103.ヒロインなんですが、前世の両親の方がずっと成し上がってました
幸い天候に恵まれ、母ちゃん達は依頼を受け取ってから比較的すぐにこちらへやって来てくれた。
なんでもあのフェスタンの食糧難の時期から、国王と一緒に農地改革を行い大幅の規模拡大をしたらしい。それに併せて片手間でやっていたあのリズ弁当の事業も拡大していて、なかなかの豪商となっているらしい。
異世界転生してきて、一番成しているのはド田舎で愚直に農業に勤しんでいた平凡な父と母のようだ。すごい……。
そんな伝説の農商が来る、と我がソレイユ王国の貴族や農家の方々は緊張していたらしい。
しかし、馬車から出てきたのは平凡そうなおじさんとおばさん。
馬車から降りて私たちを見つけるなり、公爵令嬢と令息である私とヴィオレを抱きしめ周りを少し唖然とさせてしまった。でも、それがかえって平凡そうに見えても外交手腕にも長けた恐ろしい人間だと思われたみたい。
空気がピリッとピリついたのを感じて、苦笑してしまった。
父と母は丁重に会議室へ案内され意見を色々聞かれたらしいが、現場見ないとなぁという父の一言に今私たちは急いで高原地帯にある農地へと馬車を走らせている。
私とヴィオレ、両親は同じ馬車で。ローランとセージも別の馬車で向かっている。
今日はクロトンはお休みだ、お休みというかエリオントの様子を見に行く日に重なってしまったのだ。あの大きく育ったエリオントの相手をするなんて結局、今日の労働で彼が一番大変なのかもしれない。
私はクロトンを思って、そっと合掌した。
馬車の中ではお互いの近況をワイワイとした雰囲気で話し合った。
元々フェスタンで余所者だったらしい父と母だけど、リズの栽培以降すっかり国の人とも打ち解けて楽しい日々を過ごしているらしい。私たちと同じくらいの子たちとも働いて、初々しくてかわいらしいと言っている。
そんな話をヴィオレと一緒に馬車の中で聞き、相変わらず元気そうな様子で本当に良かった。
現地に着くと、農家の方々が畑に案内してくれて、父と母が話を聞いている。
ローランとセージ達と同様に私達も話を聞いているが、私はそれよりも畑の様子が気になってチラチラとそちらを気にしていた。
ざっと見た感じ、よく育っているように見えるのに、不作だなんてどういう事なんだろう。
「症状だけ聞くと、やっぱり暖冬のせいじゃないかと思うんだけどなぁ……」
父が一通り話を聞いて、そう呟いた。
取れた作物を見せてもらうと根腐れを起こしているものが殆どだ。たしかにこれじゃあ食べられないか。
土の中様子までは分からないものか、と農業の奥深さに感動している中、母がおもむろに畑の中に手を入れた。
しばらく考え込んだ後に父を手招きし、同じように手を入れさせた。
父もしばらく考え込んだ様子の後に、うーんと唸り出した。
「土が熱い気がするんだよな、これが原因なのかなぁ……」
私も同じように手を入れてみようとすると、肥料も使っているから貴族様がするような事じゃ……と農家の方々に止められたが、ローランとセージがそんな声も気にせずに父と母同様に手を入れた。
「思ったより冷たくない、というくらいですがやはりこれではダメですか」
「そうですね、外気温から考えるとこの温度は熱いくらいだと思います。暖冬だそうなのでそれと、肥料の発酵熱でしょうかね」
前世では普段あまり口数の多くない父だったけど、農業の事となるとよく話している。
新鮮な光景だな、と思っていると母がこっそりと私の横に立ち「お父さん、かっこいいでしょう」と私の耳元でそう囁いた。
状況が分かっているのか、この人は……。
内心呆れながらも、こちらの世界でも仲良くやっているようなのは良かったか、と思っていると父が立ち上がった。
そして、同じようにローランとセージも同様に立ち上がった。
改めて農家の方々と話し、どの畑も同じようなものだと聞いた父は念の為と言われた畑をいくつか回り、何度も畑の土に手を入れては難しい顔をしてしばらく考え込んだ。
根菜類は根腐れを起こしているし、葉野菜も冬にしては歯の裏に虫がついていたり、沢山食べられてしまったりしている。
5つ目の畑に手を入れた後、ゆっくりと立ち上がり、農家の方々とローラン達に言いにくそうに口を開いた。
「……手間ですが、場所を変えるのが結局一番早く収穫できるかもしれませんね。早く育つ野菜は何種類か提案がありますので」
「おぉ、それは有難い」
「道中に馬車の外からここなら良いのではと思った場所もありますので、ご意見を伺いながら開墾作業をしたいと思います」
そう言ってローランとセージ、父と農家の方が同じ馬車にさっと乗り、どんどんと進んでいく。
こちらに声もかけず、さっさと馬車に乗って行ってしまって、私達を置いて行ってしまった事に母は不満なようで、ぷくりと頬を膨らませた。
「もう、仕事の事になると周りが見えなくなっちゃうんだから。しょうがないわね」
「大変な時だもん、しょうがないよ。私達も後ろから追いかけよう」
「すみませーん、前の馬車を追いかけまーす!」
ヴィオレが遠く離れてしまっていた私達が乗ってきた馬車に、声を張り上げて手を振り馬車を呼んだ。
私たちも彼らの後を追おう。
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