85.ヒロインなんですが燃え尽き症候群に陥っています
終わってしまった……。大好きなイベントが……。
私は頬杖をつきながら、ぼうっと窓の外を眺めていた。
完全なる燃え尽き症候群だ。いや、イベントが終わってしまったという事以外の事も頭の中から離れないのだが……一番頭を占めていることがある。
ローランだ。
ずっと昨夜のローランの事が頭から離れない。
完全に王子様にやられてしまった。いや、それ以外にも気になる事が多いのだけど。
私はローランに初めて会ったあの日、何をしたんだろう……。オタク故興奮しすぎて記憶が飛んでしまった自分の愚かしさを呪うしかない。はぁ、とまた小さくため息をついた。
「何ぼーっとしてんだよ」
パシっとヴィオレに書類の束で頭を叩かれる。
私は叩かれた頭を自分で摩りながら、ヴィオレを見た。
ヴィオレは呆れた顔で私を見ている。この恋愛経験のない男には私の繊細な感情の機微は分かるまい。私もヴィオレを見てふぅっとため息をつく。
「なんだよ」
「別に」
怪訝な表情をして私を見つめるヴィオレに、そっけなくそう返す。
しかし、ヴィオレは良くも悪くも深く考えないので、次の瞬間にはケロリとした調子で尋ねてきた。
「それより。冬期休暇、お前何するんだよ」
「年末年始だから、久しぶりに家族で集まる予定だよ。お母様次第だけど、私とお父様が静養地へ行くか、お母様とカメリアがこちらに来るかみたい」
「へぇ、良かったじゃねぇか」
「本当に良かったね……」
「あぁ、冬期休暇に家族に会えて嬉しいという感覚がわからん」
「わ、クロトン。それに、セージも。どうしたの、そんな暗い顔して……」
私とヴィオレの話を聞いて、げっそりとした顔のクロトンとセージがゾンビの様に背後から近付いてきた。
「聞いてよ、アイリス~。冬期休暇は新年一緒に居てあげたい事もあってエリオント……あ、ドラゴンの赤ちゃんの名前ね。エリオントに決めたんだ。エリオントのところに行くことになったんだけど、それに父親も着いてくるって聞かなくて……」
「あぁ、サジェス卿……エリオントのおじいちゃんだって言って張り切ってるんだっけ」
「どうせまた夜泣き悪化するの決定なんだから、一人で家に居てほしいよぉ……」
「まぁ、サジェス卿一人家に居るってのも寂しいんだろうし……が、頑張って」
半泣き状態のクロトンを慰める私達。
たしかにエリオントの育児明けのクロトンの顔は酷かったもんな、あの日々が冬期休暇中にまだ戻ってくると思うと……しんどいんだろうな。
「それで、セージはどうしたの?」
今度はセージに話を聞こうと、セージの方を向いた。
こちらもクロトンに負けず劣らず、げっそりとした顔をしている。
セージは暗い顔をしながら、重たい口調で話し始めた。
「姉が……帰って来るんだ」
「へぇ、良かったじゃない」
「良くない!」
ダンっと机を叩くセージ。私達はその音にびくりと肩を震わせた。
セージは怒りを滲ませた表情でわなわなと震えながら、話を続ける。
「お前らは姉の怖さ、面倒くささを知らないからそう言えるんだ」
「あー、女兄弟ってなんであんな強いんだろうなぁ。わかるよ」
「お前は女兄弟居ないだろう」
「あ、いやぁ……友達によく聞いているからー……はは」
ヴィオレは私の事を言っているのだろう。笑って誤魔化している。
それにしても、私ってそんなに強い姉だったっけ……と思い返してみると、ゲーム権の争いに全くの手加減なく勝ち取りに行っていた前世の自身の姿を思い出した。そもそもヴィオレが体育会系になったのも、私がゲーム権を勝ち取りに行くから違う方法で遊ぶしかなくてという流れだったような……。
……うん、思い出しても確かに姉というのは恐ろしい生き物のようだ。
「ごめんね、姉って強くて」
「アイリスは間違いなく優しいお姉さんでしょ、姉妹の空気感って良いよね。僕は一人っ子だからな~、そういう兄弟間の色々はわかんないや」
クロトンがのんびりとした口調でそう言う。
ヴィオレが優しい姉というところから静かにずっと首を振っているのは、クロトンにはちょうど見えていないようだ。私はキッとヴィオレを睨みつけ、黙らせた。
「そういや、もう一人の一人っ子仲間のローランはまだ来てないね」
ローラン、という名前を聞いてピクリと肩が揺れる。
そう、ローラン。ローランに会ったら、今日はどんな顔をしたら良いのか分からない気がする。いつもどんなふうに接していたっけ。
私が内心そんな風に考え込んでいる中、セージはクロトンの疑問に返答する。
「何やら遅れるとは聞いているぞ」
「そっか、まぁ今日はちょっと顔合わせて解散くらいかな」
「明日から冬期休暇だしな」
そう言うと皆がはぁ~と長い息を吐きながら、体を伸ばしたり机に突っ伏したりし始める。
連日の忙しさや明日からお休み、という事に皆でぼんやりとしてしまったようだ。
私も昨日の夜からよく眠れていなくて、同じく頭がぼんやりしている。いや、私のは完全に皆と異なる事情なんだけど。
その後しばらく皆で待っていたのだが、ローランは現れず。
念のため、ヴィオレが探しに行った。しばらくして戻って来るなり、忙しいから顔が出せそうにないとのことで、今日はこのまま解散となった。
「殿下って何かあったの?」
「いや……、俺はあんまり聞いてないんだけど。セージは?」
セージもゆっくりと首を振る。
ローランはきちんとした性格だ。今日みたいな節目のタイミングに顔も出さないなんて、何かよっぽどのことが起きたとしか考えられないのだが、何か起きたのだろうか……。
私が深刻そうな面持ちで黙り込んでしまうと、セージがチラリと私を一瞥していつもの落ち着いた口調で話した。
「何か深刻な事態が起きているなら、私かヴィオレが知っているはずだ」
セージがそう言うと、ヴィオレは何度も顔を頷かせて私を見た。
たしかに、私が心配し過ぎたのかもしれない。
「そう、か……。それもそうだよね。ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃって」
「たしかにローランこういうのはきちんとする性格だもんね、まぁ星燈祭の準備で結構ばたばたしちゃったし。仕方ないのかも。最近ずっと忙しかったしね、テストのお勉強会まであったし」
「面目ない……」
「あー、いやこれは僕もお世話になった側の人間だからさ」
クロトンが同調しながら、私を慰める。
たしかに星燈祭の準備と並行してやらなければならなかったことを、私の勉強会で潰してしまっていたのかも。申し訳ないな、休暇明けに改めてローランに謝ろう。
いつもの空気になってきたところで、皆で解散をした。良い休暇を、なんて言葉を掛け合いながら生徒会室を後にする。夕焼け色に染まった生徒会室は、少し寂しい雰囲気がした。
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