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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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35.漁民ギルド


 ハイリアルとレイリーリャの二人は漁師ギルドの建物の中に辿り着いた。


 その屋内は作業場のようで倉庫のように天井は高く広々としており、その壁際にはかごや網などといった道具や物品が端に寄せ積まれている。


 その中の一角では、肥えて鈍重そうな身体の上に作業服を纏う漁民ギルドの職員達が、固まって相談している。

 その一方、顔や腕が日に焼け筋肉で引き締まった身体が着衣越しで浮かび上がる漁師達が、建物内と外の港の間をうろたえながら行ったり来たりしている。


 作業場内で集まって相談している人数は四人程度のようで、レイリーリャの想像以上に少なく意外に思えた。


 相談している者達の中に左手で棒のように太い杖を握った厳つい中年の男がいた。その者を中心として周囲に人が集まり、指示を出し報告を受け指揮を執っている。


 レイリーリャは周囲の様子から、この厳つい中年男が漁民ギルド長か何らかの、この場での最高責任者のように見えた。


 ハイリアルはその厳つい中年男に近付くと、眉間に皺を寄せ怪訝そうな顔をしながらその背中に話しかけた。



「……貴殿に初めてお会いする。我はハイリアルという名の己立者だ。……こんなに慌ただしいが、一体何が起こっているのだ?」



 厳つい中年男は眉間に皺を寄せ下唇を噛み、苛立ちと嫌気を表に出す事を抑えるような表情をしながら、彼がいる方に振り返った。

 左手で握った杖を上げて指し示し、部下と思われる男に指示を出していたのだった。


 レイリーリャは彼の後ろに控え厳つい中年男の険しい顔を見る。それを見て怒鳴られるのではないかと怖くなり、思わず身体が竦んでしまう。



「…………ハイリアルというのか、…………見ない顔だが初めてだな。」



 厳つい中年男は眉間に皺を寄せ苛立ちを堪え続け、目を細めて見定めるように彼の顔と全身、それに腕に握った得物を見る。



「……槍術士。……いや、魔術師兼任なのか?」



 その質問の内容に対して応えずに、独り言のように呟く。



「…………魔術師だが薙刀を使う……。」



 彼は少し困惑したように声の調子が下がりながらも、厳つい中年男に答える。



「……改めて緊急時のようで、邪魔した事に対して謝罪する。……ここで何か問題が起こっているのか教えてくれないか?」



 彼は厳つい中年男に頭を下げ詫びると、声に力が入れて再び今漁民ギルド内で起こった事について尋ねる。


 厳つい中年男はその質問を聞くと、港の方を振り向いて確認し、再び彼に振り返る。


 レイリーリャは厳つい中年男が振り向いた港の方を見つめる。


 港はこの漁民ギルドの建物すぐ前にあった。すぐ前に見える港の岸壁には漁船が二艘係留されており、その先には防波堤がこの港湾を両手で抱えるように左右の岸壁から築かれているのが目に入った。

 


「……今、帰港中の漁船が手鋏鮫に襲われ追われている。ヤツらを助ける為にも、そいつを倒すか追い払いたい。」



 厳つい中年男は腹立たしそうに口許を歪める。

 握り締めた杖の先で床を苛立ちをぶつけるように何度も叩いている。


 レイリーリャは改めて海を見た。遠目でよく見えないが、港の堤防がある遙か先に漁船らしきものが浮かんでいるのが目に入った。その漁船は側面が何らかの衝撃で凹み砕かれた状態でこっちに向かっているのが見える。



―――もしかして、あのボロボロの船の後ろを追っかけているのが手鋏鮫?



