88.ヒロインなんですが珍しく自習しております
古書の香りが充満した帝国一の本が集まる場所、学園の図書室に私は朝から引きこもっていた。
お母様達がおかえりになって、私は学園の図書室でずっと本を読んでいた。
休暇中の学園にはクラブ活動の子達以外はほとんど人がおらず、図書室には司書のおじいちゃん先生が1人いらっしゃるだけだった。
私は魔法に関する本を山積みに横に置いて、朝から何冊も何冊も読み続けている。
お母様のあの魔法陣の事だ。
あれからお母様達が帰った後にお父様に改めて伺うも、難しそうな顔をして話せないと言い、謝られるだけだった。
あのお父様の顔を見て、続け様に聞くような事ができなかった私は手がかりを探しにここにやって来たのだ。
しかし、何冊読んでも手掛かりらしいものは見つからない。
あの魔法陣……いったい、なんだったのだろうか。
「珍しいな、お前が自主的に勉強だなんて」
「え、ロベリアン様!? なんでこちらに……」
「ここの本に興味があってな、よく来てるんだよ。あとくだらない職員会議があった」
「くだらないって言わないでくださいよ……そっか、お休み中でも先生方はお仕事ありますもんね」
「ったく、特別講師なんだからこんなもん参加させんなよな」
私の目の前の椅子にドカっと座り、勝手に私が読み終わった本を数冊取って、パラパラとめくり出した。
「……なんだ? 魔法陣? 随分と古い魔法について調べてんだな、どうした」
この世界では、もう魔法陣を使っての魔法はないと言っても過言じゃない。強い魔法や今じゃ殆ど使われないような魔法に多いからだ。
私も前世のゲームやアニメの知識から魔法陣の存在を知っていたが、この世界だとお母様の部屋で見たのが初めてだった。
「……そうだ! ロベリアン様! ロベリアン様なら魔法陣についてもご存知ですよね! 何せ魔塔の主様なんですから! この世界で一番魔法に詳しい方ですもんね!」
「ふふん、まぁな」
ロベリアンは私の言葉に機嫌を良くしたようで、嬉しそうに鼻高々にふんっと胸を反らした。
ここでロベリアンに出会えたのは運が良かったのかもしれない。
私は記憶のまま、あの夜に見た魔法陣をできる限り再現しながら紙に書いた。
ロベリアンはそんな私の様子をじっと見つめている。
「あの、この魔法陣なんですが、ご存知ないですか?」
「……こんなきったねぇ魔法陣見てもわかんねぇよ、めちゃくちゃだな」
「えぇ、そんな……たしかこんな感じだったんですよ」
「あのな、魔法陣が廃れた理由分かるか? 緻密過ぎるんだよ、言語を始め角度や長さ、方位まで色々な条件が満たされないと魔法陣なんてうまく作動しねぇんだ。お前のこれはもはや落書き。魔法陣でもなんでもねぇよ」
私はロベリアンの言葉にがっくりと肩を落とした。あの一瞬でそんなにあの魔法陣を覚えて再現できる訳がない。似たような魔法陣も本にはないし、もうここで詰んでしまったか。
あからさまに落ち込む私を見て、ロベリアン様はごほんと咳払いをした。
「で? こんな感じって事は魔法陣見たって事だろ、状況くらいは聞いてやっても良いぞ。そこから分かる事もあるだろうからな」
「ロベリアン様……! さすが! 帝国の叡知と呼ばれるだけありますね! ありがとうございます!」
「ふん、まぁな」
私の言葉に更に気をよくしたようで、ロベリアンは人差し指で鼻の下を少しかきながら機嫌が良さそうにする。
ほぼ半年でこの小さくてわがままな魔塔主の扱いを身につけてきた私は、そのままロベリアンにあの夜の事を細かく説明した。そして、お父様の態度の事も。
ロベリアンは黙ってしばらく聞いていると、ふんふんとしばらく考えた様子を見せて、顔を上げた。
「そりゃ、多分……あ、あれだな。人気のないところで話した方が良いな。おい、生徒会室行くぞ。誰もいねぇだろ。ついでにジュースも出してくれ」
「ロベリアン様ジュース飲みたいだけでしょ」
「ちげぇよ」
「ジュースはもう冬季休暇前に飲み切っていて、新しいものは休暇後になるんです。ダメになっちゃいますから。甘い紅茶ならお出しできるので、それで我慢してくださいね」
「うんうん、甘けりゃそれでも良いよ」
満足そうにそう笑いながら何度も頷くロベリアン。本当にこの人100歳超えてるのかな、という疑いの眼差しを向けながら、私達は図書室の本を片付けて、図書室を出た。
そして、私達は生徒会室に向かう。
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