107.ヒロインなんですが、お泊りイベントは強制終了のようです
ドタバタと慌ただしい複数の足音の方を見ていると、やがてそこには予想通りの人物が走ってくるのが見えた。
予想通りとはいえ、まさか会うとは思わなった人物が本当に現れるとは。私は呆れながらも、その人物に対して大きく叫んだ。
「やっぱり! お父様! なんでこんな時間に王宮に!?」
「アイリス!! ようやく見つけた!!」
少ししてへとへとの衛兵が数人、お父様の後ろから現れた。
これは……お父様、王城で盛大に追いかけっこをしていたな。
お父様はこちらへ走ってきて、私をひしっと抱き締めると涙目でローランをキッと睨みつけた。
「殿下、これは聞いておりませんぞ! 嫁入り前の娘を泊まらせるなんて!」
「事後報告になってすまなかった、予想外に時間がかかってしまって王城から直接の方が効率良く休めるかと思ったんだ。明日もあるし」
ローランが少々困ったような顔をしながらもお父様に応対するが、お父様の腕の力が弱まる事がない。鋭い眼光も涙混じりの瞳もそのまま、ローランを責め続けた。
「ローズ様といい、あそこのデュランダル公爵家の次男坊といい、うちの娘を狙う人間が本当に多いですからな! 信用なりません! うちの娘はまだ誰のところにも嫁がせませんからね!!」
「公爵、僕の声聞こえてるかな? 効率が良いからだと言っただろう」
「公爵ー! これも何度も言っていますが、俺とアイリスがどうこうなる事は絶対ないですー!!」
涙目で叫ぶお父様を困ったように微笑みながら対応するローランと、少し遠くからもきちんと反論するヴィオレ。
乙女ゲームイベントのお泊りイベントという最大の盛り上がりどころで、とんでもない事になってしまった。
ヴィオレの隣にいる父と母は口をあんぐりと開けてこちらを見ている。
普段は商才もあり、きちんと評価をされているお父様の一番情けない所を見られてしまった。これが現世の父だとは、なんとも言いづらい。
お父様はひしっと抱きしめていた私から少し体を離して、両肩を掴み、涙目ながらも真剣な眼差しで説得を始めた。
「アイリス、帰ろう! こんなところにいたら一体どんな外堀を埋められるか。明日必ずアイリスは現地に送り届けるので、このまま私達は失礼させて頂きます!!」
「ちょ、ちょっとお父様! ごめんなさい、こういう事なので私は失礼させて頂きます。あ、セージ!」
私はお父様の手をさっと振りほどいて、借りていた上着を脱ぎ、さっとセージに手渡した。
「ありがとう、あたたかくて助かったよ」
「いや……」
セージが口を開こうとするも、お父様の絶叫が王宮に響き渡る。
「あああああああ! サジェス卿のところのご子息まで! やめなさい、アイリス! 宰相の息子なんていう計算高い奴らとお付き合いだなんて! どこから計算されているか、わかったもんじゃないぞ。ああいう奴等が一番恐ろしいんだ!」
「お父様落ち着いて! ごめんなさい、ちゃんと連れて帰ります!!」
私はお父様の背中の裾を引っ張りながら、衛兵に案内してもらい城を後にする。
なんと馬をかっ飛ばしてやってきたというので、馬車までお借りする事態になってしまった。
馬車の中では、懇々と外交の為の対応であり、せっかくこちらに来て下さったフェスタンのご夫妻に失礼でしょうと諭したが、私の身を案じる言葉ばかりお父様の口から出てくる。
もう、本当に仕方のない人だ。
一頻り話したところで聞く耳を持たないお父様に、私ははぁと大きくため息をついて、ついには諭すのをやめてしまった。
でも、少し良い事もある。
この騒がしい一幕の最後に、お父様を引っ張りながら帰る中に視界の端に母が大きく口を開けて笑っている姿があった。
仕方のないお父様だけど、現世の家庭でも私が愛されている事は前世の父と母に伝わった……のかな。
とにかく、前世の父と母を安心させてあげられて良かったのかもしれない。
お泊まりイベント消滅は残念だけど……。
私は馬車に頭をもたれさせ、ため息をつきながら自分の今の家に向かう。
一日の疲れがどっと出てきて、欠伸が止まらないままフルール公爵家へと帰っていった。
読んで頂きましてありがとうございました。
お盆ですね。
お時間のある方、完結している作品がお読みになりたい方は別作品の『ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています』をお読みいただけると嬉しいです。
良ければリアクションやブクマ、評価、感想をいただけるととっても嬉しいです!励みになります!




