼は空いている方の手で、手鋏鮫に向けて挑発するように腕を振る。意識の無い金髪の男を抱えたままのテグドラウから、手鋏鮫の目を逸らすつもりだ。


 しかし手鋏鮫はその要望に応えなかった。彼に一顧もしなかった。

 手鋏鮫はその方に向かって来ずに、テグドラウ達に向かって襲おうと浮上している。


 彼は苛立ちを抑えつつ、改めて手鋏鮫が泳ぐ軌道を想像し薙刀を構える。それを終える前に、テグドラウ達を襲いかかろうとする手鋏鮫が側面を晒した。彼の身体は意に反し、海流に揉まれ海底に流されていく。


 薙刀の先から放たれた七色の光の線が海中を走り抜ける。手鋏鮫の開閉を続ける鰓孔の上を貫く。



…………仕留め損ねたか。



 ハイリアルは狙った手鋏鮫の急所に光魔法が決まらなかった。絶命させる事が出来ず苛立ちを感じる。



―――想像以上に海流で身体が流されてしまう……。



 手鋏鮫は痛みで悶え左右に頭を振ってのたうち回る。海中で黒く見える血が傷口から拡がり、海水と混ざりあっていく。

 テグドラウの眼前にのたうち回る手鋏鮫の魚体が浮かび上がる。 



「オラッ!死ねや、ボケハサミッ!」



 漁師は手鋏鮫に向かって怒鳴ると同時に銛を突き刺した。銛先の刃が手鋏鮫の目の上に刺さる。

 手鋏鮫は藻掻き苦しみ、衝動的に振る手鋏の力は弱い。


 漁師は手鋏を身体で避けながら銛を握り直した。逃れようとする手鋏鮫の頭を両脚で挟み、もう一度腕に力を込めた。その口から怒号が上がる。


 鈍く反射する銛の先が手鋏鮫の頭の肉に食い込んでいく。銛の先が根元まで食い込む。

 手鋏鮫の頭を挟んでいたその両脚が滑り落ち、足から海中に沈んでいく。


 手鋏鮫の手鋏の動きは弱々しく僅かになっていく。その身体が二度痙攣をすると、どの部位も動かなくなった。両腕の手鋏が力無く水中に垂れ下がる。動きが無くなった身体は波に揺らされ、上下に動き漂う。


 ハイリアルは海面に浮かび上がり、テグドラウの戦いを警戒しながら見つめていた。



「…………倒したのか?」



 彼は海面に浮かんで漂う手鋏鮫を見つめ続けながら、テグドラウに尋ねる。



「……ああ。死んだ振りは、してないな。」



 漁師は手鋏鮫の頭に刺さったままの銛を、中に響くように二回叩いた。手鋏鮫の魚体はそれに全く反応せずに海面に漂い続けている。



「あんちゃんの光魔法?アレのお陰で、ハサミ野郎を倒すの楽になったぜ。」



 その声は昂り、両口許を上げ笑みを浮かべる。



「海流に流され沈んでしまうから、狙いが外れ一撃で仕留める事が出来無かった……。」



 ハイリアルの口許は歪む。

 予め決意した通りに手鋏鮫を倒せなかった自分自身に対して失望と不満を感じ、内心自らを非難している。



「それはともかく、……その男は大丈夫なのか?速やかに港に運んで、治療魔術をかけるべきではないか?」



 彼は自らの気持ちを切り替えるように、金髪の男の容態について気にかける。



「……そうだな。大きな傷は見えないが、ハサミ野郎に挟まれた所は、……内出血しているようだが、内臓のダメージまでは解らんな……。」



 テグドラウは手鋏鮫を倒した昂りも鎮まり、片手で抱えた金髪の男の腹部を見る。その声の調子は沈んで低くなる。


 手鋏で挟まれた金髪の男の脇腹から腹部までが、帯のように紫色に変色している。


 突然テグドラウの近くの海面にロープが飛んできた。ロープの結ばれた端の方が海面に当たると、波飛沫が上がりロープの端は海中に沈んでいく。



「テグドァウ!こぇに掴まぇ」



 ヌ=エンビのフルーデル訛りの混る叫び声が拡がる。

 漁師はその声を聞くと、ヌ=エンビ達が乗る漁船の方を凝視する。そして投げられたロープを掴もうと、金髪の男を抱えていない方の腕で海中を掻いて泳ぎ始める。


 ハイリアルはテグドラウ達がロープを泳いで掴もうとする姿を見つめる。

 テグドラウは波にもまれつつも、空いた手をロープに伸ばしている。



「……あの男のお陰で、あれで済んだな……。」



 ハイリアルは独り淡々と呟く。その言葉は波の音に紛れ、誰にも聞こえていなかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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