89.ヒロインなんですがポンコツ故に色々気が付きません
生徒会室へ移動し、私は早速紅茶の準備をした。
ロベリアンはソファに寝そべりながら、片手でふわっと何やら扉や窓に片手で魔法をかけているようだ。
紅茶を淹れ終わり、ロベリアンの前に出すと、すぐに座り直し、甘い紅茶を口に含むなり、にこにこと嬉しそうに笑った。
「本当に甘いものがお好きですね。それより、何をされてたんですか?」
「防音魔法だよ。一応な、誰にも聞かれないように」
「防音魔法?」
そんなたいそうな事をしないといけない程の話なのだろうか。
私はゴクリと唾を飲み込み、ロベリアンの次の言葉を待った。
ロベリアンは紅茶を飲みながら、半分ほど飲んで満足したようで、コトリとカップをテーブルに戻し、足を組んで私を見る。ジロジロと何やら見つめられた後に、淡々と話し始める。
「多分だが、お前のその言ってた魔法陣は契約だろうな。ある事を漏らさないようにする契約。だからだよ、お前の母親がそんな風になったのも次の日に忘れてしまった事も。もしかしたら、忘却系の魔法も混ぜてんのかもな」
「なんでそんな魔法が……古い魔法、しかも緻密で面倒なんですよね。何をそんなに……あの、お母様が何か危ないとかそういう事なんでしょうか」
「ちなみに、その魔法陣何色だった?」
光り輝いていた魔法陣を、あの夜を思い出す。
「たしか……金色、みたいな眩い光だったかと思います」
「ふーん……まぁそう見えただけか」
「え?」
私の言葉にロベリアンはそう小さく呟いた。
聞き返すと、ロベリアンはこほんと咳払いをして話を戻す。
「まぁ呪いとかお前の親が危ないとかではないだろうから安心しろよ」
「出来ませんよ、記憶を失ったんですよ! でも、本当に一体……」
「本当にポンコツだな、お前ここまで話してまだ察しがつかねぇのかよ」
焦る私を見ながら腕を組み、あからさまに深く長いため息をつかれて私も少し冷静になる。
どういう事かとロベリアンを見つめれば、ロベリアンは少し考えた様子を見せた後にぶっきらぼうに私にこう告げた。
「前にも言っただろ、契約で言えない事があるって」
そう言われた瞬間、いつかの星輝石をうまく輝かせる事ができなかったあの生徒会室での会話を思い出す。
『やっぱり魔力が大きすぎるから、こんなに弾け飛んだりしちゃうんですか?』
『こいつの場合、多いだけじゃないからな』
『そういえば、変とか制限かかってるとか言ってましたよね? 一体、アイリスの魔力ってどうなってるんです?』
『……言えない』
『え、なんで?』
『王子とそういう契約をしているからだ』
『契約?』
『あーもう聞くな聞くな。どのみち、お前のコントロール不足には違いないんだから、やるしかねぇんだよ。おら、頑張れ』
……契約。
あの魔法陣は口外禁止の契約魔法で、それを破った場合は記憶まで失うようなものって事?
何それ、そんなの全くゲームの中に出てきたことなんてなかったのに。また、ゲームと違う話が出てきた。
それにそんな古くて難しい魔法を使ってまで隠さないといけない事ってなんだろう。
私はロベリアンから言われた言葉から色々な事を推察していく。もしかして、これもローランが関わっているのだろうか。
「あの、またこれも殿下との契約って事なんでしょうか。契約の魔法? 口外禁止の」
「さぁな、誰とは分からないが……まぁ状況的にお前の事だろ」
ロベリアンはお茶をまたゆっくりと飲みながら返答する。私は再度口を開こうとしたが、少し悩んでまた口を閉じる。ロベリアンも契約で言えないと言っていたし、多分分かっていても話せない事があるのだろう。
あの魔法陣が契約魔法の類だという事は分かった。
でも、本やロベリアンに聞いて分かる事はここまでのようだ。
一体、この秘密というのはなんなのだろう。
私はしばらく俯いて色々な思考を巡らせた。随分と考えていたようで、ロベリアンは紅茶を飲み切ってしまったようだ。
空っぽのカップをまたテーブルの上に置き、ソファの上に寝転ぶ。
そして、ロベリアンは寝そべってしばらくすると、私に急に問いかけた。
「……あの王子様殿は良いやつだろ?」
急な質問に私が顔を上げる。
「えぇ、もちろん」
「色々一人分かっていて、俯瞰して見てるのが癪に触る事もあるが」
「そろそろ不敬罪でしょっ引かれますよ、ロベリアン様」
「おう、やれるもんならやってみろ。大魔導師の俺を捕まえられるならな」
「まったく……そういう事言わないでください」
ロベリアンがそう悪態をつき始めるのを嗜めると、ふんっと横柄に鼻を鳴らす。
そして、寝そべったまま、目線だけをこちらに向けて再度私に問いかけた。
「アイツがお前にとって嫌な事すると思うか?」
「いいえ……」
「じゃあ、そんなに思い悩む事もないだろうよ」
要はこれが言いたかったようだ。
ロベリアンの不器用な優しさに、ふっと笑みが溢れる。
たしかに、ロベリアンの言う通り、悩み過ぎても仕方ないのかもしれない。
私はようやくぐるぐると途方もない思考から解放された。
ふぅ、と少し冷めてしまった自分の紅茶に口をつける。前にクロトンが淹れてくれた、花の蜜を入れた華やかな香りの紅茶は私の気持ちをふっと軽くする。
長く深い深呼吸をしていると、ロベリアンは私の表情が柔らいだのを見てふっと笑った。
「まぁ、真実を知りたくば、さっさと魔力のコントロールができるようになることだなポンコツ聖女。新学期からビシバシ行くからな」
「げっ、お手柔らかにお願いします」
ロベリアンのビシバシは本当に洒落にならない。
私が顔を顰めると、ロベリアンは嬉しそうに高らかに笑った。
こうして、冬季休暇は静かに幕を閉じた。
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