 彼女は逃げる漁船を追いかけ直ぐ後ろで泳ぐ魔物を凝視する。遠目なので正確な長さは解らないが10メートル位だろうか、鼠色した鮫で追う漁船と同じ位の大きさのように見える。それが腕のように両脇から生えた蟹のように真っ赤な鋏と口を使って漁船を襲っている。



―――鋏が船の後ろに当たったぁ?!……



 本当にそう見えてしまったかと途惑い、思わず確認しようと彼に振り返ってしまう。



「……漁民ギルド長ザブトゲルクとして頼みたい。あの手鋏鮫を駆除する手助けをして欲しい。


「……魔法が使えるのだろう?……手が足りない……。」



 漁民ギルド長ザブトゲルクはハイリアルを凝視する。

 厳つい中年男はここの漁民ギルド長だった。 

 その見つめる獣のような目は険しかった。



…………この漁民ギルド長さん、本当に困っているようだね……。



 その漁民ギルド長ザブトゲルクの顔が目に入った彼女には、苦しさを堪えているように見えた。


 改めて彼の背中越しにその姿を見る。

 その肩幅は広く服の上から見ても全体的にがっしりしている。一見すると自力でも戦えそうに見える。

 しかし、そのスラックスの左足の裾から、木で出来た義足の先端が曝け出していた。


 彼女は驚愕し声が出そうになるのを抑え、左足を凝視してしまう。



「……我は漁民ではなく、このギルドに何も登録していないが、問題はないのか?」



 ハイリアルはザブトゲルクに尋ねる。

 その目には力が入っている。



「登録処理は後で良い。準備が出来次第戦ってくれないか。報酬は弾む。」



 漁民ギルド長の口調が昂り、口許が少し引き上がる。

 彼が魔物退治に協力すると見做したようだ。



「……あれ一匹なのだろう。解った。倒すの手伝おう。我なら陸からでも魔法を撃てる。」



 彼は漁民ギルド長に向かい合い同意する。その言葉は滾って(たぎって)はいなかったが力強かった。


 漁民ギルド長はその言葉を聞いた瞬間、右口許が少し上がり嬉しそうな笑みが浮かぶ。そしてその口許が緩んで微かに開き、息と一緒に緊迫感を吐く。



「……感謝する。非常に助かる。」



 彼に頭を下げた。そこに気持ちを込めるように頭を保ち続けると、再び頭を上げた。



「……そうだ。この我の従者は一切戦う事が出来ないが、構わんのか?」



 彼はレイリーリャに顔を向けながら、ザブトゲルクに尋ねる。



「ああ。戦う事が出来なくても、こっちとの連絡や荷物運びといった雑用はいくらでもあるが、これ位なら構わんだろ?」



 漁民ギルド長が座った目をして、彼女の目を凝視しながら尋ねる。

 彼女は漁民ギルド長から圧力を感じて怖じ気づいてしまい、ピンで刺された標本の昆虫のように身体が固まってしまう。



 港の上空で海鳥達が羽を広げたまま海風に乗って舞う。そして上空で弧を描くと、港を離れ海の彼方へ消えていった。



「……かまいません。」



 彼女の口から承諾の言葉が出てしまった。ザブトゲルクの態度が彼女には威圧的に見えてしまい怯んでしまった。



「……感謝する。手は一人でも多い方が良い。」



 漁民ギルド長は彼女にも頭を下げる。

 その口調は見かけと異なり柔らかかった。



「……で、名前は何だ?


 ……本当に戦わんでいいから心配するなよ。どう見ても普通のメイドの娘にしか見えないからな。」



 ザブトゲルクの目は見定めるように鋭かった。

 彼女にはその目が、戦わんでいいという言葉とは裏腹に、戦えない役立たずは邪魔だと語っているように見えてしまった。



「…………レイリーリャと言います。

 ……こちらにいらっしゃるハイリアルさまの従者をしています。



 …………本当に大丈夫ですよね?……」



 彼女は漁民ギルド長ザブトゲルクにもう一度確認する。自らの怯える気持ちを鎮めたかったからであるが、漁民ギルド長が前言を覆してやはり戦えと命令するかもしれないという疑いが心の奥底で澱み漂っている。



「……ああ。大丈夫だ。あの手鋏鮫は水辺から乗り出して口や両鋏で襲いかかってくる事はあるが、陸上では生きられない魔物だ。下手に水際に近付かない限りは大丈夫なはずだ。


