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死を司る者を捜して  ――だけど従者レイリーリャはそんな事どうでもいい――  作者: 一三一 二三一
第一章

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28.はじめての己立者ギルド


 キムタカシンの宿に宿泊したその夜、レイリーリャは宿の部屋にある寝床の中で、横を向いたまま眠りに入っている。

 夕食に満足し上機嫌な気持ちのまま布団に潜れたのだった。

 やがて深く眠りに落ち、夢を見ている……。




…………レイリーリャはいつの間にか、四方を縄で囲われた舞台の中央に立っていた。


 ふと正面を見ると、彼女の先輩に当たるメイド二人を引き連れた副メイド長が立っていた。


 三人は戦うかのように両足を拡げ膝を曲げて重心を下げ、両腕を前にして構えている。

 レイリーリャの背後の舞台の下にはハイリアルが椅子に座って眺めている。



「ハイリアル様、私達もハイリアル様の下に加わえて下さい。」



 副メイド長は彼女など存在していないかのように、隈のある両目でその先にいるハイリアルを凝視しながら頼んでいる。



「お願いします。」



 後ろにいる先輩メイド達も頭を下げる。



「副メイド長、何言ってるんですか?!」



 レイリーリャは驚愕の余りその両目は見開き、思わず叫んでしまう。



「ハイリアルさまがこれから旅しようというのに、一切出発の準備の手伝いや見送りもしなかったじゃないですかぁ。」



 副メイド長達は頭を上げると、軽蔑するように冷淡な顔をしながらその顔を眺める。

 副メイド長の閉ざされた唇を左右に囲うほうれい線が深く刻まれる。



「わたし達は手伝わなかったんじゃない。」



 右側に立つ先輩メイドは左右に首を振る。ボブカットにされた黒髪の毛先がそれに合わせて広がる。



「ハイリアル様にとって丁度今が、必要な時になったのよ。

 だからこそ、今この時から協力するのよ。」



 左側に立つ先輩メイドは握り締めた手を胸の前に出す。



「レイリーリャだけでは力不足で役に立ちません。しかし、私達がいれば大丈夫です。」



 副メイド長はほうれい線が刻まれた口許に笑みを浮かべ、彼を見つめながら主張する。



「……一緒になったら、副メイド長達はわたしによく、意地悪をするじゃないですか……。」



 レイリーリャは怖れを感じて怯みそうになった。

 彼女自身も副メイド長が主張する力不足だという主張を受け入れてしまった。

 それを否定して、十分に役に立っていると反論する事が出来なかった。



「意地悪なんかじゃないッ!」



 右側先輩メイドが叫びを上げる。

 


「愛のムチだわ。」



 右側先輩メイドの口髭が生えた上唇から宣告される。



「あんたがこれから失敗しないよう願いながら叱ってあげたのよ。

 頭を下げて感謝しなさい。」



 左側先輩メイドが思いやる姿を演じるように、掌で自らの胸元を抑えつけながら言うと、彼女の顔を見据える。

 後ろに左右に束ねられた金髪縦ロールが太く広がる。



「寝ている間に額に『自称・猫人』ってインクで書いた上に、両目の周りを黒く塗って口に竹箒(たけぼうき)咥えさせるのが愛のムチなワケないですッ!」



 彼女は怒りで昂り、大声で叫んでしまう。



「……私達の愛はレイリーリャに伝わらなかったようですね。」



 副メイド長は溜息をつくと左右に首を振る。



「竹箒に塩振って味付けとけば良かったかしら?」



 口髭先輩メイドが首を横にかしげる。



「そんなケモノと大して変わらない種族だから、物わかりが悪く恩知らずなのよ。」



 金髪縦ロール先輩メイドが右口許を歪ませ嘲笑しながら、呆れるように両手を拡げる。



「平気でこんな嫌な事をしたり、傷つく事を言ったりするような人達だから一緒に作業させないで下さい!」



 彼女は後ろを振り向き、座って眺めている彼を見つめながら頼む。



「一緒にバトルロイヤル耳かきをして、辛く悲しい目にあうのは嫌です!」



 その両目許が涙で滲む。



 副メイド長達は舞台下に居る彼に詰め寄ろうとする。しかしその前にいる彼女が両手を拡げて抑え留めようとした。


 その時だった。

 三人は自分達の髪の毛を掴み頭から外した。

 三人の髪の毛は被り物のように取れ、毛一本無い禿げ頭を晒し出す。



「そうよ!そういった過去の出来事があったから、こうして自らを省みたのよ!


