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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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29.己立者ギルド受付

 ハイリアルが目にし声を上げた手配書は、ドマーラルシズトを手配したものだった。


 内から外に渦を巻くような角が額近くから二本生えている魔族の男性の似顔絵が描かれている。


 レイリーリャは彼の呟きが耳に入り、振り返ってその顔を見る。


 彼女に気にする事無く彼はその手配書を見つめ続けている。


 彼女は一瞬彼に声をかけようかと思ったが、それをする事を止めた。そしてその見つめる先を眺めてみる。



…………えっと、ドマーラルシズトって、やっぱり、悪者っぽい顔してるんだ。



 ドマーラルシズトと記された角生えた魔族の似顔絵を眺め、妙に見下すような感じで感心する。



…………で、報酬は、生け捕りなら…………「2金貨と1大銀貨ぁ?!何それぇ!これ、ワタシの俸給二年分越えちゃうよッ?!」



 手配書に書かれた報酬を見て彼女は、思わず驚きで絶叫してしまう。

 両目は見開き、叫んだ口は閉じずに開いたままで、毛が逆立った尻尾が上を向いたまま固まっている。



「……オマエ、それ位で騒ぐな。やかましい。」



 彼が彼女を窘める口調は、その内容と比べて落ち着いている。



「……想像以上に安いな。普通の賞金首と大して変わらん。……ドラゴンの類いの征伐依頼だと、15金貨越えるがな。」



 淡々と落ち着いた顔して手配書を眺めている。



「15金貨って凄いじゃないですか!わたしの俸給15年分以上じゃないですか。」



 彼女は興奮が納まらぬまま、その声は昂り続けている。


 中年男性の己立者が二人の側を通ると顔を歪め、横目で彼女を鬱陶しそうに見てそのまま玄関から出て行った。



「……とりあえず、落ち着け。周りの迷惑になる。」



 ハイリアルは相変わらず淡々とした口調で窘める。

 レイリーリャは周りを見ると、迷惑にしてそうな雰囲気を感じ、思わず顔が赤面し俯いてしまう。



「…………牙や鱗とか色々な身体の部位が売れるから、手取りはそれ以上になる。」



 彼の説明を聞きながら、彼女は驚愕が表に出そうになるのを堪える。



「だが一般的に、ドラゴン征伐は複数の人数で行うものだがな。」



 彼はそう喋り終わると、口許に不敵そうな薄笑いを浮かべた。

 彼女はその態度の意味を気にせずに、頭の中で勘定を行っている。



「……10人チームで倒しても結構儲かるじゃないですかぁ。」



「確かに儲かるが、征伐依頼が出ていなければ、征伐報酬は貰えんぞ。」



 彼が告げる語尾のトーンが上がる。先程とは違う軽い笑みを浮かべる。



「出ていなければ身体の部位の買い取りだけだ。それでも結構な金額になるが、運ぶのが大変だがな。」



「そうなんですか。わたしは見た事はありませんが、ドラゴンはかなり大きいみたいですね。」



 彼女は現実味が帯びてきていて、大分落ち着きが戻ってきている。



「まぁ、ドラゴンにも色々な種類がいるからな。……もういいだろう。行くぞ。」



 彼は彼女に指示すると、向きを変え受付の方に歩いて行った。

 彼女は掲示板に記されたものを気にして目で追いながら、その後を付いて行く。



「……それにしても、ツタコシン周辺か。」



 彼が思わず口にした呟きの声は小さく誰も気づかない。

 ツタコシンはドマーラルシズトの手配書に記されてあった地名で、ここキムタカシンより東に海岸線にそった先にある町だった。



「魔族か……。」



 考えるようにその眉間に皺を寄せた。


 受付は四カ所窓口があり、どの受付にも先客の己立者達がいて並んでいた。

 ハイリアル達は一番奥の受付まで行くと、先客の後ろに並んだ。


 レイリ-リャはその後ろから先客の己立者達を眺める。


 背中越しではっきり解らないが、二十代位の女性己立者三人組のパーティのようだった。

 依頼内容はよく解らないが、「……採ってくれば良いんですね。」などという言葉が聞こえたから、採取依頼のように思えた。



