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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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38.強襲


 手鋏鮫は再び浮上し、逃げる漁船の側面を鋏で挟んで砕こうとし始める。

 その時近付いた小舟から、金色の髪をした長身の男が手鋏鮫に向かって跳んだ。金髪の男はその勢いでその鋏に銛を突く。だが鋏の甲殻に銛は刺さらずへし折れた。

 男の身体はそのまま海面に落ちて中に沈む。

 水飛沫が飛び散る。

 手鋏鮫は漁船の側面を挟んでいる鋏を開いて外すと、男を追って海中に潜る。


 その様子を漁船から見つめているテグドラウは苛立ち、目を見開く。



「あのバカ!飛び込んで銛突くの早ぇよ。」



 忌々しそうに声を荒げる。



「しかも、わざわざ硬いトコに銛を突くかぁ?!クソッ!……」



 顔を歪ませ長身の男が飛び込んだ所を凝視しながら、銛を投げるように身体を屈ませ銛を握り直した。そして後ろに振り向く。



「早くフネを漁船に寄せてくれ!」



「はいよぉ~。取り舵いっぱぁい。」



 ゾーコンは緊張感無くにやついた表情を崩さぬまま舵輪を左に回す。



「解った。帆の向きを変えぅぞ。」



 それを聞きヌ=エンビと他の漁師が、握り締めたロープを身体で引っ張り帆の向きを変える。船体は左に向きを変える。



「射程距離内に入ったら、我の判断で手鋏鮫を魔法で撃って良いか?」



 テグドラウの後ろで両脚を少し広げ中腰で立っているハイリアルが、アザラシの漁師に確認を取る。

 漁師は彼に振り返り即断する。



「構わん。波で揺れるから気を付けろよ。」



「了解した。他の船や人など、変な所に当たらぬよう心がけよう。」



 彼は頷くと、持っている薙刀を上に上げ手鋏鮫が沈んだ方を凝視する。



…………さすがにこのまま寝てたら、何でここにいるのか解んないし、邪魔になるだけだよね……。


 

 甲板の上で横たわりながら彼らの様子を見ているレイリーリャは思う。

 船首で銛を構えるテグドラウと、その後ろの船縁から海中を覗き込んで手鋏鮫を捜すハイリアルの後ろ姿が見える。



―――何に役立つか解んないけど、とりあえず、ハイリアルさまの近くにいよ……。



 彼女は胸の中から込み上げる刺激と、口の中にへばり付くような生臭さによる気持ち悪さを我慢しながら上半身を上げた。


 それから作業をする船員達の邪魔にならないように注意しながら、彼らの方に四つん這いで這っていく。そしてその近くまで辿り着くと、両腕を後ろについて甲板の上に座り込んだ。相変わらず酸っぱく生臭いものが再び口の中に込み上げてきそうで、気持ち悪いままでしんどく、身体はだるく重いままだ。



……まだ立てないけど、ハイリアルさまに声かけた方が良いのかな?……



 彼女は薙刀を構えたまま海中を凝視するそのの後ろ姿を見つめる。

 どうしようか迷っているうちに、彼が気付き振り返る。

 ここまで彼女が付いてきたのが想定外なのか、少し目を開き微かに両口許が上がっている。



「…………たったほうが いいですか?……」



 彼女は甲板に座りこんだまま尋ねる。立ち続けたらまた気持ち悪くならないか不安に感じている。


 ハイリアルは状態が元に戻らずに甲板に座り込んだままの姿を見ながら、何も言わずに少し考慮する。



「…………いや。そこに座ったままでいい。」



 その声の調子は少し柔らかかった。

 この差し迫った雰囲気の中では似つかわしくないものだった。

 彼女は彼が厳しく求めるような緊迫した状況だと思っていただけに、この反応は意外に思った。



「…………とりあえず、海中からでも、手鋏鮫が襲ってきてらすぐに反応出来るように、この船の周囲を監視していてくれ。」



 彼は薙刀で乗っている漁船の周囲を囲むように動かし指示をする。

 今の状態の彼女が出来る事を踏まえたものだった。



「…………かしこまりました。」



 彼女が頭を下げると、彼は再び正面を向いて海を凝視し始めた。

 彼女は漁船の周囲の海を見ずに、その背中を見ている。



……ハイリアルさまがわたしに気を遣ってくれたのはありがたいけど、魔物に追いかけられてる漁船の方を見ないでいいのかなぁ…………。



 彼女はその配慮に感謝しつつも、状況が状況なだけに疑問に思う。



……まぁでも、考えてみれば、あの魔物、手鋏鮫だっけ?あの追いかけられてる漁船を襲うの止めて、こっちの漁船を海中に潜って反対側から襲う可能性は……ないことないんだよねぇ…………。



 改めて考え直すと、その指示通り、この漁船の周囲の海を眺め始める。海面は魔物の事など関係ないように波がうねり続けている。



「クソッたれッが!」



 突然テグドラウがそう文句を吐き捨てた。そして直ぐに銛を握ったまま海中に頭から飛び込んだ。


 その先には海中から浮上した手鋏鮫が、先に海中に飛び込んだ金髪の男の胴体を手鋏で挟んでいる。



「氷鎗」



 ハイリアルはそれに気付くと同時に、薙刀を構え『氷鎗』の魔法を無詠唱で唱えた。薙刀の刃の先に現れた蒼白の氷の鎗は、手鋏鮫の頭部に向かって滑翔する。


 その時、波に揺られ海面が沈む。浮かんでいた手鋏鮫の魚体も一緒になって沈む。

 氷の鎗は外れた。

 手鋏鮫の頭の上を飛んでいき青空へと消えていった。


 ハイリアルはターゲットから外れると同時に舌打ちした。その眉間に皺を寄せ口許を歪ませ忌々しそうな表情になっている。



「海面が沈んだお陰で狙いから外れた……。」



 船は波によって上下に揺るがされる。

 思わずレイリーリャは転がらぬよう四つん這いになって、彼が狙った先を凝視する。

 波に合わせて二人の身体に波飛沫がかかる。

 彼女の身体が竦み、飛沫を浴びて濡れた顔が歪む。


 手鋏鮫の鋏に胴を挟まれた男は仰向いたまま動かず、その顔は青白くなっている。



「……あ奴を挟んだまま海に潜ぁぇぅ(もぐられる)と、死ぬな…………。」



 ヌ=エンビはロープを握り締め険しい顔をしながら、手鋏鮫を凝視する。



 テグドラウは手鋏鮫がいる所まで泳いで辿り着くと、怒鳴り続けながら、手鋏鮫の腕と胴が接する外殻の無い所を銛で何度も突き刺している。

 銛の先が刺さった所から赤い血が流れ海面に拡がり混ざっていく。


 しかし手鋏鮫からの攻撃が妨げとなって、金髪の男の側まで寄って助ける事は出来ていない。



―――あの人、このままだと死んじゃう。



 レイリーリャは手鋏鮫の鋏に挟まれた男の状態を見て動揺し、恐ろしくなる。尻尾の毛も逆立っている。

 思わず振り向きハイリアルを見つめる。



―――何かしますか。



 彼女の想像と期待が込められた瞬間だった。

 ハイリアルは力を込めて船縁の上を踏み締めると、手鋏鮫に向かって跳び上がった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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