30.視線
受付嬢はハイリアルの顔を、釘を打つように凝視する。
「なお手配者には、確認出来た所では、5人程協力者がいるようです。
……ギルドの見解といたしましては、単独での誅伐は原則として推奨しておりません。お気を付けてください。」
受付嬢の言葉の語尾が強まる。
「……まぁそうなるのは理解するが……。
…………こいつらは協力者というより、単なる下っ端なんだろうな……。
……ここまでくると本当に、只の盗賊だな。」
ハイリアルは呆れながらも右口許に薄笑いを浮かべる。
「それと、過去の出現日時や被害状況等といった詳しい情報につきましては、資料室に置かれた資料を確認してください。」
受付嬢の言葉に彼は頷いた。
フロントテーブルの向こう事務室側にいた若い男性職員が、ホールを繋ぐ扉を開き紙の束を持って出てきた。
「……次に協力者につきましては、…………申し訳ございませんが、ドマーラルシズト誅伐する協力者の紹介依頼を行っている己立者は、今のところおりません……。」
受付嬢の詫びる言葉を聞いて、レイリーリャは思わず驚愕し、心の中に不安が拡がりながらハイリアルの横顔を見る。
―――えっ、ハイリアルさま、……驚かないの?
彼は口許を歪ませ苦笑いを浮かべていた。
…………余裕そうだけど、紹介して貰えないのに人が集まるの?
そういう態度を振舞っている彼の受け止め方に驚きと疑いを感じ、彼女の心が暗く沈んでしまう。
扉から出てきた若い男性職員が掲示板の前で立ち止まった。そして手に持っていた紙の束から一枚つかむと、その上にピンを刺して貼り出した。
「……これは、ドマーラルシズトを一緒に倒したいと思う己立者がいないという意味ではございません。
「……ご要望に応えられる己立者がおられるかもしれませんので、このホールやあちらの食堂などにおられる己立者達を、ご自身で尋ね説得いたしてみてはいかがでしょうか。」
受付嬢が正面に手で指す。
レイリーリャも後ろを振り返り、その方を見る。
その先には、セパレートする為に並べられた彼女の腹程の高さの観葉植物があり、その向こう側に食堂のスペースがあった。そこには20組程のテーブルと椅子が並べられ、何組かの己立者達が飲食をしたり打ち合わせをしていた。
彼女はそこから視線が向けられるのを感じ、思わず向き合い目が合わないよう顔を逸らしてしまった。
「もし協力する者がお決まりになりましたら、決定した協力者名、期間、報酬金額やその配分、担当行動などといった各種契約条項や条件などを記した契約書を記し、こちらに提出して頂きたいです。こちらで認定、管理を行います。」
受付嬢は私情が籠もっているように語尾を強める。
小太りで眼鏡を掛けた中年男性職員がホール内にいた己立者達を突っ切り、掲示板の前で作業している若い男性職員の側にやって来た。それに気付いた若い男性社員は作業を止め小太りの中年男性職員のいる方に身体を向けた。その途端、小太りの中年男性職員は怒りをぶつけるように責め始めた。
受付嬢はそれが目に入ると男性職員達の方に訝しげに視線を向けたが、すぐに表情を繕いハイリアルの方に視線を戻した。
「……そうしないと、報酬か何かで契約を違えた場合、その証明にならない……のだったな。」
ハイリアルは確認するように、言い終わると受付嬢を見た。
「そうです。契約書を提出するのは義務ではありませんので、これを行わずに口約束でも協力者と目的遂行する事が出来ます。しかし、何らかの契約トラブルに遭った場合には、契約書を基にギルドで立証する事が出来なくなります。」
受付嬢の説明を聞きながら、ハイリアルは理解していると伝えるように頷く。
レイリーリャも聞いてるうちに感覚として的確で正しいかは解らないが、間違っている感覚を感じなかったので、とりあえず頷く。
「それに両者の合意の無い、悪質な契約違反があった場合には、契約違反者に対して己立者ギルドに関連する罰則が課されます。」
「罰則は罰金や斡旋停止、己立者ランクの剥奪あたりだったな。」
ハイリアルが自ら確認するように呟く。