「……もし危なくなったら、逃げる指示は現場からだけで無く、こっちからも出させる。

 ……あいにく、報酬は戦闘職程ではないが、それなりに出す。」



 ザブトゲルクの口調は柔らかかった。

 理解して安心や納得が出来るよう配慮して説明している事は、彼女にも理解出来た。



…………なんかいつの間にか、わたしも助けるのを手伝う事になってしまったなぁ。……いいって言っちゃったけど、…………。



 彼女は釈然としない思いを抱き気持ちが澱んでいる。抗えない話の流れを作ってしまった漁民ギルド長に対する不満が、自覚していない心の奥底から浮かび上がり意識の中に混ざろうとしている。



…………戦わないでいい、というワケにはいかないよね。やっぱり自分の身を守らないといけないし…………。



 自力で我が身を守り切れないのではないかと不安に感じる。その視線が下を向き眉間に皺を寄せ尻尾は下に力無く垂れ下がる一方、閉じた両唇に力が入ってしまう。



「……魔物が恐ろしいなら、作業せずにここで待っていても構わん。」



 ハイリアルは彼女と漁民ギルド長の態度をそれぞれ見ながら口を挟む。その口調は落ち着いている。

 それを聞き漁民ギルド長は頷く。



「そうだ。オレの依頼は義務では無く、無理強いではないからな。怖けりゃ、あっちの防波堤へ行かずに、断っても構わない。」



 漁民ギルド長は二人と話す前と比較して、その口調と態度は落ち着いてきている。



「そもそもオマエら二人とも、この漁民ギルド員ではないからな。」



 漁民ギルド長がハイリアルの協力はともかく、レイリーリャの協力を得られない可能性がある事に関しては予め許容しているものだと、彼女は無意識のうちに受け入れている。



「だ、大丈夫です。道具や武器を運んだり、縄を引っ張る手伝い位なら、自分でも出来ます。」



 彼女は不安に囚われつつも、それに屈し竦まないよう笑顔を装う。それでも歪んだ眉や口許から、内心無理をしているのが表情に現れてしまう。


 漁民ギルド長は彼女の顔を眺めると頬が微かに上がった。



「…………そうか。非戦闘員に何かあると周りが余計な負い目を持つから、無茶はするなよ。」



 その言葉は柔らかかった。

 彼女はそれを聞くと配慮されている事が解って嬉しく感じ、気持ちが昂る。

 


「実際にやる事は、あの灯台の近くにいる者達に聞いて欲しい。」

 


 漁民ギルド長ザブトゲルクは左手で握った杖を上げて指し示す。その先には、港湾を囲うように突き出した防波堤の根元にある岸辺の上に立てられた、所々赤黒く錆びて薄汚れた白い灯台の前で集まる者達がいる。



「行くゾ。」



 ハイリアルはレイリーリャに顔を向け指示する。



「はい。承知しました。行きましょう。」



 彼女はそれを受けて力を込めて返事する。言いながら自分自身に気合いが入り昂るような気がする。

 その振る舞いを見て彼は頷くと、灯台に向かって歩き始めた。彼女はその直ぐ後ろを追う。


 ハイリアルは歩きながら薙刀の刃に被さったフードを取った。そして後ろから付いてくるレイリーリャに振り返ってフードを預かるよう指示をしてそれを渡した。

 彼女は承知してフードを受け取ると、バッグの中に入った荷物を詰めて空間を作りそこにフードを入れる。


 彼が握り締めた薙刀の刃が、太陽の光に反射し輝く。



…………もしかしてわたし、ハイリアルさまの従者らしい、かっこいいー事しようとしてない?



 レイリーリャはこれからする自らの行動を想像すると、尻尾が上を向いたまま左右に揺れ気持ちが昂ってくる。



……これでハイリアルさまと一緒になって、魔法をぶっ放してあの手鋏鮫を倒せたら、もっと従者らしくて格好いいんだけどねぇ……。



 こんな緊急時に出来ない事を想像し、思わず苦笑いしてしまう。



 二人は灯台に向かって岸の上を進む。

 岸の上でうごめいているフナムシが二人が近付いたのに気付くと、踏まれぬよう逃げ回り岸壁に隠れた。そして壁面から野次馬をするように頭だけ出して覗き始めた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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