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ヒロインなんですが誰も攻略してくれません!~誰か攻略してください~  作者: minori
第九章 楽しい日々が帰ってきたと思ったのに……

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87.ヒロインなんですが、私の知らない何かがあるみたいです


 カメリアが寝付いたのを確認した後、私は起こさないようにこっそりと部屋を出た。

 そして、お母様の部屋に忍び込む。

 薬で良くなるとお医者様が仰っていたとはいえ、私の光魔法で癒したらもっと早くにお体が楽になるだろうと思ったのだ。

 眠っているお母様の横に椅子を置いて、そちらに座りながらそっとお母様の頭あたりに手をかざす。


 ゆっくりと癒しの光を当てた。

 たまにこっそりとお母様やカメリアにバレないようにこうやって魔法をかけていたな、と静養地でのことを懐かしく感じながら、温かな光でお母様を包んでいく。


 子どもの時はうまくできなかったけど、学校であんなにロベリアン様に怒鳴られながらも魔法の勉強をしているんだ。きっと前よりもずっとうまくやれるはず。


 しばらくしてお母様の顔色が落ち着いてきた頃、お母様がゆっくりと目を開けた。

 起こしてしまったかな、と思いつつ魔法が上手くできるようになった事をどのように仰ってくれるかな、なんて事も考える。

 びっくりされるだろうか、嬉しそうな顔をされるだろうか。お母様に魔法を使っている所を見られるのが初めてだった私は、期待を胸に自然と少し力が強まった。


 すると、急にお母様が目がはっきりと開いて、パッと私を見た。

 そして、バッと上体を起こして、私の手を取る。


「私なんかの為に魔法を使っちゃダメ!!」


 お母様が酷く焦っている表情で、私の手を取ったまま怒鳴った。

 急な挙動に驚きつつも、お母様を落ち着かせようと私はお母様の手を握り返して落ち着いた口調で話す。


「お母様、大丈夫よ。私、学校で魔法の勉強もしていて、魔塔主様が直々に教えて下さってる位で……」

「ダメ、ダメなのよ! また、貴方が……」


 お母様がそう言うと、急にお母様の下に光り輝く魔法陣が現れた。

 急に何が起こったのか、と椅子から立ち上がり動揺している間に、お母様は口をパクパクとさせながら、またベッドの上に倒れてしまった。


「お母様!」


 お母様はただ気を失っていらっしゃるようだ。

 何が起こったのか分からなかった私は、急いでお父様の元へ走っていく。


「お父様! お母様が……急に魔法陣が現れて、気を失われて……!」


 扉を開けるなり、慌てたせいで支離滅裂になってしまいながらも懸命にお父様にそうお話しする。

 お父様はガタッと椅子から立ち上がり、執務机から書類がバサバサと落ちても気にされないといった様子でお母様の部屋まで二人駆けていく。


 部屋に着き、ベッドを見ると、お母様はすやすやとお休みになられているご様子で、顔色も良いようだった。

 お父様が額に手を当てたり、口元にそっと手を当てて呼吸を確かめたり、脈をみた後に、ふぅと息をついてお母様に改めて掛け布団をかけた。


「お父様、ごめんなさい。お母様……大丈夫でしょうか」

「あぁ、大丈夫だよ。大丈夫だから、アイリスも早く休みなさい。明日もカメリアと皆で遊ばないといけないだろう」


 お父様が疲れたような顔をして笑みを向ける。

 この表情、きっとお父様は何か知っているに違いない。


「先ほどの魔法陣って……なんだったんでしょう」


 これ以上踏み込めない空気があったが、おずおずとそう伺うとお父様は固まった。

 しばらくの沈黙が流れた後、しばらく何か考えていらっしゃるような表情を見せつつも、お父様は私の頭を撫でながら小さくこう言う。


「……すまないな」


 辛そうな顔でこう言われてしまうと、私もそれ以上お伺いする事ができない。


「いえ、夜分遅くにありがとうございました」


 私は小さく微笑み返し、お母様の寝室を出た。

 お父様はお母様の隣の椅子に腰掛け、項垂れたような様子で付き添われているようだった。


 翌日、お母様はお元気になられた。

 もうこの通り元気だから今日も沢山遊びましょう、と両手をグッと上げて元気そうに振る舞う。

 カメリアは嬉しそうにベッドにいるお母様に飛びついて、抱きついた。

 私もそっとお母様の近くに行き、カメリアに聞こえないように耳元でそっと静かに尋ねる。


「お母様、昨日はあれから大丈夫でしたか?」


 私の言葉に、お母様がきょとんとされた表情をした。


「昨日? えぇ、ごめんなさいね。急に熱を出したからびっくりしたでしょう」


 お母様はそういって微笑んだ。

 そんなお母様の様子に違和感を覚える。

 昨日あんな事があったのに、覚えていらっしゃらないようだ。あんなに必死に、真剣にお話をされていて、覚えていないはずがないのに。


 あの急に現れた魔法陣といい、お母様のご様子といい、明らかにおかし過ぎる。

 急に知らない世界に放り込まれたような不安感で私は、お母様にグッと体を寄せて焦る気持ちのまま昨夜の事についてお伺いした。


「あの、昨夜の……!」


「アイリス」


 そこにお父様がやってきたようで、制止するように私の名前を呼んだ。

 振り返ると、お父様は静かに私の顔を見ながら小さく首を横に振る。


 そして、いつもの調子でお母様とカメリアと私に甘々の態度を見せた。

 急にいつもの日常に突き飛ばされても、私の心は追いつかない。カメリアが私に笑いかけてから、私もいつものようににこやかに振る舞ったが、心の中はざわついていた。


 いったい、お父様は何をご存知なのだろうか。


読んで頂きましてありがとうございました。

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