……メンバー揃えて、己立者になるのも悪くなさそうね……。



 女性己立者同士で顔を見合わせ笑みを浮かべている様子を眺める。



…………でも、仲の良い人で己立者やりそうな人は……いないか。



 レイリーリャは苦笑いを浮かべる。



……ハイリアル様とは、仲の良い悪いじゃなくって、主人とメイドの関係だし。



 手続きが終わったようで、女性己立者達は振り返って立ち去ろうとする。振り返り際、受付嬢と親しいようで、ざっくばらんで気兼ねの無い別れの挨拶をした。


 ハイリアルは女性己立者達が立ち去ると、前に進みフロントテーブルの前に立た。その後ろにレイリーリャも続く。


 彼女は彼が薙刀を自らの左側フロントテーブルに掛けて置いたのが目に入った。



「ハイリアル様、その武器をお持ちいたしましょうか。」



 周りの目を意識して、落ち着きと品を感じられるよう意識しながら、彼に尋ねる。


 彼は後ろを振り向き彼女を横目で見る。



「……いや。いい。」



 片手を上げ淡々と断ると、正面に振り返った。


 彼女は彼から当てにされていないように思え、寂しさが混ざった空しさを感じた。

 その両耳は伏せ、尻尾が力無く下に垂れ下がる。



 受付嬢は書き物を記し終えた。

 それをファイルに纏めると、後処理として用紙や必要になりそうな資料を揃え、次の相談者への準備をする。

 そして机の上に転がっているペンを取り左側に置く。


 受付嬢は揃え終えると、正面にいるハイリアルに顔を向いて挨拶と要件を尋ねる。その顔は余計な力が入っていない自然な真顔だった。


 受付嬢は二十代後半の焦げ茶色の髪をストレートにした女性で、業務が終わったら同僚と無駄にだべらずに、着替えてさっさと帰宅しそうな感じだった。

 

 ハイリアルは言葉にしないが、彼女を一目見て、伯爵邸でこういう女性を雇っていたらもう少し業務が効率よく進みそうだと内心思っていた。


 彼は改めて、確認の為に己立者証を受付嬢に手渡す。


 受付嬢は己立者証を確認の為に見る。何か考えるように動きは無く無言だった。

 頭を上げ彼にその顔を向ける。


 レイリーリャには、その顔は最初に挨拶した時と同じような真顔のように見えた。



「……こちらでの登録名はハイリアル殿で、D級己立者で宜しいですね。」



 受付嬢の声のトーンは落ち着いており、余計な媚びや思惑は現れていなかった。


 彼はそれに同意する。その声は気持ち緩やかだった。



「そうだ。……二つ依頼があるのだが、一つはあのドマーラルシズトの手配書に関する資料が何かあるのなら頂きたい。……それともう一つは、それに関する協力者を求めている。その斡旋を願いたい。」 



「……まずは、あのドマーラルシズトの手配書についてですね。少々お待ちください。」

 


 受付嬢はカウンターから離れると、奥にある部屋に入っていった。



……なんか、あの受付の人、落ち着いて気品ある感じがするなー。やっぱり、貴族出身なのかなー?



 レイリーリャは受付嬢に感心する。



……あの雰囲気を、わたしに出せるかなぁ?……



 少し経ち受付嬢は資料を持って戻ってきた。そしてカウンターに戻ってくると、カウンターテーブルの上に複写された手配書と資料を置いた。


 

「こちらがドマーラルシズトの手配書の複写です。

 料金は一枚に付き2大銅貨となりますがよろしいでしょうか。」



 複写された手配書には、掲示板と同じような雄羊に似た角を持つ似顔絵も描かれていた。



「構わない。」



 ハイリアルは上着のポケットに入れた財布を取り出し代金を出す。



「丁度2大銅貨頂きました。ありがとうございます。」



 受付嬢はカウンターテーブルに取り付けられたレジケースに金を入れた。ハイリアルは手に入れた手配証の写しを指で近くに寄せ見始める。レイリーリャもその後ろ越しに首を伸ばして眺める。



―――睨むようで、やっぱり悪いヤツの顔してるよね。……それにしても、どうやってこの顔描いたんだろ?見た人本人が描いたんじゃないよね……。



 彼女は頭を捻る。

 受付嬢が紙とペンを差し出すと、ハイリアルは礼を言って写しの右横に置いた。

 受付嬢はファイルを開くと、黙々と読み始めた。


 