掲示板の前で眼鏡掛けた小太りの中年男性職員は険しい顔をして、若い男性職員を詰り続けている。その間若い男性職員は自分に全ての責任があり申し訳ないように沈んだ顔をして、身動きせずに俯いたまま黙っている。
黒小人の男性己立者が中年男性職員の顔を憎らしげに横目で見ながら、口許を歪ませ掲示板の前から立ち去っていく。
「……そうです。違反内容次第では己立者ランクダウンや資格剥奪などもあります。」
受付嬢は一瞬男性職員達がいる方に目を向けたが、すぐにハイリアルに顔を向け顔に笑みを装いその呟きに答える。
それを見て彼は受付嬢が視線を向けた先を見ると、忌々しそうに眉間に皺を寄せ目を細めた。
……………さすがにギルドの罰で鞭打ちや磔はないかぁ。
レイリーリャは尻尾を左右に振りながら苦笑いをする。
受付嬢と彼の今の態度と意識に気付いていない。
……でも、町の統治者からの刑罰は、ギルドの罰則とは別に鞭打ちや磔があるか。
彼女は醒めたように淡々として尻尾の動きも止まってしまう。
「そのようなトラブルを防ぐ為にも、契約書を作成しこちらに提出される事をお勧めします。」
受付嬢はハイリアルがこれに同意し行動する事を期待するかのように両口角を上げる。
「そして協力者と長期間、継続的に共同で目的遂行されるパーティを組む場合にも、こちらに契約書を提出される事をお勧めします。」
「そうか。……もしパーティを組む事を決めた時は宜しく頼もう。」
彼の言葉の調子は内容とは異なり、気が入っていないようにさらりとしていた。
レイリーリャはその横顔をちらりと見る。
…………なんか、まだパーティを組みたくないみたいに見えたけど、見間違いかな?
彼女はそう疑問に感じる。だが、それを彼に尋ねるつもりは無く、ただ二人の様子を見ている。
すると男性が詰る声が彼女の耳に入ってきた。
彼女はその声の方に顔を向けると、男性職員を詰り続けている小太りで眼鏡を掛けた中年男性職員の顔が見えた。
ようやくレイリーリャも男性職員達の振る舞いに気付く。
その顔は見下すように歪み嘲笑っているように見える。
その瞬間彼女の身体が竦み寒気が身体に拡がる。
彼女は小さくなった若い男性職員の背中を見て痛ましく感じ、遣り切れなく感じる。
ハイリアルは少し我慢するような表情をしている。
「……今までの説明、礼を言おう。」
彼は説明して貰った感謝というより、説明をした受付嬢に敬意を表すように礼としてゆっくりと慇懃に頭を下げた。それに合わせて受付嬢も、口許に笑みを浮かべながらゆったりと頭を下げる。
レイリーリャは男性職員達の方に気が逸れていて、説明が終わっている事に気付いていない。
彼らが頭を下げているのに目に入ると、無礼だと思われないか動揺しながら慌てて頭を下げた。
彼は頭を上げると、掛けておいた薙刀を掴んだ。
そして後ろを向いて中年男性職員のいる方をちらっと目に入れる。
二人は掲示板や受付の前で並ぶ己立者達を避けて、その横を通り食堂の方へ歩いていく。
レイリーリャはすいませんすいませんと並ぶ己立者に通らせて貰えるようお願いするように詫びながら、ハイリアルに置いて行かれないようにその後ろを付いて行く。
…………もしかして、これで『ドマーラルシズト』を捕まえちゃったら、この旅は終わっちゃうのかな?
ふと、予想よりも簡単に決着が見え呆気なさを感じながら、その背中を追いかける。
受付嬢はハイリアル達を見送りながら男性職員達に目を向けつつ、二人が立ち去るのを確認する。
そして口許を歪ませ厳しい表情をしながら、無言で次の相談に備えテーブルの上の後片付けをし始めた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
わたくしも嬉しいです。
街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。
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そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。




