73.ヒロインなんですが勉強もド下手糞です
「だぁかぁらぁ、なんでさっき説明したのにこれがわかんねぇんだよ!」
「だって、さっきのと問題が違うもん……」
「ちょっとひねりきかせてるだけだろうが! 考えながらやってたらわかるんだよ!」
「ヴィオレ、もうちょっと優しく教えてあげて……」
星輝石のご指導から、お次は放課後の勉強会。
ヴィオレが夏季のパラ上げ強制合宿と同じように教えてくれているのだが、当たりが強い……。
ローランにやんわりと注意をされると、ヴィオレは少し不服そうにどすんと椅子に座り直した。
ローランとセージが勉強を見る、といった話だったけど、やはり星燈祭の準備は忙しいので、ローランが今手早く仕事を進めているところだ。
その代わり、とヴィオレに勉強を見てもらったのだが、いつもの兄弟のノリがどうしても出てしまって、目に余るよう。
クロトンがそんな私たちの様子を見ながら、テーブルに頬杖をついて呆れたようにこちらを見る。
「全く、ヴィオレとアイリスは仲が良いのに。仲が良すぎて、心配になる事も多いなぁ。相変わらず婚約はしてないんだよね?」
「絶対ない! 未来永劫ない!!」
「まぁそうだよねぇ、なんか兄弟みたいにしか見えないし」
「え!?」
私とヴィオレは顔を見合わせる。
やばい、私たちが兄弟だったとか、何か様子がおかしいと思われてしまったのかもしれない。
私たちは慌ててクロトンの言葉を否定した。
「そ、そんな私たちが兄弟なんてことあるわけないじゃない。ねぇ!」
「そうだそうだ、こんなやつと兄弟なんてありえない! 親も違うし、お互いの親の夫婦仲も良いしな! 万が一の事も絶対に無いぞ!」
「うん。いや、わかってるけど」
クロトンに冷静にそう言われ、ふぅと胸をなでおろす。
さすがに前世で兄弟だったとか、ここはゲームの世界だとかそういう複雑な事情の話をする羽目にならずに済みそうだ。
「とりあえず、ヴィオレはセージと交代してくれ。流石にアイリスが不憫なので」
ローランにそう言われ、ヴィオレは静かに席を立つ。
ちゃんとセージから教われよ、と一言ぴしゃりと言うと、クロトンの席の隣へ移動した。
ふぅ、ようやく鬼講師から解放された。
私は安心感からはぁと長く息を吐いた。ロベリアンは放任主義過ぎるし、ヴィオレは距離が近すぎるし、ちょうど良い講師が誰一人としていない環境はきつすぎる。
もう少しまともな先生が付いてくれていたらなぁ……と考えていると、セージがいつの間にか私の隣に来て、静かに椅子に座った。
……待てよ。むしろ、セージに勉強を教わるのって、ヴィオレに教わるよりずっと大変なんじゃないだろうか。
相変わらずの眉間の深い皺、寝不足なのか少し隈もある。しかも、私が勉強してこなかった事をあんなに怒っていたんだ。もしかしたら、あの時のように激しく怒られるのかも。
あぁ、ローラン。せめて優しいローランが良い。それか勉強を終わらせて早くクロトンが私の勉強を見てくれないかな。
そんな事を考えていると、セージがチラリと私の問題を見て、紙にさらさらと書き出した。
「この問題か、わからないと言っていたのは」
「あ、うん。そうなの……」
「ここは……」
セージは淡々と説明をしていく。
苛立ちも何も感じられないし、分からない時に聞き返すと、より易しい言葉で説明を加えてくれる。
予想外にあまりに分かりやすく優しく教えてくれるので、何が起こったのか分からなくなる程だ。
思わず呆然とセージを見つめていると、セージが眉をひそめた。
「なんだ……」
「あ、いや。セージって教えるのすごくうまいし、優しいんだなぁってびっくりして……」
「なんだ、急に」
「いや、私があんまりお勉強してこなかったのすごい怒ってたから厳しいのかなって勝手に思ってて」
「あれは忘れろ」
ぴしゃりとそう返される。
そう言えば、あの時生徒会の仕事も三人で捌いてたし、ローランに作家の仕事の時のことも隠していたつもりだったり、心身共にかなり余裕が無かったっけ。
あの時の事はセージ自身もあまり思い出したくない事なのかも。
