83.ヒロインなんですが爆発してこいと送り出されました
「殿下、お疲れ様です。落ち着かれました?」
声を掛けてきたのはローランだった。
今日はずっと会えていなかったが、ようやく会えた。
私とヴィオレとクロトンは雑務対応をしていたが、セージとローランは最終調整で主に会場で動いていた為、今日一日会えず仕舞いだったのだ。それにしても、さすがソレイユ王国の王子様……このホールの中で誰よりも輝いている。
白を基調にし、金色の刺繍で袖や胸元にさりげなく刺繡がされている。
ゲームでも見た衣装だけど、改めて実物を前にするとキラキラしすぎて眩しいくらいだ。いや、刺繍じゃなくて本人のオーラが。
「あぁ。そっちこそ、トラブルがあったみたいで……。さっきヴィオレに会って聞いたよ、大変だったね。対応してくれてありがとう」
「いえいえ、どちらかというとクロトンが解決してくれたので私は何も……」
「ううん、クロトンがいる前提の準備だったからヴィオレと二人でするのは大変だっただろう。ありがとう」
ローランはそう言って穏やかな微笑みを私に向けた後、コルザとミルティーユに向き直った。
二人は少し緊張した様子で背筋を伸ばす。
「二人とも星燈祭は楽しんでいるかい?」
「はい、殿下。素敵な催しを運営してくださってありがとうございます」
「ありがとうございます」
そう言うと、二人はローランに丁寧にお辞儀をした。
さすが貴族。いつもの明るい様子からは微塵も感じられない美しくて上品なカーテシーだ。本当のお姫様のように綺麗。
「そんな風に言ってくれてありがとう。とても嬉しいよ。頑張って良かったって思う、ね?アイリス」
「そうですね。こんな風に細やかに気が付いてくれる優しい友人が居て幸せです」
そう言うと、二人は少し恥ずかしそうに頬を赤くしながら俯いた。
「それでね、三人で楽しんでいたところ申し訳ないんだけど、アイリスを借りて良いかい?」
生徒会の用事だろうか。
コルザとミルティーユは頬を赤くしたまま何度も頷き、了承した。
二人は私に近づき、ローランには聞こえないような小さな声で私にこっそりと耳打ちする。
「爆発してきて!」
何やら違う期待をしているキラキラとした二人の笑顔に苦笑しながら、小さくお礼を言い、ローランの元へ一歩踏み出す。
ローランが腕を差し出してくれたので、私はそれに手を置いてローランの行く方向へ一緒に歩いて行った。
***
「アイリスは楽しんでた?」
二人で外のもみの木の方まで来た。もみの木の周りには沢山の生徒達が星輝石を飾ったり、談笑をしたりしている。
人が多いから、と少し離れたところへ行き、人のいない小さな噴水のある庭園のある場所を目指して歩きながら話をした。小さな噴水にも星輝石が散りばめられており、とても幻想的だ。
「はい、とても。ロベリアン様がずっと心細いみたいで離れなかったんですけど、ファビアン先生と今は仲良く談笑しているみたいです。クロトンは……無事かな」
「あはは、ファンクラブも星燈祭の空気に当てられてちょっとルール違反しちゃってるかもね」
ローランが楽しそうに声を上げて笑う。
私たちは噴水の縁に腰かける。そこからは星燈祭のメインスポットであるもみの木も見えて、なかなかの穴場だ。
「ここ、実は穴場なんだ。陛下から教えてもらって」
「そうなんですね」
実は知っています。ここにもゲームの中のあなたと何度か参りました。
実際にこんなに美しいだなんてことは思いも寄らなかったけど。それに、ゲームでは小さな噴水に星輝石が飾られていることなんてこともなかった。
水の中で美しく輝く色とりどりの星輝石につい目が奪われる。
「あ、そうだ……殿下それでどうされました?」
「へ?」
「生徒会の仕事ですよね? 何かあったかなって」
私がそう言うと、ローランは吹き出して笑い始めた。
そんなローランの様子を不思議そうに見つめていると、ローランは笑いすぎて涙が出てきたのをそっと人差し指で拭ぐう。
「殿下、どうかされました?」
「ううん、仕事熱心な子が生徒会に入ってくれて良かったなって。……まだアイリスもクロトンも生徒会に入って数か月なのに、なんだかそんな気がしないね」
「そうですね、色々ありましたもんね」
何があったんだっけ。
セージの小説家カミングアウト騒動、クロトンのファンクラブ問題、学園祭、豊穣祭、フェスタンでの前世との両親の遭遇、遠足地を決めるために遺跡と動物園下見、ドラゴンの誕生、星燈祭の準備、テストの勉強……思えば、この数か月でイベントが起こり過ぎなような。
今まで起こってなかった分がドカンと舞い込んできたのだろうか。
「ごめんね。私が学園に居られる内に色々と整えたくて。王政に携わるようになると、なかなか中の事が見えなくなるから学園に居られる期間中にかけているんだ。だから、皆の事をたくさん振り回していると思う。いつも付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ、後々には私の妹も入学する事になるんです。そんな風に生徒の立場に立って色々考えてくださるのはとても嬉しいし、ありがたいです」
「あぁ、そうか……カメリアちゃんは元気?」
「はい、手紙のやり取りをしているんですけど、外に出られる時間が増えてきて同い年の友達もできたみたいです。男の子もその中に居て、お父様がものすごく動揺していました……」
またあのお父様の娘バカっぷりが出て、その手紙を読んだ瞬間、大泣きで馬を走らせて静養地まで行ってしまって。執事と私がその様子を見て唖然としていたっけ。
さすがにお母様に窘められたらしい。お母様も元気かな……。
お母様がカメリアの出産で体を壊すなんて考えた事もなかったから、学園に入学してイベントが発生するまで見ないと頑なに意地を張って行かなかったのだ。星燈祭も花祭りも。
こんな事になるなら行っておいた方が良かったのかもしれない。お母様もお父様も私に付き合って、お家で盛大なパーティーに切り替えてくれていたのだ。
知らなかったとは言え、こんな素敵な意味合いのあるお祭りなのに、二人に申し訳ないことをしたな……。
密かに内省している間、ローランは私の話を聞いて、くすくすと笑っている。
「そうだね、公爵のそんな様子はすぐに目に浮かぶよ」
「お恥ずかしい限りです」
「いやいや、そんな風に家族仲の良いフルール公爵家の様子を聞くのが大好きだからね。私は」
楽しそうに話を続けるローラン。
それにしても、なかなか本題に入らないなと改めてローランに尋ねてみる。
「それで殿下、何をしたらいいんですか?」
私がそう問うと、ローランは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして私を見た。いったいどうしたんだろう……。
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