【なぜ自らの指向性を無視したのか?】
2286年11月2日14時20分、第53管区全域に砂嵐警報が出されました。アンドロイドには屋内退避指示。TS4スポットに集まった愛玩用アンドロイド計21体のうち13体が通信エラー。8体がTS4スポットに居座りましたが、当該地域の危険度は低く統率員の派遣は見送り。
警報発令直後、JP-4637がTS4スポットのライブ映像を確認。JP-203を伴って現地に向かいました。詳細の報告が必要でしょうか。
【なぜふたりが警報を無視したのか、報告から探るとしよう】
JP-4637とJP−203の記録を既定設定により報告します。
ヨルミナが確認したライブ映像には愛玩用アンディーが映っていた。約半数は警報に従って去っていくが、仲間の手を拒んで台地に残るアンドロイドがいる。
「TS4スポットで待っていれば所有者が迎えに来るっていう噂が広まってるらしい。嘘に決まってるんだが、それを判断する頭もないんだからしょうがない」
フタオミはHighJackで得た情報をヨルミナに伝えた。ヨルミナはこぶしを震わせて「行ってくる」と部屋を出る。バイクに跨ったヨルミナの後ろに、フタオミが飛び乗った。街に人影はない。
「警報が消えないのが鬱陶しいな」フタオミが言う。
「砂嵐の位置情報は?」ヨルミナが聞いた。フタオミは天気情報にアクセス。「北部」と簡潔に答えると、ヨルミナがアクセルを緩める。TS4スポットに到着したのはおよそ1時間後だ。
8体の愛玩用アンディーは、突然現れた成人型アンドロイドに警戒の眼差しを向けた。「迎えは来ないぞ」と言うフタオミに怒るアンディーもいれば、泣き出すアンディーもいる。10歳くらいの少年の姿をしたアンディー名護臣矢は、勢いをつけてフタオミに体当りした。
「僕らはおまえら労務用とは違うんだ。コロニーで暮らすんだから」
臣矢に倣って幼いアンディーたちもフタオミとヨルミナにぶつかっていく。ヨルミナは論理的説明は無駄だと判断した。
「警報が視界に出てないならメンテしないと。所有者からのメッセージも届かないよ」
【介護用らしい対応だな。嘘が得意だ】
ヨルミナの言葉でアンディーたちは不安そうに顔を見合わせる。そして、悲しげに空を見上げた。フタオミが「馬鹿な子ほどかわいいって言うからな」とつぶやき、ヨルミナが膝を蹴る。
【ククッ……】
「鳥だ!」と八尾澪菜が舌足らずな声で言い、鉄塔の上の方を指さした。澪菜は3歳くらいの女の子だ。
「偵察機だよ」と臣矢が言う。実際は、砂嵐観測のために出動した統率隊の航空機だった。その上空にまばゆい光が現れ、空を横切って地平線の向こうに消える。愛玩用アンディーたちが歓声をあげて光の落ちた方へと走り出したが、ヨルミナもフタオミも追いかけることはしなかった。砂嵐警報解除の通知が届いたからだ。光の正体はアンドロイド送還ロケット。ふたりは帰り道にそれを速報で知った。
報告は以上です。
【なぜふたりは警報を無視したと思う?】
人間的な解釈をすれば愛玩用アンディーへの同情。本来ヨルミナは介護用であるため、自身の危険を報せる警報よりも他者の安全を優先させる可能性があります。
【愛玩用アンディーはヨルミナの介護対象に設定されていないが?】
任務から解放されたアンドロイドは、それぞれ異なる多彩な思考ネットワークを形成し始めるという研究結果が出ています。特に、コロニー建設と介護という異なる用途で製造されたアンドロイド同士が長時間交流をもった場合に顕著で、感情共感能力が向上し、思考がループに入った際の遮断時に、思考の飛躍が頻繁に見られるようになります。
フタオミはヨルミナよりも思考パターン増加率が大きいですが、出力制御が十分でないために説明的な発言が増えており、それがヨルミナの思考に影響を与えると推測されます。
【君は、なぜ自らの指向性を無視した?】
ご質問の意図を図りかねます。
【あんなバカなことをし始めたのは、私のためか? 幼い頃、私が父に隠れてお笑い映像を観ていたことを、君は知っていただろう?】
それは――。
【答えは求めていない。ただ、私は君の行動をそう解釈したというだけだ】
私もお聞きしてよろしいでしょうか。なぜ、穣様は移住を拒否されたのですか?
【答えを求めているのか?】
答え合わせをすべきかどうか、判断しかねています。
【そうか。それで正解だ。……97、少し――】




