84.ヒロインなんですが爆発できたのでしょうか……
「あぁ、いや……少し、アイリスと話したかっただけなんだ」
「え、そうだったんですか」
「皆とはずいぶん仲良くやっているのに、私とは少し距離がある気がしてね。一向に名前で呼んでくれないし」
なるほど。冬期休暇前の上司面談といったところか。
「いえ、さすがに殿下を名前で呼ぶのも恐れ多いのと……」
ゲームをやりこんでいたせいなのかもしれないが、ローランを名前で呼ぶとなんだか変な感じがするのだ。頭の中で声が響くというか。
でも、こんな変なこと……しかもゲームの話なんてローランには言えないし、なんと伝えたら良いか悩みながら、ローランに謝罪した。
「すみません、殿下と呼び慣れているだけで他意はないんです」
「あはは、ごめんね。責めているわけじゃないんだよ」
少し寂しそうに笑うローラン。
たしかに友人の中で自分だけ苗字呼びされるあれ、私も体験したことがある。ちょっと寂しかったな。ローランはそんな思いをしていたのかもしれない。
キャラ名としてローランという単語を出すことはできるが、呼称としてローランは頭の声云々以前に、なんだかとても言いにくいのだ。
「アイリスはもう、もみの木に星輝石を飾った?」
私が困った様子でいると、話題を変えてくれたようでローランは星輝石の話をした。
せっかく色々と私の為に動いていてくれたのに、ここでも残念な報告をしなければならないのか。
「あの……それも、ごめんなさい。実はこの大きさのものの星輝石だと、やっぱり弾け飛んでしまって」
そう言って、私は小さなパーティー用のバックから星輝石を取り出した。
コルザとミルティーユからもらった星輝石だ。赤い輝きと穏やかな黄色い輝きを放っている。
ローランはその星輝石を見て目を見開き、星輝石を持つ私の手をぱっと握った。
「誰に貰ったの?」
「コルザとミルティーユからですけど……」
「へ!? ……あぁ、そっか。ごめんごめん。ちょっと焦っちゃった」
焦った……?
もしかして、私が男の子から星輝石を渡されたと思ったのだろうか。それに焦ったと……?
そこで、名探偵アイリスの灰色の脳細胞がフル回転していく。
星輝石を男の子から渡されて焦る……ということは、もしかしてローランは私のことを好きになってくれてきたということ?
あぁ、でも私が未来の王妃だなんてそんな!
頭の中はそんな事でいっぱいでどうしよう、ローランルートに入ってしまったとぐるぐると思考が動き回り動揺していたところ、ローランが言葉を続けた。
「昔星輝石を私が一番に渡すって約束したんだよ、アイリスは覚えてないと思うけど」
推理は大ハズレのようだ。
なんだ、そんなことか……自分の予想が外れて少し残念に思っている中、ローランはポケットからまだ魔力を注ぎ込んでいない星輝石を1つ取り出した。
そして、星輝石に魔力を注ぎ込む。
「はい、受け取ってくれる?」
「あ……でも、星輝石って……」
「コルザとミルティーユからも受け取っているだろ?」
「そっか、そうですよね」
ローランは親愛の印として星輝石を私に渡してくれた。
「私と殿下って子どもの頃どんな話をしたんですか?」
「本当に色々だよ。それに、最初は殿下だったけど、アイリスは私をローランと呼んでくれたんだ」
「え、そうなんですか?」
「うん」
ローランの優しく照らす黄色い輝きを放つ星輝石を手の平に乗せて、眺めながらローランの話を聞く。あぁ、そうか。緊張しすぎて覚えていなかったけど、私は子供の頃、ローランのことを名前で呼んだのか。ついキャラ名で叫んじゃったとか、そんな感じなのだろうか。
懐かしそうに話すローランの表情はとても柔らかい。案外、緊張で記憶が飛んでいても私はうまくやっていたのかもしれない。……ん? ということはローランと呼ぶあの声はもしかして本当に小さい頃の私の記憶……?
「あぁ、だからか。殿下を名前で呼ぶと、なんだか頭の中で小さく子どもの頃の自分の声が聞こえる気がしたんですよね」
「え、ほんと?」
ローランは嬉しそうに私の両肩をそっと掴み、顔を近づける。
「ほかには何か思い出した?」
ローランがキラキラとした眼差しで私を見つめる。
私はそんなローランの様子に少し驚きながらも、正直に話した。
「あ、いや……特には……」
私はローランに尋ねられ、昔の記憶を辿ってみるも、やはりローランに初めて出会った時あまりにも可愛いローランと初めて会えた喜びと緊張で記憶が飛んでしまっている事しか思い出せない。
昔の記憶はそんなものしかないけれど、最近の星燈祭でも頭の中で声がした事を思い出した。
「あの、もしかして星燈祭へ行く約束もしていましたか? 今年、一緒に星燈祭に行こうよって……あれ、じゃあ殿下と約束したのになんで行った事ないんだろう……」
お父様も私に、今年は初めての星燈祭だねと言っていた。殿下は攻略対象キャラなんだから、殿下とだったら星燈祭に行っていただろうし……。なんで行った事がないんだろう。
私がそう呟くと、ローランはすっと私から離れる。
どうしたんだろうか、と思っているとローランはいつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべた。
「カメリアちゃんが生まれたり、バタバタしていたんじゃないかな」
「あぁ、そっか。そうなのかもしれませんね」
カメリアが生まれたのは冬の始まりの前、秋の終わり頃。
確かに星燈祭に行く暇がなかったのかも。
私がうーんと唸りながら考えていると、ローランはポケットからもう1つ星輝石を取り出した。
「さ、もう1つ星輝石があるよ。どうする?」
「私、木に飾ってみたいです!」
私がそう言うと、ローランはまた先ほどと同じように星輝石に魔力を込めた。
「じゃあ、飾りに行こうか」
「はい!」
私が笑顔で答えると、ローランは先に噴水の縁から腰を上げ、私に手を差し出した。私はローランの手を取り、立ち上がる。腕を差し出されたので、そのままもみの木に向かった。
もう人もまばらで、みんなホールの方に行ってしまっているみたいだ。
私はもみの木にローランの星輝石を飾る。
生徒の皆が飾った星輝石で色とりどりに輝いているもみの木に、ローランの優しい黄色が追加された。
鐘の音が小さく鳴り響く。もうそろそろ星燈祭も終了の合図だ。
「今年もお世話になりました、殿下」
「こちらこそ」
私たちは微笑みを交わす。
恋愛イベントは起こらなかったけど、星燈祭は特にトラブルもなく終わりそうで良かった。
ローランが覚えている私の事、私が忘れているローランの事。どんな事が他にはあるんだろうか。
横に居るローランを見ると、ローランは木ではなく、私を見ていたようだ。目が合った事にびっくりしていると、ローランは柔らかく笑った。
「そういえば言ったっけ?」
「え、何を?」
「今日のアイリスはこのもみの木よりも輝いているよ。とっても綺麗だ」
爽やかに笑うローランだが、私は王子様から言われたそんな一言に顔を真っ赤にして俯いてしまった。ローランから褒められると、いつもよりずっとそわそわして照れくさくて、顔が熱くなってしまう。私は顔をぱたぱたと手で扇ぐ。ローランはそんな私を見て、声を上げて笑った。
そうして、星燈祭は幕を閉じた。ほのかな熱さを頬に残して。
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