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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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34.サンドワーム


 再び時はハイリアルとレイリーリャの二人が、港町キムタカシンにある漁師ギルドの建物の前に辿り着いた時に戻る。

 漁民ギルドはこの町の南にある港の一角にあった。


 その建物の屋内は正面に倉庫のように広い空間ががあり、海に面する扉が開かれている。その中で人々が集まり、懸命に何か相談や作業をしているのがレイリーリャの目に入る。


 彼女には何が起きているのか解らなかった。しかし、何かしらのトラブルが起こっているように見え、それに巻き込まれ何か変な目に遭いそうな気がして不安に感じる。


 漁師ギルドの食堂で美味しい魚料理を食べたいという願望は、忘却という大海の中へ沈んでいった。



…………これ見てハイリアル様が引き返すような事はないよねぇ……。


 

 気持ちが重く沈みそうになるのを感じながら、後ろからその横顔を見つめる。

 彼は遠くを眺めるようにこの漁民ギルド内の様子を見て怪訝な顔をする。


 

「……嫌な空気だな……。」



 その口調から忌まわしさが伝わる。



「……前にいた駐屯地で魔物が出た時と、似たような雰囲気がするな……。」


 

 彼の口許が歪む。

 その呟きがレイリーリャの耳に入ると、彼女は後ろから彼の横まで近づき首を伸ばすようにして尋ねる。



「……前の駐屯地とは、どちらにいらっしゃったのですか?……」



 彼女は彼の個人的な話について、全くと言って良い程知らなかった。それは彼がフォルデサリィーヌ王国魔術師隊に所属していた頃の話に限らず、個人的な話について全然喋らなかったからであった。



「……マギト山脈北側の麓にある、アンエメラル砂漠の国境未制定地帯だな。」



 彼は尋ねられた事を嫌がらず淡々と答える。アンエメラル砂漠はマギト山脈を越えた北側、二人が今いるキムタカシンの北東に拡がっている。



「警邏中に地中から涌いて出てきたサンドワームばかり狩っていた頃と、何か雰囲気が似ている……。」



 彼女は淡い驚きと嬉しさの混ざったようなものを感じ、両目が少し大きく拡がる。彼が尋ねられた個人的な事をすんなり答えるとは思っていなかったからであった。



「……サンドワームですか……。……地面の中にいる魔獣で、長さ1ルートメ程度で、人を襲う時だけ地面に出てくると、……色んな人からそのように聞きました。」



 彼女は少し頭を横に傾けながら昔聞いた事を思い出そうとする。眉間に力が入り、空を眺めるように両目が右上に上目になっている。



「…………いくら何でも、1ルートメではない。地表に出て人間を襲うものは、30ルートメ以上あるのが多かった…………。」



 彼は平静そうな表情を装っている。しかしその声は低く沈み、語尾が下がっていた。

 


「30ルートメ以上ですか……。よく言われているのとは全然大きさが違いますね。」



 彼女は苦笑いする。

 サンドワームの実際よりも遙かに短いものだと思い込んでいた自分自身に恥ずかしく感じる。しかしそう感じながらも、貴族である彼がそのメイドで平民である彼女に関心のある事を話し続けてくれる事に嬉しく感じる。



「ハイリアル様が正確な長さを教えてくれなければ、わたしは一回もサンドワームを見た事がありませんので、ずうっと長さを間違ったまま思い込んでいましたね。」



 彼女は言い終わると、再び口許に笑みを浮かべ苦笑いをする。



「……そうか……。


 …………実際にアンエメラル砂漠でサンドワームを見た事が無い一般人の間では、実物よりもかなり短いものだと伝わっているのか……。」



 彼の視線が下に下がり、その言葉の調子が力無く低く沈む。



「……他の地域で出現するサンドワームと同様、1ルートメ程度のものだと見做されているのか……。」



 この時の言葉や振る舞いは、彼女の意識の中に入らなかった。意識の中にはこれから口にしたい言葉が拡がっている。



「さっすがに、このサンドワームの肉を切り刻んでこねたモノを焼いてパンに挟んで食べると美味しい、と出入りする雑貨屋さんが言っていたのは、いっくら何でも嘘だろうなぁと思っていましたが。」



 彼女が喋る調子は弾む。

 そう喋りながら、館に度々納品しに来ていた雑貨屋が喋った当時の様子を思い浮かべ、言い終わった途端笑ってしまう。



「…………そんなモノ、わざわざ作って食うヤツがいるのか。斬り倒しただけで生臭くなって気持ち悪くなるのに。」



 彼は一瞬呆然としながらその顔を見つめたが、サンドワームを切断した時の悪臭を思い出したかのように、鼻っ柱に皺を寄せ右側の口許を嫌そうに歪ませる。



「…………本当に、あのオークの腸が丸ごと腐敗したような悪臭を嗅いだ事があるのなら、調理して食べようだなんて、…………冗談でも考えないぞ……。」


 

 その声の調子は先程よりは幾分軽くなっている。

 彼は嫌そうに眉間を歪ませながらも、気を逸らしたかのように右口許に笑みを浮かべている。



「……もっとも他国の諜報員を自白させる為に、拷問として食べさせた事ならあるが。」



「拷問の道具として使われるだなんて、よっぽど臭くてマズいんでしょうねぇ。」



 彼女は驚きと面白みを感じ、語尾の声の調子が上がる。

 そう喋りながら、頭の中に副メイド長や先輩メイド達の顔が思い浮かぶ。


 彼は口許に薄く笑みを浮かべている。彼女と話をした事で、幾分暗く沈んだ気持ちが和らぎ面白く感じたようだ。

 彼女は彼のこの気持ちが変化した意味を気付かずに、会話を楽しく感じている。



 二人は漁民ギルドの建物に大分近付く。

その屋内には様々な者達がいて、集まって相談や慌てながら右往左往する者達がいる。

 そこから怒号が飛び交い、緊迫した雰囲気が漂う。


 ハイリアルは漁民ギルド内の雰囲気に気が付くと、笑みを浮かべるのを止め、その様子を探ろうと凝視し始める。



「…………やっぱりただ事では無いようだな。急ぐぞ。」



 彼はレイリーリャに顔を向け急かすと、漁師ギルドに向けて歩みを早める。



…………いけない。いけない。


 にやにやしたまま漁師ギルドに行ったら、不躾で怒られちゃうよね。



 彼女は俯き両手で顔を覆うと、気持ちを切り替えるようにそのまま両手を上げて、髪の毛を自らの髪をかき上げた。

 その口許に浮かんでいた笑みは収まり、両目は漁師ギルドを見つめる。

 そして彼に置いて行かれぬよう、その背中を追いかけ始める。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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