 レイリーリャに愛のムチを振るったのは、その一時だけよ。」



 金髪縦ロール先輩が片手で被り物のような金髪縦ロールを掴み上げ、何かを達成したかのような澄まし顔して彼女を見下ろす。



「これで禊ぎは済みました。真っさらで汚れ無き身に生まれ変わったのです。」



 副メイド長は前に出てくるのを阻止しようと彼女を、横から顔を出し彼に主張する。

 光が反射し副メイド長の禿げ頭が眩しく輝く。



「わたしの思いや気持ちを無視して、形だけの反省した振りを押しつけてるだけじゃないですか!」



 彼女は涙目のまま三人に顔を向いて怒鳴る。



「ハイリアル様の耳に、わたし達が耳かきをする事を楽しみにしておりますわ。ハイリアルさま。」



 口髭先輩が彼に向けて嬌態を含んだ笑みを浮かべた。


 そして三人は示し合わせたように、髪の毛と耳かきを掴んだ片手を天に掲げた。

 それから三人でレイリーリャを囲うと、手に持った耳かきをその耳の穴や鼻の穴に突っ込みかき回し始める。




…………



「うわぁぁぁぁぁ!」



レイリーリャは目覚めると同時に上半身を跳ね上げる。そして耳や鼻を確かめるように触れた。



「…………今日の夢いったい何なの?!」



 先ほどまで見ていた夢の内容を思い出し、思わず恐れおののく。



「……バトルロイヤル耳かきなんて、危ないじゃない……。」



 跳ね上げた上半身を再び床に倒し身体を委ねる。布団の中で仰向けになったまま上を見上げている。



…………なんで副メイド長達が、わたし達と一緒にならなきゃいけないのよッ。



 日が出て窓とカーテンの隙間から陽の光が入り、壁が薄明るく照らされている。



…………それにしても、あの夢みたいに、「副メイド長達のアタマをむしり取ってハゲ頭に出来たらなぁ…………いひひひひひひひ…………。」



 横に寝返りを打つと、不毛な欲望と含み笑いが口から漏れる。



「…………やっぱり、一度髪の毛全部刈ってみたいなぁ…………。」



 思わず身体の奥底からの溜息が漏れてしまう。そうしながらも、妙な楽しさを感じてしまった。



 彼女は歪んだ妄想に浸っていたが、起床後の作業を思い出すと、それを止め起床した。

 夜着などといった荷物の片付けなど担当の作業や、ハイリアルの給仕を行ってから、自らの朝食を食べた。黒パンと根菜の入ったスープだった。変に硬かった。


 その後、愛用の薙刀を持ったハイリアルに連れられて外に出た。

 己立者ギルドに行く為であった。



 彼からその指示を受けた時から、彼女は不安を感じていた。

 己立者のがさつで荒々しく攻撃的な言動によって、肉体的にも精神的にも傷つけられる事を怖れているからであった。


 彼女は孤児院にいた頃、幾度か己立者達から侮蔑や非難を浴びたり脅された事などがあった。その為に、その印象が悪かったのだった。


 実際、己立者の中には柄が悪く犯罪行為を行い、凶徒同然の者もいる。しかしそういった者達は一部である。受けた依頼を遂行するだけの最低限の分別を持つ者は、さすがに多数派に属している。