当時のあの大騒動と、それを隠したがるセージがなんだか可愛らしくて、ふっと笑いが零れる。それをセージがジロリと睨みつけた。私は慌てて弁解をする。
「ごめんごめん。いっぱい怒られるかもって身構えちゃってたからね、拍子抜けしちゃったの」
「怒ったところでお前が解けるようになる訳でもあるまい」
「イライラはしてる?」
「いや、妹に日頃教えているからな。慣れている」
「あぁ、そっか。妹さんがいるって言っていたね。そういえば、お姉さんもいらっしゃるんだよね。セージは女兄弟に挟まれているのか」
「やめろ、あまり思い出したくないんだ……それに、ほら。さっさと次をやるぞ。ここは……」
妹さんとお姉さんの話をすると、何故かげっそりとした顔をするセージ。
そして、無理やり話を終わらせると、また次の問題に入る。相変わらずさらさらと分かりやすく教えてくれるから、すっと頭に入ってくる。
頭の良い人は説明もうまいものなのだろうか……。
一通り教えてもらい、最後にこれをやってみろと、数問提示される。
セージから教わった問題とほとんど変わらない為、すらすらと説いてみると、全問正解したようだ。セージが最後に確認をして、すべてマルがつけられた答案用紙を返された。
「ほら、できるじゃないか」
そう言うと、セージはぽんぽんっと私の頭を優しく撫でる。
びっくりしてセージの方を見ると、セージ自身もやってしまったという顔ですぐ私から飛び退いた。
「あぁ、悪い! つい、いつもの癖で……」
「いや、あの。全然! 気にしないで。教えてくれてありがとう、すっごくわかりやすかったから全部すぐ解けちゃった。ありがとうね」
なんだかすごく照れくさくて顔が熱くなる。
それよりもずっと赤い顔をしているのがセージなわけだけど、セージが照れれば照れるほど私も比例するように顔がどんどん熱くなっていく。
二人、気まずくなっているところに、ひょっこりとクロトンが後ろから顔を覗かせてきた。
「ん、どうしたの? 二人とも」
「あぁあ、クロトン! ううん、なんでもないよ。そっちこそどうしたの?」
「うん、僕の方は大体大丈夫そうだから」
「え!? 1か月も学校来れてなかったのに?」
セージだけじゃなく、ここにもとんだ天才がいた。
私が驚きながらそう言うと、クロトンはさらりとなんでもないことの様に答える。
「まぁ、暗記自体は元々得意な方なんだよね。それに大体は学校入る前にやってたから」
「やっぱり大抵の貴族のおうちはそうなんだよねぇ……」
「まぁ、うちは父が厳しいし、僕の生まれの事もあって結構神経質になってたからさ」
そう頬をかきながら、気まずそうに目を反らすクロトン。
そうか、クロトンの事を色々言う人がいるだろうから、守る為にクロトンのお父様は手を尽くしていたのか。
私の家は公爵家で、何か言われる事もないだろうし、お父様の力があればなんだって出来そうな感じがするから、まぁ……こんな仕上がりになってしまったわけで。
ゲームのアイリスはそんな中でも私みたいに怠けたりせず、ちゃんと勉強したりしていたんだろうから、偉いなぁ。
私が心の中で反省をしていると、クロトンがにっこりと笑いながら私に顔を近づけた。
「と、いう訳でアイリスのお勉強を見る人員として僕も割けそうだし、星燈祭の準備の方にもヴィオレとローランとセージがいけそうだからさ。まぁ、焦らずやっていこうよ。そんな顔してないでさ」
「あ……ううん。ごめんね、気を遣わせて。ありがとう」
私が落ち込んでいると思ったのか、私の口角を指でにゅっと上に無理やり上げて笑うクロトン。
誤解させてしまったなと思いつつ、優しさが嬉しくて思わず笑ってしまった。それを見て、クロトンも満足気に笑う。
テストまで2週間。星燈祭まで3週間。
この期間にテストの順位も上げて、心置きなく星燈祭を楽しみたい。
星燈祭のイベントをヒロインとして過ごせるように頑張ろう!
読んで頂きましてありがとうございました。
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