112.ヒロインなんですが、王子様へ秘密兵器を使ってみました
「やっぱりアイリスだ。どうかしたの?」
ローランの部屋に入ると、ローランは見ていた本から目を離して私に微笑んだ。
忙しくても必ずこうやって手を止める所が偉いな、と思う。ローランの優しいところというか。
数学教師の戸田なんて、なんだ花田。宿題なら減らさねぇぞ、ゲームしてねぇで勉強しろってノールックで言いやがったもんな。
……じゃなくて。
私は隠し持っていた秘密兵器をローランの前にずいっと押し出した。
お皿の上に白いハンカチを被せてあるそれを、ローランは急になんだろうとばかりに戸惑った表情で一瞥し、私を見る。
「……なんだい? これ」
「さぁ、この布を取ってください」
私の言葉に従ってお皿の上に被せた布を、ローランはさっと取る。
「これは……結局なんだい?」
「焼きおにぎりです」
「焼きおにぎり……? あぁ、リズの。新メニューなの?」
「いえ、私が個人的に作りました。母ち……いえ、夫妻に教えていただいたレシピです。お夜食に良いんだって言ってました。殿下、また遅くまで何かされるんでしょ? お供があると良いですよ」
二つ並んだ片面に茶色い味噌が塗ってある香ばしい焼きおにぎりを一つ片手で取り、まじまじと見つめる。
甘辛いお味噌を塗って香ばしく焼き上げた焼きおにぎり。お味噌の表面をほんのり香ばしくさせたいのに、バーナーがないから、ヴィオレにちょっと燃やして! と火属性魔法で焼き上げた傑作だ。
こんな事に魔法を使わせるな、とちょっと怒っていたけど、ローランに上げると言ったら素直にやってくれた。
焼きおにぎりを持ったまましばらく見つめるローラン。
焼きおにぎり初見のローランがこれを食べるのは、抵抗があるかと説明をしようと思った瞬間、口を大きく開けてパクりと食いついた。
本当に食べてくれた、と少しの感動を覚えて呆然と見つめてしまった。
しかし、西洋風の顔立ちのローランが焼きおにぎりを握っているのはなかなか面白い光景だな。
ローランは口を何度か動かして、ごくりと飲み込み、目を少しキラキラと輝かせて私を見た。
「うん、美味しいね。香ばしくて、ちょっと甘くてしょっぱい? これはなに?」
「味噌です、ちょっと味付けしたもので。香り付けに大葉を刻んだものを少し入れています」
「味噌……あぁ、あのスープに入ってるやつか。そのままでも食べられるんだね」
ローランは感動しながら、そのままもう一口と口に運んでいく。
よし、掴みはバッチリのようだ。
私は本題に入ろうと、小さく深呼吸をする。
そして、口を開いた。
「香ばしくしてくれたのはヴィオレなんです、表面が焼けないからうまく焦がしてって」
「火属性魔法でこれを?」
そう言うとローランは声を出して笑った。
ローランがこんなに笑った姿を見たのはかなり久しぶりかもしれない。
そう感じるほど、ローランはずっと何を考えていたんだろう。
「セージもヴィオレも心配してました、私もです。何かあるなら私はともかく二人なら力になってくれると思います。少し相談してください」
「あぁ……そうか、それで。僕を話させる為に、これを持ってきたって訳だね」
ローランが苦笑しながらそう言うが、しばらく黙り込んでしまった。
やはり、私達に言おうとしない。
しかし、甘いなローラン。
本当の秘密兵器はこれだけじゃないんだ。
「これだけじゃありません」
私が強くそう言うと、ローランは驚いたような表情をする。
更に私が強い口調で、後ろ手に持っていた秘密兵器をバッとローランの前に出した。
「話すと言ってくれないなら、この美味しい焼きおにぎりの三つ目は差し上げません!」
ローランは私にそう言われると、しばらくポカンとした後に気まずそうに言葉を絞り出す。
「いや、二つでお腹いっぱいかな……」
「へ!?」
驚く私の顔を見て、少しした後に目尻に涙を滲ませる程笑うローラン。
この方法で前世の弟ヴィオレに何度も吐き出させていた花田家の言わば警察で差し出されるカツ丼的なポジションの焼きおにぎりが全く効かないとは。
あぁ、でもたけるは結構アホな子だったからなのか。基準をあのバカに設定した私が愚かだった……。つまり、私もバカ……。
あらゆる事に絶望して立ち尽くしていると、ローランが目尻の涙を人差し指で拭いながら私に再び向き合った。
「ごめんごめん。色々と心配してくれてありがとう、まだ憶測の域を出ないから変に心配をかけても仕方ないと思って色々と調べていたんだ」
「調べ物なら私達だって役に立ちますよ」
「生徒会の仕事じゃないんだ」
「今更何を仰っているんですか。いつもヴィオレやセージやクロトンにするみたいに、にこにこ仕事をぶん投げたら良いじゃないですか」
「アイリス……言うようになったね」
ローランが苦笑しながら、私の話を聞く。
少し俯いて黙った後、顔を上げて私を見た。
「実はね……あっ、危ない」
ローランが焦りながら私の手を掴み、腕の中に引き寄せた。
急に何が起きたのかと動揺しながら、執務机の下に2人で隠れるようにして押し入った。
すると程なくして、グラグラと建物が揺れる感覚がした。
読んで頂きましてありがとうございました。
あまり間をあけるのに違和感があったのですが、試しに会話を1行開けてみました
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