 なお彼女は直に関わった事は無いが、王族や貴族の依頼によって行動するような高位己立者達は、礼節と分別を相応に備えているのが半分以上を占めている。


 要するに己立者はピンキリである。



 レイリーリャは己立者ギルドまでの道中、心に浮かんでくる己立者からの非難や嫌がらせの想像に対して、不安や嫌気を感じ続けている。

 海から漂う潮の香りが鼻に纏わり付き、不安や嫌気を助長させているようだった。


 やがて二人はこの町の己立者ギルドに辿り着いた。

 灰色の石を積んで建てられた二階建ての建物で、看板以外に表を飾る物はなかった。


 レイリーリャはこの建物を見て、みすぼらしく薄ら寒さを感じた。



「ついてこい。」



 ハイリアルは建物の外観に気にする素振りを見せずに、出入口の引き戸を開け中に入っていく。

 彼女も応答し、その後ろを付いて行く。


 出入口を入るとだだっ広いホールがあり、幾人も己立者達がいた。彼らは受付で何かやりとりをしたり、正面奥の壁面ボードの前で立って何かを見ていたりしている。


 そこには何か文字が書かれた用紙や上下に文字が書かれた似顔絵などが多数貼られており、右手の壁際に数カ所の受付のあるカウンターがあった。


 ハイリアルは立ち止まって室内を確認するように見回す。そして正面奥の壁面に向かって歩いて行った。


 レイリーリャは己立者ギルドに入るのは初めてだった。

 出入り口から入った時に何か場違いのように感じ、何か責められるような不安を感じていた。

 しかし彼女独りでは無く、彼の後ろについて行って入ったので、それ耐えきれず引き返さずに済んだ。


 それにも拘わらず、ホールの向かって左手にある空間、カウンターからだと向かいにある空間から圧迫するような空気を感じる。



…………なんか、あっち向いて見ちゃ……マズい……。



 レイリーリャは恐さに身体が支配されないよう耐えている。そして目線が合ってしまわないよう左側から目を逸らし、彼の背中を見つめながらその後ろを付いて行った。


 彼は正面奥の壁面の前まで行くと、そこの掲示板に貼られた用紙や似顔絵などを眺め始めた。


 用紙は労務依頼書で、魔物駆除や護衛、採取、或いは町中での工事等といった様々な労務の依頼について書かれている。

 また似顔絵は手配書で、犯罪者や賞金首など逮捕、処罰すべき者達の似顔絵が描かれている。


 彼女も好奇心と退屈凌ぎで壁面に貼られた物を眺め始める。



「……さすがにこの辺りでは、依頼でドマーラルシズト征伐は無いか……。」



 彼は壁に貼られた労務依頼書を見回しながら薄笑いを浮かべる。それから手配書が貼られた一帯を眺め始めると、とある手配書の前で動きを止めた。


 それを見つめながら口許に浮かんでいた笑みが沈む。


 彼女も壁に貼られた別の労務依頼書を前に動きを止め凝視している。



…………コカトリス退治って、こんなに儲かるのぉ?!わたしの俸給一年分近くじゃないのッ。



 その両目は見開き尻尾は逆立つ。

 それにはコカトリス駆除依頼が記されており、その報酬を見て驚いていた。



…………己立者って、メイドより儲かるよねぇ…………。



 他に並べて掲示されている労務依頼書も眺めながら、報酬の高額さに感心する。


 彼の方は、ある手配書を見つめながら、眉間に皺を寄せ下顎を掌で抑えながら考え込んでいる。



「…………ドマーラルシズトが現れるのは、デシャンタル大森林ではないのか?……」



 疑問を感じ思わず呟きが口から漏れてしまう。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

わたくしも嬉しいです。


街にある本屋が減少し、棚に陳列された本の背表紙を眺め、興味を感じる本を手に取って読んでみるような事は減ってしまったように感じます。


『丸善』の棚の上に『檸檬』を据え置くように、下 ↓ にある星評価とリアクションをクリックしてみてはいかがでしょうか。


そうしていただけると、この作者の心が嬉しさで大爆発したようになり、これからの物語を創る励みと自信になります。

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