100.ヒロインなんですが、不思議な夢を見ました。
目を開けたら、桜の花びらが風に乗ってひらひらと舞い落ちる学園の前だった。
あれ、今は冬のはずなのにと思ったはずなのに、それよりも早く学園内に入らなければという気がして学校に入る。
学園に入ると、今日は入学式だったようだ。
私は1年目の春と同じように、席に座り、ローラン達生徒会の入学式の挨拶を聞く。
場面は次へ次へと変わっていった。
ローランと挨拶を交わしたり、図書室でセージと本を読んだり、ヴィオレと剣を交えてみたり、クロトンとベンチでゆっくり話をして笑ったり。
楽しく学園生活を送った後、家に帰宅する。
家に帰ると、信じられないくらい空気が冷たかった。
デイジーが気を遣うようなおどおどとした笑みで迎えてくれるのを、無理に微笑み返して自室に行く。
暗い気持ちのまま自室の机の上に課題を広げる。机の上には、幼い頃の私と父と母の仲睦まじそうな小さな絵が飾ってある。
その幸せそうな様子にぐっと胸を熱くさせながら、課題を終わらせて、また本を読み始めた。
その後、また場面が変わった。
何度も学園に行っては、何冊も何冊も本を広げて読み込んだ。
何冊も何冊も。これではない、これでもないという気持ちに急かされながら。
何冊も何冊も読み込んでは求めていた内容ではない事に落胆しながら、次の本を手に取る。
早く見つけなければならない、という焦燥感だけが先走り、何を探しているのかは分からない。
また新たに本を手に取ろうとした時に、誰かが私の手を取って本を取るのを止められた。
「夢だよ、アイリス。目を覚まして」
その手の正体はローランだった。
ローランの真剣な眼差しを見て、ふっと我に返る。
正気に戻ったその時に初めて、自分が泣きながら何冊も本を手に取っていた事に気がついた。
「あれ……」
頬がひんやりと冷たくて目が覚めた。
手を当ててみるとひんやりとした頬にペタリと手が吸い付くような感覚がある、どうやら泣いていたようだ。
どんな夢を見ていたっけ。
ローランやヴィオレ、セージ、クロトンが出てきたような気がするんだけど。
でも、それなら何故泣いていたんだろう。
思い出そうとすればするほど、霞がかって消えていく夢の記憶。
私はベッドの上でしばらく動かずに、夢の記憶を辿ろうと試みた。
そのうちに、コンコンと部屋にノックの音が響く。
「おはようございます、アイリス様。今日も良いお天気ですよ」
デイジーがノックをして、鈴の音のような軽やかな声で部屋に入ってきた。
その音で、また夢の記憶が少し遠のく。
私はその記憶を逃さないように、先程の夢を反芻しようと試みたが、その様子がかえってデイジーに心配をかけてしまった。
「どうかされました? ご気分が優れませんか?」
いつもと違う様子の私にすぐ気が付き、駆け寄って心配そうな顔で私を見つめる。
デイジーの瞳を見たら、夢の記憶はついに私の手を離れて遠くに行ってしまった。
「ううん、大丈夫。おはようデイジー。ちょっと変な夢を見た気がしたの」
「まぁ、そうだったのですね。夢見が悪かったのでしょうか?」
デイジーが心配そうに私の顔を覗き込む。
私は余計に心配をかけないように手を横に振りながら、笑顔を向ける。
「あはは、それが思い出せなくて。起きた瞬間はなんとなく覚えてた気がするんだけど、もう思い出せなくて」
「夢なんてそんなものですよ、大事な夢ならきっとまたふっと思い出しますよ。さっ、お支度してしまいましょう。今日から登校ですよね?」
「あ、そうだ! 今日早く行かないとだったんだ、ありがとう。すぐ支度しなきゃ」
ベッドから飛び降りるようにして、支度を急いで始める頃には夢の欠片すら見えなくなってしまった。
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