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ヒロインなんですが誰も攻略してくれません!~誰か攻略してください~  作者: minori
第九章 楽しい日々が帰ってきたと思ったのに……

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93.ヒロインなんですが、救世主になるのは難しそうです


 現場はひどいものだった。

 到着するなり鼻をつく黒煙の匂い。

 エリオントが居る校舎はほぼ半壊状態だ。

 上級生や教師が魔力切れや怪我をして、それを保険医の先生が安全な場所に避難させたり、手当をしている。


 エリオントの勢いは衰えていない。

 戦っている中にクロトンが居ない事に気がついた私は、パッと避難している人達を見る。その中にクロトンは居なかった。どうやら怪我をしているから居ない訳ではないみたいだ。


「おい、動ける生徒は早く避難場所に行きなさい!」


 保険医の先生が私を見て怒鳴りながら避難場所を指差す。

 私は保険医の先生に駆け寄った。

 そして、目の前で手当をしている子の怪我を光魔法で治し始めた。


「すみません、生徒会です。生徒から事情を聞いて、こちらにまた来ました」

「あぁ、光魔法のアイリス嬢か。助かるよ、怒鳴ってすまなかった。魔力切れには気をつけろよ、無茶はしないように。多少の怪我なら手当だけで済むから」


 保険医の先生は疲れた様子で、ふぅと土埃と汗で汚れた顔を白衣を着た腕で拭った。

 汗と土埃と化粧が大分白衣を汚している、先生自体も1人でこの人数の対応はかなり大変だったのだろう。


「はい、ありがとうございます。あと、この騒動なんですが、迷い込んだドラゴンを生徒が驚いて攻撃魔法を放ってしまったみたいなんです。それでパニックになってしまったみたいで」

「なるほど、原因はうちにあるって事か」


 保険医がチラリとドラゴンを見る。

 

「まぁしかし、あぁなった以上止める事もできまい。手加減したら、こっちの方が死んじまうよ」


 それもそうだ、今でさえこんなにも生徒達や先生が怪我や魔力切れを起こす程なのだから。

 それでも、何か。もし、これでエリオントを止めることが出来るのなら。クロトンと一緒に。

 私は手に持っていたエリオントのぬいぐるみをぎゅっと握りしめた。


 先生は立ち上がる。

 ハキハキとした力強い口調や凛とした顔立ちから、勝手に自分よりもずっと背の高い女性だと思っていたのに、立ってみたら自分よりも少し小柄な女性だった。

 

「とにかく、私達は怪我人の手当だ。ドラゴンが倒れて正気を取り戻せたらあなたが治してあげなさい。出来るとしたら、これくらいだ。……正気を取り戻せたら、だけど。あと、アレ」


 先生は植え込みの近くに座り込んでいるクロトンを親指で雑に指差す。


「アレも生徒会の子だろう、行ってあげなさい。ドラゴンに攻撃できなかったみたいで、早々にファビアンに飛ばされていたから」


 絶望感を漂わせながら俯き座るクロトンをようやく見つけた。エリオントを攻撃出来ず、攻撃されているエリオントを目の前で見ていたクロトンを目にして、私はここに残るべきだったのだと後悔の念に苛まれる。

 私はすぐにクロトンの元に駆け寄った。


「クロトン……」


 大丈夫な訳がない。

 辛いに決まっている。

 なんと声をかけたら良いか分からないまま、私はクロトンの前で立ちすくんだ。


 クロトンはゆっくりと顔を上げ、私を見る。酷い顔だ。


「アイリス、ごめん僕やっぱりできなかったよ。アイツに魔法を放つなんて。どうしてこんな事に……昨日まで、こんなんじゃなかったのに。どうして……」


 顔をぐしゃりと歪めて、両手で顔を覆うクロトン。

 私はなんと言ったら良いか分からないまま、クロトンに目線を合わせるようにして目の前に座る。


 そして、手を広げてクロトンの目の前にドラゴンのぬいぐるみのキーホルダーを見せた。

 クロトンはそれを見て、パッと顔を上げる。


「それ、エリオントの……」

「そう、エリオントの。外れちゃったのをコルザが持っていてくれたみたいなの」

「そう….…演劇部員に感謝だね」


 クロトンが力無くそう呟く。


「あのさ、私もどうしたら良いかは全然分からないんだけど。でも、エリオントを落ち着かせたいし、皆を助けたいの。エリオントが身につけていたぬいぐるみを返してあげたり、なんとかしてあげたらなんとかならないかなって。……すごく甘い考えだけど」


 言いながら、どんどん私の口調も尻窄みになっていく。


 恐らく本当のヒロインのアイリスなら、クロトンがママになる事なく、エリオントはアイリスに懐いたのだろう。

 そして、こんな事態になってもドラゴンをアイリスが止められたのかもしれない。


「私は戦力外で何も役に立たないのに、こんな事だけ言いにきちゃって……本当に無策で申し訳ないんだけど……」


 ダメヒロインが故にここからも早々に戦力外通告をされてしまったくらいなのに、皆が心配だからという理由だけで戻ってきちゃって。

 先ほどよりも酷い状況になっている現場に、それでもヒロインならなんとかなるという甘い考えも消え失せてしまった。


「そんな事ないよ」


 クロトンがぐるぐると暗い思考回路を彷徨う私にストップをかけた。

 今度は私が顔を上げて、クロトンを見る。

 クロトンの顔から先ほどの絶望の色が消えていた。


読んで頂きましてありがとうございました。

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