「このドマーラルシズトについてですが、黒羊魔族と思われる成人男性です。出現場所はキムタカシンを中心とした地域で、被害としては強盗や殺人が合わせて五件です。」



「……強盗か。」



 ハイリアルは呆れたように右口許を歪め薄笑いを浮かべる。



「はい。馬車強盗が三件で、そのうちの一件が依頼主が所有する馬車です。」



 受付嬢はファイルから目を上げ彼を見る。



―――五件も強盗や殺人をするなんて、やっぱり見かけ通りの悪いヤツだね。



 レイリーリャはドマーラルシズトに嫌悪し、心の内で非難する。その尻尾が左右に振られる。



「そうか。……そうなると、盗品を発見し奪還した場合の報酬はあるのか?写しにはその場合の報酬額は、賞金首自体のものしか記されていないが。」



 ハイリアルが尋ねる声は低いが、想定内の疑問のようで落ち着いている。

 この世界での予め奪還依頼が出ていない盗品に関しては、仮に誅伐者が奪い取って着服しても、暗黙の了解として罪だと認められる事は無いのである。



「奪還した場合の報酬ですか。……三件とも依頼が出ていて、盗品は金銭と貴金属ですね。

 それらの報酬は一件当たりの盗難として届けられた金額並びに盗品の評価額に対して、三割が一件に二割が二件ですね。」



 ファイルを読む受付嬢の声が低くなり、その眉間に皺が寄る。



「……三割と二割か……。余り良い報酬とは言えないな……。」



 考えるようにハイリアルの呟きは低く沈んでいる。



―――えっ、そうなの?……わたしみたいな人には大金のように思えるんだけどなぁ……。



 レイリーリャは彼が言った言葉に対して、言葉に出さず内心で意見する。

 その横顔はがめつく報酬を要求したいようではなく、何か思いがあるように彼女には見えた。



「それぞれの奪還依頼に書かれた盗難品と金額を見せてくれないか。」



 受付嬢は彼の見れるようにファイルの向きを変え、その目の前に置く。



「ここに書かれております。」



 受付嬢は書かれた所を指で指す。

 レイリーリャもその背中越しなのでよく見えないが、少しでも解ろうと背伸びしたり身体の角度を色々変え悪あがく。



「これか……。…………奪還された後の資産確保を考えているのか……。」



 呆れたようにその声の語尾が下がる。

 受付嬢はそれには答えず無言でファイルを自分の手許に戻した。



…………けっきょく、どれだけか見えなかったけど、依頼した人達はケチでしょぼいという事なのかな?



 レイリーリャは眉間に皺を寄せ首を傾け考える。



「……まぁ、盗難品に関してはついでのようなものだから、それで良しとしよう。」



 彼は苦笑いを浮かべる。



「……誅伐報酬は手配者を生け捕りの場合は2金貨と1大銀貨で、殺害の場合は1金貨5大銀貨になります。」



 受付嬢は再び説明を始める。



―――へぇ~、生け捕りの方が高くなるんだ。



……ハイリアルさまの魔法ですぱぱーんってやっつけて貰ったら、貰えるお金が安くなっちゃうんだ……。



 彼女は意外に感じ、目が少し見開く。



「やはり、生け捕りの方が望ましいのだろう。」



 ハイリアルは目線を上げ受付嬢を見る。



「はい。尋問や刑罰等を執行出来ますので、その方が望ましいです。」



 受付嬢もその目を見て答える。



「そうなると、……手足を吹っ飛ばさない方が、強制労働させた時に役に立つか…………。」



 その目線が下がり、思考の海に沈む。



「治安当局の立場から見ましたらそうですが、当ギルドの立場といたしましては、手足の有無で報酬に変化させるような事は致しません。」



 受付嬢はその顔を見ながら、苦笑いする。



「手配者を捕縛、連行して頂く事を重要視し過ぎて、手足を切断させないよう気を付けたお陰で逃げられたり返り討ちにあってしまっては、―――本末転倒ですから。」



 彼も同意したように苦笑いを浮かべる。



…………そうなると、ドマーラルシズトの手足をハイリアル様がすぱぱーんって切っちゃっても、ギルドとしては問題が無いという事だよね……。



 レイリーリャは思考の海の中で渦に巻かれてしまう。

 渦に巻き込まれ、頭の中も変な回転をしてしまう。



…………それどころか、連行する前に両手を吹っ飛ばしちゃった方が、途中で逃げられたり襲われたりする可能性がなくなるぅ?



…………でも、足を吹っ飛ばしちゃったら、ギルドまで連れてくるのは大変になっちゃうかな?…………



 渦に巻き込まれ、頭の中ごとまとめて洗濯機の中で洗われる洗濯物のようにますます速く回転させられてしまう。



…………いや、足を吹っ飛ばし、縄で縛ってズゼルーマーちゃんに引き摺ってもら…………いやいや、いや。そんなおっかない事考えちゃダメね。



 レイリーリャは眉間に力を入れ首を左右に振って苦笑いをする。


 気が付くと、渦に巻き込まれ溺れてしまい、深い海の底へ沈み始めていた。

 その際に洗剤も一緒に入っていたのなら、頭の中も真っさらになれていたかもしれなかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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